リベラル派のアイコンであるRBGの死と南北戦争2.0
米国では大統領選挙の直前に、リベラル派のアイコンであるRBGことルース・ベイダー・ギンズバーグ最高裁判事が亡くなった。
民主党はマルクス主義をかたる過激派を総動員し、中国共産党やG・ソロスらの資金援助によって行っていたBlack Lives Matter運動が裏目に出た。これでは選挙に勝てないとみた民主党は、郵便投票運動と訴訟作戦に戦術を切り替えてきた。
そうしたなか、大統領選挙の注目点は、テレビ討論会でのパフォーマンスに向かっていたが、ルース・ベイダー・ギンズバーグの死去で、それらが吹き飛んでしまうほどの事態となっている。
最高裁判事は憲法で終身という任期が与えられている。ある意味で大統領以上に米国の将来を決める重要なポジションである。
最高裁判事は9人で保守派5人、リベラル派4人とされているが、事実上、保守派は5人でなく4人だ。(保守派ジョン・ロバーツ長官がリベラルに転向)
共和党としては11月3日の選挙前にギンズバーグ氏の後任の保守派を送りこみたい。大統領選挙後に予想される訴訟合戦への対策である。
そして、仮に大統領選挙と同時に行われる議会選挙で、上院を民主党に奪われれば、トランプが大統領選挙で再選しても、レームダック状態になってしまうのである。これを防ぐには、最高裁判事を保守派で固めて、民主党の政策を違憲にするしかない。
トランプとバイデンのどちらが勝とうが、選挙後の米国は分断と混迷の時代に向かうことになる。分断された「南北戦争2.0」の米国民をどうまとめていくのか? 米国のこれまでの国民をまとめる常とう手段は「戦争」である。
ひとつの帝国の寿命の大きなサイクル
次の米大統領は最高裁が決める!?
おととい、9月29日に1回目米大統領選のテレビ討論会が行われた。
トランプ)ジョー、お前の党は社会主義に走ろうとしているぞ! お前の息子は薬物使用で軍を除隊になった。
バイデン)いいかげんに黙らないか。せいぜいほえ続ければいいさ…。
まるで、プロレスのマイクパフォーマンスのようなバイデンとトランプの非難の応酬で、「史上最悪の討論会」などと言われているが、テレビ討論会を退屈な予定調和にせずに、大衆受けするエンターテインメントをやろうとトランプは考えているのだろう。バイデンの話は中身がなく、トランプの話はわかりやすい。
メディアが非難するほど、米国の大衆は引いていない。米国人はプロレスが大好きなのである。トランプの魅力はケンカ腰のファイティングスピリットだ。トランプは意識的に支持者受けするヒール(悪役レスラー)をやっている。
今回の討論会では「場外乱闘」があった。司会のウォレス(右派のFOXテレビのアンカーだが民主党員)は、バイデンに対して、「サンダースやオカシオ・コルテスなどの社会主義的な経済政策やアンティファなどの暴動を支持するのかどうか?」という問いを何度も投げかけたのだ。そして、バイデンはそれらの急進的なリベラルを支持しておらず、距離を置いているという姿勢が明らかになった。サンダースを支持する民主党左派の支持者は、「軍産複合体」のかいらいであるバイデンを支持しないであろう。
米国のリベラルは結果的に軍産に取り込まれ、そのかいらいになってしまっている。軍産がかついでいるバイデン陣営はメディアを支配しているので、NYタイムズ等のメディアを使ってトランプの税金問題を討論会の直前に出してきた。しかし、トランプ支持者にとっては納税問題などどうでもいいことである。トランプよりバイデンやハリスのほうが稼いでいるということだろう。しかし、一回目の討論会は「納税問題」の弁明に追われたトランプがやや不利に映る展開となっている。
いずれにせよ、今回の誹謗中傷、妨害、ののしりあいに終始した米大統領選のテレビ討論会は、「南北問題2.0」と呼ばれる米国社会の分断をより鮮明にする結果となった。
米大統領選の結末について運用者や政治評論家に聞いても、だれもが予測不可能だと述べている。米国の大統領はトランプの言うように、「最高裁」が決めることになるかもしれない。
メディアでは株式市場の先行きについて楽観的な報道がされているが、大統領年去年のシーズナリー・サイクルを見ると、9月同様に10月の相場も下げ基調になりやすい。
以前よりレポートやラジオ番組で「秋相場には注意が必要」とコメントをしていたが、ボラティリティの大きな動きは来月にかけても続く可能性がありそうだ。グッゲンハイム・パートナーズのスコット・マイナード氏は10月にかけてもリスク資産の下げが継続するとして、「リスク資産の後退は季節的な要因によるものである。10月にはさらなるダウンサイドが予想されるだろう。テクニカルもさらなる下げを示唆している」と、ツイートした。
スコット・マイナードのツイート
マイナード氏によると、この調整はあくまで季節的なものであり、時期を過ぎれば金融緩和の継続により資産価格のバブルも継続するとの見通しを示している。
バイデンが大統領になることをリスクだと感じている米国の企業幹部たちは、自分の持ち株の売却に動いているという。誰の目にも明らかな米国の分断と政治的混乱によって、10月の相場は急落や乱高下といった波乱含みの相場展開を想定しておくべきだろう。
米大統領選挙年のNYダウのサイクル
今回の米大統領選は米国の未来を決すると同時に、歴史上最悪のイベントリスクでもある。今後4~5週間はボラティリティが高い困難な取引環境となるだろう。にもかかわらず、市場参加者のエクスポージャーは上昇したままである。ボラティリティが高いままで、市場がかなりトレンドレスのままであれば、これらのエクスポージャーは来月に落ちる可能性が高い。
筆者は、先週、ポートフォリオのなかで、市場の価格変動のリスクにさらされている資産の割合をチェックし、先週はエクスポージャー(市場の価格変動リスクや特定のリスクにさらされている金額や残高)を減らす作業を行っていた。
ラリー・ウィリアムズは、「マネーマネジメントとは、トレードにおいて最も重要なルールである。トレンドや価格ももちろん重要だが、自分の資金をどう扱うべきかを分かっているかどうかは最も大切なことである」と述べている。
備えあれば、憂いなし。破産しないで運用を続けるには、大きなイベントの前には、<リスクの大きいポジション>をなるべく持たないことである。
2020年代はグレート・リセットの時代
今後、5年間の米国の問題について、世界最大のヘッジファンドを率いるレイ・ダリオは以下のように述べた。
第一に、借金と貨幣のサイクルがある。お金の価値はどうなるのか?借金はどうなるのか?ドルはその価値を維持するのか?この財政は誰が支払うのか?どうやって?何が効くのか?これが第一だ。
第二に、富、機会、価値観のギャップに対処しなければならない。お互いに害をなすような形で、お互いに歩み寄るのか、それとも事態が悪化しても協力していくのか。
第三に、既存の米国の力に挑戦する中国の大国の台頭である。これはうまく処理されるのか。
来年のダボス会議テーマは「グレート・リセット」である。世界経済フォーラム(WEF)が「グレート・リセット」をテーマにするとは驚きだ。
来年のダボス会議のテーマは「グレート・リセット」 資本主義の「リセット」議論
NY大学のヌリエル・ルービニ教授は『2020年代に訪れる大不況』というレポートで、「経済のより広範なレベルがデジタルの影響を受ける。何百万人もの人々が職を失ったり、収入を減らしたりするなか、貧富の格差はさらに拡大するだろう。将来のサプライチェーンショックを防ぐために、先進国の企業は低コスト地域から高コストの国内市場に生産を戻す。しかし、この傾向は、国内の労働者を助けるのではなく、自動化・AI化をさらに加速させ、賃金に下押し圧力をかけ、ポピュリズム、ナショナリズム、排外主義の炎をさらにあおるだろう」と述べている。
天才科学者も計算できなかった人の狂気
近代物理学の父祖の一人であるアイザック・ニュートンは世界三大バブルの一つと言われている英国の南海泡沫事件で現在の価値にして約300万ドルに相当する額を失ったと言われている。1720年イギリス政府が売り出した「南海会社」の株式が爆発的な人気を集め、この動きに乗じようと、実態のない会社、つまり「泡沫会社」(Bubble company)の株価も急騰し、株式市場は狂乱状態となった。南海泡沫事件はこの投機ブームによる株価の急騰と暴落のことで、泡沫=バブルの語源となった出来事である。
天才学者ニュートンは南海会社株に初期段階で投資を行っていた。ニュートンは市場が投機の熱狂の初期段階にいることに気付き、それが最終的には悪い結末を迎えることを悟っていたため、早めに利益を得て自分の持ち株を清算し大金を稼いだ。
しかし、彼が市場から退場したのち、南海会社株は歴史上最も伝説的な上昇を経験することになる。バブルが膨らみ続けるのを見ていたニュートンは、いてもたってもいられず再び株式市場に飛び込んだ。しかし残念ながら、それが株価のピークだった。株価が急落する中で、やってはいけない「ナンピン買い」まで行っていたそうだ。
南海会社の株価の推移(1718年12月から1721年12月まで)
さらに注目すべきは、ニュートンは再エントリーした際、ほぼすべての手持ち資産を南海会社株に注ぎ込んだことである。ニュートンといえば、造幣局長官も務めており、金融や市場に精通している人物であった。しかしそうした人物でもバブルに踊り、バブルに翻弄されてしまうのだ。
歴史を振り返ると市場は常に投機的な「バブル」と「バースト」を繰り返してきた。そしてバブルのたびに「今回は違う」と信じられ、そして「バースト」を迎え、今回も同じだったとなる。バブルに共通する分母は何なのか。
私たちはどうやってここに来たのか?
・膨大な額の信用の積み上がり
・融資政策の緩み
・住宅価格の高騰 / 不動産投機
・ユニークな投資機会(ヘッジファンド)
・レバレッジの爆発
・世界中においてデリバティブ取引が好まれるようになる
・会計システムの悪用
・アマチュア投資家による投機熱の高まり
現在の市場をまさに映し出していると思われるであろう。しかし、このスライドはリーマンショックの1カ月前、2008年のプレゼンテーションのものである。つまり、投機サイクルは常に同じ道をたどるということである。
投機は価格の上昇による「正のフィードバック」のループによって強化され、その結果、「経験の浅い投資家」を市場に参入させることになる。ポジティブ・フィードバック・ループが続き、「陶酔感」が高まると、投資家は市場でのリスクを「レバレッジ」し始める。このサイクルは以下の通りである。
投機のサイクル
1)バリューレベルで投資家がマーケットに参入 → 2)株価が上昇 →3)変化が始まる → 4)投機家がIPOに目を止める → 5)初心者投資家がマーケットに参入 → 6)株価が上昇 → 7)ポジティブ・フィードバック・ループ、株価は上昇するのみ → 8)株価の上昇が心理的に強化される → 9)陶酔感が広がる → 10)レバレッジをかけた投資家が増える → 11)陶酔感が熱狂になり、クレジットが拡大 → 12)熱狂によりリスクの許容度が高まる → 13)リスク許容度の高まりによって詐欺や相場操縦が横行する → 14)マーケットがクラッシュし、投機が一掃される → 15)新たな規制とともに政府が介入 → 16)投資家はすべてのリスクを避ける
南海バブルで大きな損失を負ったニュートンは次のように言った。
「天体の動きは計算できるが、人の狂気は計算できない」
焦ったり、追い込まれた状態で大きな勝負をしてはいけない。相場は明日もやっている。
9月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」
9月30日のラジオNIKKEI「楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー」は、土居雅紹さん(楽天証券常務執行役員)をお招きして、【イベントリスクとコロナ禍でのポートフォリオ】というテーマで話をしてみた。ぜひ、ご覧ください。
投資戦略の分散例
ラジオNIKKEIの番組ホームページから出演者の資料がダウンロード出来るので、投資の参考にしていただきたい。
9月30日: 楽天証券PRESENTS 先取りマーケットレビュー
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