天才科学者も計算できなかった人の狂気
近代物理学の父祖の一人であるアイザック・ニュートンは世界三大バブルの一つと言われている英国の南海泡沫事件で現在の価値にして約300万ドルに相当する額を失ったと言われている。1720年イギリス政府が売り出した「南海会社」の株式が爆発的な人気を集め、この動きに乗じようと、実態のない会社、つまり「泡沫会社」(Bubble company)の株価も急騰し、株式市場は狂乱状態となった。南海泡沫事件はこの投機ブームによる株価の急騰と暴落のことで、泡沫=バブルの語源となった出来事である。
天才学者ニュートンは南海会社株に初期段階で投資を行っていた。ニュートンは市場が投機の熱狂の初期段階にいることに気付き、それが最終的には悪い結末を迎えることを悟っていたため、早めに利益を得て自分の持ち株を清算し大金を稼いだ。
しかし、彼が市場から退場したのち、南海会社株は歴史上最も伝説的な上昇を経験することになる。バブルが膨らみ続けるのを見ていたニュートンは、いてもたってもいられず再び株式市場に飛び込んだ。しかし残念ながら、それが株価のピークだった。株価が急落する中で、やってはいけない「ナンピン買い」まで行っていたそうだ。
南海会社の株価の推移(1718年12月から1721年12月まで)
さらに注目すべきは、ニュートンは再エントリーした際、ほぼすべての手持ち資産を南海会社株に注ぎ込んだことである。ニュートンといえば、造幣局長官も務めており、金融や市場に精通している人物であった。しかしそうした人物でもバブルに踊り、バブルに翻弄されてしまうのだ。
歴史を振り返ると市場は常に投機的な「バブル」と「バースト」を繰り返してきた。そしてバブルのたびに「今回は違う」と信じられ、そして「バースト」を迎え、今回も同じだったとなる。バブルに共通する分母は何なのか。
私たちはどうやってここに来たのか?
・膨大な額の信用の積み上がり
・融資政策の緩み
・住宅価格の高騰 / 不動産投機
・ユニークな投資機会(ヘッジファンド)
・レバレッジの爆発
・世界中においてデリバティブ取引が好まれるようになる
・会計システムの悪用
・アマチュア投資家による投機熱の高まり
現在の市場をまさに映し出していると思われるであろう。しかし、このスライドはリーマンショックの1カ月前、2008年のプレゼンテーションのものである。つまり、投機サイクルは常に同じ道をたどるということである。
投機は価格の上昇による「正のフィードバック」のループによって強化され、その結果、「経験の浅い投資家」を市場に参入させることになる。ポジティブ・フィードバック・ループが続き、「陶酔感」が高まると、投資家は市場でのリスクを「レバレッジ」し始める。このサイクルは以下の通りである。
投機のサイクル
1)バリューレベルで投資家がマーケットに参入 → 2)株価が上昇 →3)変化が始まる → 4)投機家がIPOに目を止める → 5)初心者投資家がマーケットに参入 → 6)株価が上昇 → 7)ポジティブ・フィードバック・ループ、株価は上昇するのみ → 8)株価の上昇が心理的に強化される → 9)陶酔感が広がる → 10)レバレッジをかけた投資家が増える → 11)陶酔感が熱狂になり、クレジットが拡大 → 12)熱狂によりリスクの許容度が高まる → 13)リスク許容度の高まりによって詐欺や相場操縦が横行する → 14)マーケットがクラッシュし、投機が一掃される → 15)新たな規制とともに政府が介入 → 16)投資家はすべてのリスクを避ける
南海バブルで大きな損失を負ったニュートンは次のように言った。
「天体の動きは計算できるが、人の狂気は計算できない」
焦ったり、追い込まれた状態で大きな勝負をしてはいけない。相場は明日もやっている。