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1.新型コロナウイルス禍の実態を確認する

 世界各国で新型コロナウイルスの感染第2波がはじまっているもようです。日本でも、日本政府は未だ確認していませんが、グラフ1を見る限り「第2波」が始まっていると考えてよいと思われます。

 新型コロナウイルス感染症は極めて厄介な病気です。日本で感染者が公式に確認されたのは2020年1月15日ですが、5月末までに遺伝子変異を繰り返した結果約5,000種類の新型コロナウイルスが出来ています(2020年5月31日放送のNHKサイエンスZERO「新型コロナ論文解析SP」による)。これが大きく4系統に分かれています。

 第1は、中国で発生したと思われ、日本を含むアジアで流行したタイプ(武漢で流行したもの。弱毒性)。

 第2は、武漢で流行した弱毒性ウイルスがヨーロッパに渡って、そこで強毒性に変異したもの。

 第3は、ヨーロッパの強毒性ウイルスがアメリカ東海岸に渡って変異したもの(強毒性)。

 第4は、アジアの弱毒性ウイルス(武漢で流行したもの)が、アメリカ西海岸に渡って強毒性に変異したもの。

 弱毒性か強毒性かという違いは、ここでは日本人から見た違いです。武漢で感染が拡大した初期の弱毒性のウイルスは、日本人にとっては一部の人たち(特に高齢者)が重症化するだけで、たちの悪い風邪程度だったのかもしれませんが、このウイルスは武漢で4,000人弱を殺しています。日本で3月下旬から5月上旬にかけての大きな波(メディアがいう第1波)は、欧州で見つかった強毒性のものが流行したもようです。この時期は日本全国でPCR検査を拡大していましたが、足りなかったこともあったようであり、それが後に述べる「超過死亡」の多さにつながった可能性があります。

 日本では、2月中旬から3月中旬にかけて、実質的な第1波がありました。大阪府、愛知県、北海道では統計上この第1波は確認されていますが、東京ではこの時期にPCR検査を絞り込んでいたため(実質的に検査拒否をしていたと言われています)、結果的に感染者数が少なくなっています。即ち、メディアで「第1波」と言っている3月下旬から5月上旬の大きな波は実質的な第2波ということになります。ただし、ここでは混乱を避けるため、実質的な第2波をメディアに倣って第1波として現在起こり始めている流行を第2波とします。

 統計を眺めると(表1)、日本の感染者数と死亡者数が諸外国に比べて極端に少ないことがわかります。ただし、これに「超過死亡」(各月の過去の平均死亡者数と2020年とのかい離)を加えるとある程度見え方が変わってきます。2020年6月12日付け日経新聞によれば、特定警戒地域だった都道府県の4月の超過死亡は約5,700人になります。仮にこの超過死亡の多くが新型コロナ関連死だったとして、これに5、6月分(未公表)を足すと、コロナ関連で死亡した人は6,000人から1万人前後になっている可能性もあるかもしれません。日本における感染者に対する死亡率4.2%を当てはめると、仮に超過死亡が1万人いると仮定すると事実上の感染者数は20万人以上になります。

 ただしこれでも、日本の感染者、死亡者の絶対数、あるいは人口当たりの感染者数と死亡者数は諸外国に比べて少ないという結果になります。これが何故なのかは諸説あり、BCG接種によるものであるという説や、昨年中国から飛来した風邪のウイルスの一種が日本で広範に広まった結果、新型コロナに対する抗体が形成されたという説などがありますが、今のところ結論は出ていないようです。

表1 新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数(2020年7月16日現在(日本は7月17日現在))

単位:人
出所:日本は厚生労働省と各自治体の調査をもとにNHK作成、世界はジョンズ・ホプキンス大学の調査をもとにNHK作成。

グラフ1 新型コロナウイルス感染症の感染者数と死亡者数(日本)

単位:人、出所:厚生労働省より楽天証券作成

グラフ2 新型コロナウイルス感染症の感染者数(アメリカ)

単位:人、出所:アメリカCDC資料より楽天証券作成

グラフ3 新型コロナウイルス感染症の感染者数(イギリス)

単位:人、出所:イギリス政府資料より楽天証券作成

2.新型コロナウイルス禍の中での各地域の現状

 日本での株式投資を考えるときに押さえておかなければならないことが二つあります。日本を含む主要国、特に欧米のファンダメンタルズと、この感染拡大が収束に向かう時期がいつごろになるのか、治療薬とワクチンはいつできるのかということです。

 新型コロナウイルス禍の中での経済のファンダメンタルズは、アメリカ、ヨーロッパ、日本を比較すると各々異なっています。

 アメリカでは感染拡大が止まりません。ニューヨークなどの主要都市が都市封鎖を行った後で十分収束しないまま経済活動を再開したとがめがでていると思われます。

 アメリカでは足元では毎日5~6万人前後の感染者が出ています。もし、今の毎日5~6万人の新規感染者が続くならば、月間では150~180万人の増加になります。現在約340万人の感染者に対して100万人強の回復者がいるため、約240万人が病院で治療を受けている計算になります。ここに今後1カ月間で100万人以上の感染者が発生した場合、アメリカの人口(2018年で3億2,716万人)の1%以上が病院に入っている計算になります。感染者の多くは主に現場労働者(医療関係、物流、工場、交通など)と思われます。今は失業した人たちがこの分野に労働力として流入しているため、現場が維持されていると思われますが、感染者の増加スピードがあまりに早い場合は、現場の人手不足によって国全体の経済が徐々に麻痺してしまうリスクがあると思われます。

 FRB(米連邦準備制度理事会)が行っている極端な金融緩和によって、アメリカの株式市場ではバブルが発生していると思われますが、このバブルによる資産効果がアメリカの個人消費とアメリカ経済を支えていると思われます。しかし、感染拡大が続くと現場の人手不足が経済の阻害要因になりかねないことは念頭においておいたほうがよさそうです。

 欧州では各国が都市封鎖を行った結果、イギリス、イタリアなど各国で感染拡大が抑え込まれています。しかし、都市封鎖の代償は大きく、各国とも中央政府、地方政府、企業、個人の各段階で資金不足が起きているもようです。また、ドイツを除いて経済全体への波及効果が大きい半導体や通信などのハイテク産業が少なく(欧州の基幹産業は、金融、自動車、資源・エネルギー、重電など)、効率的に経済を再起動することが出来ていないもようです。その結果、アメリカと同じように低金利政策をとっていますが、ドイツを除いて株価の戻りが鈍くバブル発生に至っていないと思われます。このまま推移すれば、今よりも厳しい不況になるリスクがありそうです。

 日本は欧米に比べマシな状況にあると言えます。足元では明らかに第2波が到来していますが、諸外国に比べ感染者の絶対数が少ない状態が続いています。感染者が急増している東京から地方へ感染拡大を引き起こすことが懸念されていたGoToキャンペーンも見直しが入りました。

 ここからは、日本経済をどのように立て直すかが大きな課題になります。