(10)個別株への投資は分散投資が基本

 リスク資産への投資で主に株式投資を行うとして、インデックス・ファンドではなく、個別株に投資する方法もある。特に、日本株部分については、自分で投資銘柄の選択をしたい方も多いだろう。

 個別株への投資でも、業種を分散して十数銘柄くらいにバランス良く投資すれば、インデックス・ファンドに投資するのとそう変わらないリスク水準で、投資を「楽しむ」ことができる。

 投資のアイデアはいろいろあり、本稿では具体的には触れないが、一つだけ注意条項を挙げるとすると「分散投資が基本だ」というに尽きる。

 損した銘柄や、或いは儲かった銘柄に資金を集中して投資する傾向のある投資家を時々見かけるが、投資の仕方としては感心しない。

 またデイ・トレーディングを含めた短期のトレーディング的な投資は、誰もが一般的に資産を成長させることができるようなものではないので、「楽しみのために行うもの」だと整理しておきたい。

 傾向としてお金を持っているし、投資には肉体的な体力を要しないので、時間があることも含めて、退職者を含む高齢者は株式投資に向いた人達だ。「簡便法」であっさりと運用しても構わないが、株式投資の世界も大いに楽しんでみて欲しい(注;筆者の個人的な希望です)。

<番外>財政破綻よりもインフレよりも恐ろしいのは目の前のセールスマン!

 退職後の資産の運用について、あれこれ考えてみたが、退職後の資産運用だからといって、特別な要素はほとんどない。しかし、率直に言って、退職金をはじめとする退職者・高齢者のお金は、ビジネスのターゲットとして、金融機関や金融を仲介するセールスマンから狙われている。

 彼らの手口として典型的なのは、日本の財政赤字を強調して日本円建ての資産に対する不安感を煽って海外に投資する商品(各種のファンドやプライベート・バンクのサービスなど。おおむね手数料が高い)に誘導する手口だ。或いは、将来のインフレ・リスクを強調してリスク資産に投資させようとする。

 しかし、財政破綻もハイパー・インフレも急に起こる可能性が大きなものではない。こうした将来の曖昧な不安よりも、現実的に警戒しなければならないのは、他人(金融機関のセールスマンなど)を信じて不適切なリスクを取ったり、或いは余計な手数料コストを払ったりすることになる可能性だ。

 財政破綻やハイパー・インフレよりも「人間」の方がはるかに恐ろしいことを、最後にもう一度強調しておきたい。

退職後の個人のお金の運用の要点(上)を読む

【コメント】
 10年以上前の記事だが、意見は基本的に変わっていない。お金の問題は結論と理由が明確かつ一般的なので、時間が経っても意見を変える必要がないことが多い。取り上げた10項目について補足を述べておこう。

>(1)基本は普通の運用と同じ。退職後だからといって特別な方法はない
 これはその通り。

>(2)追加的な稼ぎに制約があることが唯一の特徴
 確かにそうなのだが、高齢になると将来使うお金の大きさが見えてくるので、資産額が大きい人は案外大きなリスクを取ることができることを付け加えておくべきだったと思う。

>(3)退職金が振り込まれた銀行では資産運用しない!
 全くその通りで1ミリの変更もない。

>(4)インカム・ゲインにこだわらない
 これも全くその通りで重要なのだが、まだ十分広く知られていない。

>(5)長期国債よりも1%以上利回りの高いものは理由を考える
 一般的な金利水準がかつてよりも一層低下していることに注意が必要だ。

>(6)ゼロサム・ゲーム的なリスクに投資しない
 これも重要。金などは投資に適さない。

>(7)保険(特に医療保険)をなるべく使わない
 今だと外貨建ての貯蓄性保険が全て運用には不適切であることを強調すべきだろう。

>(8)リスクを取りたくないお金はMRFか個人向け国債に
 MRFは利用しにくくなった。「個人向け国債変動金利型10年満期」は相変わらず良い。

>(9)リスクを取る運用は内外のインデックス・ファンドに4対6で投資
 10年以上経ったが変更の必要を感じない。

>(10)個別株への投資は分散投資が基本
 個別株の分散投資が意外に普及しないことが残念だ。

<番外>財政破綻よりもインフレよりも恐ろしいのは目の前のセールスマン!
 最も重要なアドバイスだ。文章の最後ではなく冒頭で強調すべきだった。

(2020年10月25日 山崎元)