※本記事は2014年10月17日に公開したものです。

個人向け国債・10年変動型

 市井の人々が、将来のインフレのリスクを全く心配せずに済むようになったら、金融商品のセールスマンは相当に困るにちがいない。そう思わせるほどに、これまで「インフレのリスク」は、リスクを取った資産運用の必要性を説くために使われてきた。「将来のインフレ・リスクのヘッジのために」というのが、長らく続いたデフレの時代にあってさえ「貯蓄から、投資へ」を勧誘するセールスマンの常套句だった。

 確かに、老後に備える生活設計を考える場合、蓄えた金融資産の実質価値をどうやって減価させないようにするかを考える必要がある。将来にわたってデフレが確実だというのでないかぎり、「タンス預金」では心許ないことは自明だろう。

 但し、これまでのようにデフレないしはゼロ・インフレの場合、多くの日本人が賢くもそうしてきたように、銀行の預金にお金を置いても問題はない。固定金利の長期債なら、なお良かった。

 また、長短共にゼロに近づいた超低金利の環境下では、金利がほぼゼロでも機会費用が小さいので、流動性・利便性の高い普通預金の相対的な優位性が高まっていると考える事ができる。普通預金にお金を置いておくことが、それほど「もったいなくない」のだ。

 一方、長期国債をはじめとする、将来のキャッシュフローが固定された長期の債券や、部分的な途中解約でも金利の優位性を失ってしまう定期預金などは、将来時点で金利全般の上昇を伴うはずの物価上昇局面に対して、全く強くない。

 安全に運用できる対象で、この点について相対的な強みがあるのは、個人向け国債の10年満期で変動金利のタイプだ。

 これは国債なので、先ず、個別金融機関の経営リスクを気にせずに預金保険の限度を超える額を運用出来る「ペイオフ対策商品」である。さすがの財務省も「国債なので、銀行預金よりも安心です」とは謳わないが、預金保険の1千万円を超えるお金を安全に運用したい向きは覚えておきたいポイントだ。

 また、このタイプの個人向け国債は、将来金利が上昇しても通常の長期国債の価格のように元本割れしないし、高水準の長期金利で利回りを固定したいようなチャンス局面が来たと思った場合に、直近利払い2回分のペナルティで、元本で換金出来るという実質的プットオプションが付いている。

 目下の利回りは、半年物と考えるとマーケットで形成されている金利よりも非常に有利だし、銀行の5年、10年の定期預金と較べても見劣りしない。総合的に見て、「国債暴落」にも「銀行破綻」にも強い、大変優れた運用対象だ。