2.家庭用ゲーム機の巣ごもり特需を推定してみた

1)リアルエンタテインメントの完全再開には時間がかかりそう

 リアルエンタメの世界は、日本では6月から徐々に再開に向けて動き出しています。ただし、映画館も劇場も座席を1席空けた状態で営業しており、収容人数は通常の半分です。映画館には人出が戻りつつあり、劇場も人気の演目には客が集まっていますが、感染を恐れ
て行かない人たちもいます。音楽ライブは、小規模ライブは開催される場合がありますが、
まだ少ないようです。国の指針では人と人との間に十分距離をとっていれば5,000人までの
ライブならやってもよいことになっていますが、主催者側が感染の発生を恐れて、またコス
トの問題もあり自粛が続いています。日本のリアルエンタメは再開し始めていますが、完全
に再開するにはまだ時間がかかりそうです。

 感染者と死亡者が日本よりも多い欧米は日本よりも状況が厳しく、映画館は本格的に開いていません。ブロードウェイの再開は来年1月になりそうです。欧米は日本よりも強い「巣ごもり」需要があると思われます。

2)家庭用ゲーム機の「巣ごもり」特需の規模は、8,000万~2億5,000万台

「巣ごもり」が今期だけなく、来期も続くという前提に立って、家庭用ゲーム機の巣ごもり特需を推定しました。

 まず、家庭用ゲーム市場が成立している国の人口を合わせると、10億5,300万人になります(中国[香港を除く]は家庭用ゲーム市場が確立されているとは言えないので入れていません)。この80%をリアルエンタテインメントのユーザー(ここではリアルエンタテインメントを、映画館、音楽ライブ、舞台演劇、握手会などのファンミーティング、テーマパークとした)としました。日本では、推定で1億人以上がリアルエンタメのユーザーと考えられるため、これの対人口比を諸外国にも当てはめました。このように計算すると、リアルエンタメのユーザーは、世界の家庭用ゲーム対象市場で8億4,200万人となります。

 ちなみに、世界の家庭用ゲーム人口は約2億人と推定されますが、ゲームしかしない人と、ゲームだけでなくリアルエンタメでも遊ぶ人が両方います。上記のリアルエンタメユーザー以外の2億1,100万人にはゲーム、動画などデジタル、オンラインの遊びしかしない人と、所得水準が低いためリアルエンタメに行けない人が含まれています。

 2~3月以降、各国で都市封鎖や自粛が行われた結果、上記の家庭用ゲーム市場におけるリアルエンタメユーザー8億4,200万人が突然遊びに行けなくなりました。リアルエンタメは、1回ごとにお金がかかるため、個々人の予算もそのまま未消化になりました。そのうちの一部が家庭用ゲーム市場に来たと考えられます。前述のように、日本では徐々にリアルエンタメが再開していますが、急には無理です。海外では日本以上にリアルエンタメは厳しい状況です。そのため、今もリアルエンタメユーザーが外に遊びに行けない状況が続いていると思われます。

 家庭用ゲーム機の巣ごもり需要(特需)の規模は、少なめに見積もって(1人が1台購入するとして)、

8億4,200万人×10~20%=8,000万台~1億7,000万台
多めに見積もって、
8億4,200万人×20~30%=1億7,000万台~2億5,000万台

と推定しました。すなわち、最小で約8,000万台、最大で約2億5,000万台の特需が通常の実需以外に発生していると考えられます。2020年3月期のニンテンドースイッチ、プレイステーション4、Xbox Oneの販売台数は合計で約4,000万台(推定)なので、少なくともその2倍、多めに見積もるとその約6倍の特需が既に発生していることになります。

表1 家庭用ゲーム機:巣ごもり需要の推定

出所:楽天証券推定(人口は国連統計2019年)            
注:リアルエンタテインメントは、映画館、音楽ライブ、舞台演劇、ファンミーティング(握手会など)、テーマパークとした

2)ニンテンドースイッチ、プレイステーション4ともハードウエアの増産が期待される

 任天堂も、ソニーも、ニンテンドースイッチ、プレイステーション4の会社計画に対する生産は正常化しているとしていますが、巣ごもり特需の規模があまりにも大きいため、店頭に出すと瞬間蒸発してしまうのです。

 実は、任天堂もソニーも、ニンテンドースイッチとPS4の会社計画以上の増産はまだ決定していません。一方で、両ゲーム機とも長期にわたって店頭で欠品が続いています。そのため、ニンテンドースイッチについては、早期に増産へ向かうと思われます。ソニーは、PS5発売後のPS4の位置づけを決めていない模様なので(PS5発売後もPS4の販売を続けるか、PS5発売後は早期にPS5に一本化しPS4は終息させるか)、PS4の増産は不透明ですが、いずれは増産に向かうと思われます。

 リアルエンタメユーザーの多くはゲーム初心者と考えられるため、「あつまれ どうぶつの森」「マリオカート8デラックス」など初心者から上級者まで遊べるゲームを数多くそろえているニンテンドースイッチにより多くの特需が向かっていると思われます。任天堂にとっては、ゲーム人口の拡大という長年の経営課題を成就する絶好の機会であり、これはソニーにとっても同様です。今回の巣ごもり特需を短期的なものとみなし、現時点では計画以上の増産を決めていない両社の情勢判断の甘さ、経営判断の鈍さを指摘しないわけにはいきませんが、早期のハード増産が期待されるところです。

3)リスクは不況

 なお、家庭用ゲーム市場にとって、また、任天堂、ソニーの両社にとってのリスクは不況です。家庭用ゲームの既存ユーザーと新規ユーザーは、数万円のハードを購入する余裕がある、ある程度所得水準の高い人たちと思われます。ただし、今以上の不況になったときに、この巣ごもり特需だけでなく、通常の実需が維持できるかは、その時にならなければわかりません。