(1)基本は普通の運用と同じ。退職後だからといって特別な方法はない
退職後のお金の運用だからといって、普通のお金の運用と異なることをしなければならないということはない。適切な大きさのリスクで効率的にリターンを目指すべきだし、金融機関による「中抜き」的なコストをできるだけ避けた方がいいといった基本は同じだ。
むしろ「退職後のお金の運用が特別なものだ」という先入観を持たないことに注意すべきだ。これを金融機関に利用されて、不適切だったり、効率が悪かったりする運用商品を購入するケースが少なくない。特にサラリーマンの場合、退職金の形で、日頃扱い慣れていないまとまった金額のお金が手元に入ってくることが多いため、これを何とかしなければならないと焦って、金融機関の窓口を訪ねて相談しようとするような行動が最悪だ。
また会社によっては、退職予定者を対象に、退職後の生活を考えるセミナーなどを開くケースもあるが、こうしたセミナーの講師や内容が金融機関の商品セールスに影響を受けていることがある。セミナーなどの背景がどのようなものであるかは注意が必要だ。
そのお金の(使用)目的が何なのかでお金の運用のやり方が違うかのようなことが言われることがよくあるが、これは嘘だ。適切なリスクの大きさや、リスクの取り方を意識する必要はあるが、お金の運用の目的はお金を増やすことに決まっている。お金の使途を強調するのは、金融商品を売るためのきっかけ作りであることが多い。
たとえば、20年間時間がある運用と、5年しか時間のない運用では、運用内容が変わると思われるかも知れないが、特に近年の取引コストが下がった運用環境では、やるべきことはほぼ何も変わらない。もちろん20年先の不確実性の方が大きいが、5年先も大いに不確実であり見通すことなど出来ない。実際には、その時その時に最適だと思える運用を選ぶしかないが、適切な運用内容は時間の経過によってそれほど大きく変わらない場合が多い(もちろん変化がある場合もあるが)。つまり、短期で最適な運用を積み重ねた結果、それほど大きく運用内容を変えずに、長い期間が経過することが多く、これが長期投資の正体なのだ。10年も20年も先の成長産業・企業が分かって運用ができるわけではないし、「長期投資」という念仏を唱えていれば損をしないというものでもない。
なお、純然たる運用の話ではないが、借金をしないことと、もしも借金がある場合はこの返済をリスクを取った運用よりも優先させるべきことは、退職後でも変わらない。リスクとリターンの効率から見て、借金の返済に勝る金融資産の運用手段はまずない。株式投資や投資信託などで儲けて借金を返そう、などと考えないことが大事だ。