(5)長期国債よりも1%以上利回りの高いものは理由を考える

 退職金は「持ち慣れない大きなお金」であることが多いので、ただでさえ「狙われやすい」お金だし、詐欺に近いものも含めて、投資として効率的ではない、いわゆる「投資話」は高齢者をターゲットとすることが多い。

 高利回りの債券もあれば、エビの養殖や和牛や森林への投資といった投資話もあるし、条件にデリバティブを組み込んだ仕組み債・仕組み預金のようなものもある。

 この種の怪しい商品は数パーセントから十数パーセント程度の高利回りを提示してお金を集めることが多い。年率2割とか3割とかとなるとさすがに怪しいと思っても、たとえば4%だの6%だのといった、高齢者が昔の金利として見たことがあるような程良い利回りだと、信じてしまいたくなる場合もあるようだ。

 しかし、国債の利回りよりも高い利回りを提示している商品にはほとんどの場合、考慮すべき何らかのリスクが存在するとみていい。

 発行体や銀行のクレジット・リスクであることもあるし、為替リスクなど相場のリスクである場合もあるし、デリバティブが絡むリスクの場合もあるし、実質的に詐欺の場合もある。

 どんなリスクを取るかは、退職者であろうとなかろうと本人の勝手なので、あまりお節介は言いたくないが、一般論として、どんなリスクを取っているのかを理解せずに運用するのは拙いといえるだろう。

 長期国債の利回りは新聞にも毎日出ているので、大まかな水準を常に知っておきたい。各種の金融商品や投資話に出てくる(期待)利回りが長期金利よりも1%以上高い場合は、「いったい何のリスクを取っているのだろうか?」と考える習慣をつけておきたい。

 最近でいうと、気になる商品は、個人に向けて販売されている社債だ。たとえば、そこそこに有名な企業が発行していて利回りが5%といったものがある。

 しかし、その企業が銀行からお金を借りようとする場合に5%ではとても借りられないだろう。一件一件が小口で手間もかかる個人を対象に債券を売ろうとする理由は、個人からでなければお金を集めることができないか、個人がお金を出してくれる条件がプロよりも大いに甘いかのいずれかだ。そもそも、社債が個人向けに売られている時点で、リスクを考えた場合の条件が悪いものが多いはずだ。

 また、そもそも、債券のクレジット・リスクの判断は個人には難しいし、格付け会社による格付けは、目下、信用できない。加えて、債券は取引される単位が大きいので、資金が小さい個人には不利だ。途中の換金の条件も悪いし、個人の資金では十分な分散投資を行うことが難しい。

 運用資産額が数十億円以上あれば多少話が変わるかも知れないが、総合的に考えて、社債は個人のお金の運用には不適当だと言い切っていいと思う。

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