(6)ゼロサム・ゲーム的なリスクに投資しない
これは少し分かりにくいかも知れない。
具体的には、株式、債券、不動産など収益を生むものへの投資はリスクテイクに対してプラスの見返りがある「投資」と考えてもいいが、金、原油などの商品相場、FX(外国為替証拠金取引)などでリスクを取ることはゼロサム・ゲームの状況での賭けに参加することにすぎないので、資産を増やすための資金運用対象には不向きだということだ。
株式・債券・不動産などに対してなされた「投資」は企業の利益や利息、家賃などの収益を生むので、たとえば100の価値を投じたものが1年後には101とか105といった期待価値になりプラスの収益を生む。
これに対して例えば外国為替のリスクは、自分が市場で円を売って外貨を買ったなら、市場のどこかに同額の円を買って外貨を売った人がいて、共に同じ大きさのリスクを持ちながら、損益の合計はゼロだ(注:単純な計算をすると+100%とマイナス50%の平均は+25%だと言う調子でプラスになるが、これは錯覚。実質価値ベースの期待値はゼロだ)。
同様に商品相場もゼロサム・ゲームの場であり、ゲームと割り切って参加するのは構わないが、運用対象には不適当だ。金の先物あるいは現物も同様だ。金の現物投資は、モノを所有することに伴う一種の満足感を伴うが、金融的には手数料が高くて効率の悪い金相場への参加にすぎない。将来のインフレ・リスクへの対応をお題目に売られることのある商品相場に連動する債券や商品ファンドのようなものも、実質的な手数料が高くて運用対象としては不適当だ。
高金利通貨への投資の場合、金利分だけ期待収益が高いのではないかという考えを持つ人もいるが、高金利通貨と低金利通貨の期待収益率は、通貨価値自体の下落・上昇期待で調整されているので(そうでなければ為替レートが程よく決まらない)、「相場観」の要素を別とすれば、高金利通貨の預金も低金利通貨の預金も期待収益は基本的には同じだと考えておくべきだ。
FXで高金利通貨のロング・ポジションを取りながらスワップポイントを稼ごうというポジションを、いかにも有利で安定的な運用であるかのように紹介する悪質な宣伝や初心者向けの書籍があるが、これは、意味的には借金をしてレバレッジを掛けて高金利通貨の外貨預金を買っているのと同じポジション(銀行間市場の資金操作はこれに対応するものだ)なので、有利でもなんでもない。
外貨預金や外貨建ての債券への投資の主たるリスクは為替リスクなので、退職金の運用をはじめとする個人の資産運用にはお勧めできない。
特に外債投資では、個人の小口資金(売買単位1億円未満)の場合特に価格が不利になりがちであり、為替取引も含めて証券会社に実質的な手数料を多額に払いがちだ。対面型の証券会社の場合、外債はしばしば手数料稼ぎの道具に使われている。
また、債券の信用リスクは債券投資の専門家以外には判断が難しく(注;格付け会社の格付けは信用できない)、個人の小口資金の場合十分な分散投資ができない(注;数十億円あれば専門家ならある程度適切なポートフォリオが組めよう)。そして、外債の運用手段として、投資信託を使おうとすると、信託報酬をはじめとする手数料が高すぎるものがほとんどだ。なお、これらの点は円建ての債券(特に社債)への投資でも共通の難点である。
結局、不動産を別とすると、個人がリスクを取って運用対象は内外の株式が最も無難ということになる。