「全て売り!」の発想から卒業し「部分的に売る」

利益確定を考えるとき、一般的な個人投資家は「全て売り!」の発想をしていまいます。今あるリスク資産についてとにかく全部売りに出して利益を確保しようという考え方です。実はこれも利益確定としてあまりうまい方法ではありません。

この考え方の落とし穴は、「さらに値上がりしたとき」どうするか、という対策が出せないことです。とにかく現金化して利益は得たものの、また購入するところでつまづいてしまい、現金を寝かしてしまうことがよくあります。

そこで考えてみたいのは「部分的売り!」です。たとえば、100万円購入していた投資信託が85万円まで低迷したものの、今は120万円まで上昇しているとします。このとき120万円相当をすべて売るのではなく、当初購入した額との差分の20万円分のみ売却するようなイメージがこれにあたります。残りの100万円分はそのまま運用を継続し、将来値上がりしたらまた部分的売りを出していきます。

年金運用や機関投資家の場合「全部売り!」を出すことは絶対にありません。運用のゴールはまだ遠くにあるからです。当初保有計画を建てていた資産配分を上回ったリスク資産のウエートのみを「部分的売り!」としていきます。30%を日本株式に投資していたら、望外の値上がりにより保有割合が40%に高まったとします。この差分10%を売却し、その時点で値下がりしている資産を安値仕込みしていきます。

個人においても、ゴールがよほど眼前にない限りは「部分的売り!」の手法を活用したほうが効果的です。特に投資初心者ほど「全部売り」はオススメできません。確定拠出年金で資産運用をしている人などは特に、運用を60歳まで続ける前提で利益確定を考える必要があります。自分なりのリスク資産の保有割合を意識し、「部分的売り」!の注文をしていくといいでしょう。

部分的売りがしやすいのは、投資信託です。投資信託は1円単位で解約できるものが主流となっており、小刻みな利益確定がしやすい商品です。逆に現物株などは単位株ごとの購入単価が高くなるので、たくさんの株式保有がしにくく、部分的売りも行いにくいといえます。

「自動的に利益確定」は可能か

ところで、自動的に利益確定を行う方法はないものでしょうか。十分に成長した資産について適宜売却を行い、相対的に安いと考えられる資産を組み入れるようなリバランスのプロセスが自動的に行われるのであれば、検討してみる余地があります。

今のところ、有効な手法として考えられるのは「バランス型投資信託」の活用です。バランス型の投資信託は基本的なアセットミックスを提示し、アセットミックスから乖離した状態になれば一定のルールにもとづきリバランスを行います。投信会社の判断で、勝手に運用方針を逸脱することはできませんので、個人が忙しくて投資のメンテナンスが行えない場合においても粛々と売買を行ってくれます。

ただし、「そもそもそのバランス型投資信託の運用方針は自分の好みにあっているか」という問題を最初に確認しておかなければ、自分の理想と異なる資産配分がえんえんと維持されることになってしまいます。また、中長期保有を考えるなら、運用の手数料が割高になりがちなのは注意すべきですが、単品の投資対象ごとに投資信託を購入するほうがバランス型投資信託保有より割安になるのが一般的です。

このコスト差について、現物株式をバリバリ売買する人からすれば、ムダな費用と見えるかもしれません。しかし、投資初心者として「費用が見合うか」は一考してみる余地があります。例えていえば、ユーザー車検をする人が代理店に車検を頼む人を「ムダなお金を払う」とバカにする構図に似ています。自分が専門性の不足している領域について、かつその対応時間を確保できない場合において、納得のいく水準であれば、専門家の力をお金で買うことはおかしいことではないはずです。

問題は、費用が見合うものか、ということです。「部分的売り!」も実行されずに放置されれば、理想論に終わってしまいます。未実行のまま放置されることの悪い面が出てしまわないようにするコストとしてバランス型投資信託の手数料が折り合うかどうか考えてみるといいでしょう。

近年の投資信託は手数料が引き下げられた商品が含まれるようになっており、「購入時の目利き」さえできれば、その後はかなりリーズナブルに売買コストをアウトソースできるようになっています。比較検討してみてください。

今回のコラムの結論は「上手な売りをするためには、最初にしっかり買いを吟味する」ということになりました。売りと買いは連結していることがいみじくも明らかになったといえます。せっかくの上昇相場です。上手な利益確定を試みてみてください。

「売る」は終わりではなく「買う」の始まり

 

初心者の「初めての利益確定」入門