3.ウィズコロナ時代に、国、企業、人が生き残るための戦略とは-サイバースペース上にもう一つの「日本」を造る-
新型コロナウイルス感染症の治療薬として現在検討されている既存薬と療法は以下の通りです(表2)。また、新型コロナ用ワクチンの開発スケジュールは表3のごとくです(主なもののみ)。
表2 新型コロナウイルス感染症治療薬の候補(既存薬、主なもののみ)
表3 新型コロナウイルス感染症用ワクチンの開発計画(主なもののみ)
これらの開発計画が成功すれば、新型コロナウイルスは早期に収束すると思われます。ただし、これはかなり無理な期待であると思われます。まず、わずか5カ月間の遺伝子変異の結果、4系統のウイルスが発生しており、今後これらがいくつに枝分かれしていくのかわかりません。4系統のうち弱毒性は武漢の1つだけで後は強毒性です。違う系統のウイルスには異なるワクチンが必要になる可能性もあります。治療薬も今はあくまでも既存薬の転用を模索している段階です。
また、緊急事態とは言え、数カ月間の臨床試験しかしていない治療薬やワクチンが安全なものなのかどうか、慎重に検討する必要があるかもしれません。欧米諸国は急造りのワクチンであっても国民に接種を呼びかけるかもしれませんが、それはこれら諸国が切羽詰まった状態に置かれているからです。
このように考えると製薬メーカーやバイオベンチャーが期待するスケジュールで期待した効能が確認できて、しかも副作用が少ない治療薬やワクチンが早期に(この1~2年以内に)完成したならば、それは相当なサプライズになると思われます。
全くの私見ですが、まともに効いて副作用が少ないワクチン、治療薬の完成には最短で2~3年以上、長い場合は5~10年かかる可能性があると思われます。これは臨床試験を通常の規則通りに行って効能と安全性を確認するには相応の時間がかかるからです。特に欧米では投与対象者が多いため、急造りの薬には様々なリスクがあると思われます。
そこで重要なのは、まともな治療薬とワクチンが完成するまで、国、企業、人がいかにして生き残るかです。結局のところ、日本が自粛期間中に感染を防ぐために学んだことですが、人との接触を避ける(例えば、他人と向かい合って息を吹きかけあうことをしない)、人と会うときはソーシャルディスタンスをとる、不要不急の移動をしないなどです。要するに、仕事と遊びは可能な限りテレワークで行い、勉強も無理のない範囲でオンライン学習を取り入れ、現場作業が必要な場合は防護措置を行うといったことです。
日本に必要なのは、サイバースペース上に新たな日本を造るということです。残念ながらアフターコロナ時代は当分先で、当面はウィズコロナ時代をいかに生き残るかということが、国、企業、個人の最高目標になるでしょう。
4.投資したいのは、半導体、5Gを含む広義のIT
サイバースペース上に新たな日本を造り、その上で仕事、勉強、遊びを行う世界は、今行われているテレワーク、オンライン学習、オンラインエンタテインメントの延長線上にあります。要するにこの方向性を一層強化、拡大するということです。諸外国もこの方向性であると思われます。
このような日本全体のIT化、オンライン化を成し遂げることが出来る企業とはどんな企業なのか、まず、日本電気と富士通です。テレワークのシステムは、システム自体は難しいものではありません。パッケージソフトも揃っています。重要なのは社員の自宅のパソコンと企業のシステムをつなぐ高速ネットワーク、セキュリティ、会社が社員に高性能パソコンを貸与する場合(設計、デザイン、映像などのクリエイティブ系の仕事を自宅で行う場合、ハイスペックパソコンが必要になります)に必要な、それら高性能パソコンや高性能サーバー、各種ネットワーク機器の大量調達能力です。このような能力を持った会社は、日本では日本電気と富士通になります。
大手通信会社のネットワーク構築や地方自治体のネットワーク構築も必要になります。テレワークや巣ごもり遊びの増加によって(例えば動画配信の増加によって)、NTTの基幹通信網(いわゆるバックボーン)は継続的な増強が必要になっています。5G時代を迎えてこの動きは一層強くなると思われます。
また、地方自治体では在宅学習ネットワークや各種事務手続き、申請手続きのオンライン化など、オンライン化のニーズが多くなっています。更に、このような国と地方自治体のIT投資は、従来型公共投資よりも波及効果が大きいため、重要な景気対策になるのです。このようなネットワーク構築を行うネットワークインテグレータとしては、日本電気と富士通のほかに、伊藤忠テクノソリューションズ、ネットワンシステムズが重要になります。
ネットワークは有線ばかりではありません。日本では5G(第5世代移動通信)の用途として、高精細動画(例えば4K動画)の高速送受信、同時多接続、低遅延の特徴を生かしたオンラインゲームなど、エンタテインメントが語られることが多いですが、諸外国では5Gをビジネス上の重要な高速通信として捉えています。5Gスマホをパソコンにつなぐか(テザリング)、5G対応WiFiルーターをパソコンにつなげば、実測で1~2Gbps以上の受信速度を得ることが出来ます。
また、5Gスマホは、4万円前後の廉価版、5~10万円の普及価格帯であっても、最新の7ナノCPUを使っています。これが4Gスマホとの違いで、4Gスマホの廉価版や普及価格帯は通常は10~12ナノ程度の安物CPUを使っています。従って、5Gの通信エリア外で4Gを使わなければならない場合、5Gスマホの廉価版であっても4Gスマホの上位機種と比べて性能では引けを取らないことがあり得るのです(小型コンピュータとしての能力は、4Gスマホの古い上位機種よりも5Gスマホの普及タイプや廉価版のほうが上である場合があります)。
このように、5Gスマホは手軽に高速回線を入手する手段として、オンラインの仕事にとって重要になると思われます。
日本の5G関連企業では、基地局や5Gインフラ全般の構築を行っている日本電気、富士通のほか、世界的な通信用計測器メーカーであるアンリツがあります。また、5Gスマホに装着する電子部品では、村田製作所(チップ積層セラミックコンデンサの最大手)、TDK(スマホ用電池の最大手)の2社が大手になります。ただし、電子部品メーカーに投資する場合は、5Gスマホの売れ筋が廉価版と普及価格帯の2種類になった場合、上位機種が中心だった4Gスマホに比べて、単価が下がる部品群が出てくる可能性があることに注意する必要があります。
このようなテレワーク、オンライン学習、オンラインエンタテインメントの拡大は欧米でも起きているものです。このように国、企業、個人を巻き込むIT化が進む場合は、半導体、それも最先端半導体(今の最先端の7ナノ、これから量産が進む5ナノ、高速DRAM、3DNAND)の需要拡大に結び付くと思われます。半導体製造装置大手の、東京エレクトロン、アドバンテスト、レーザーテック、ディスコに注目したいと思います。
ちなみに、世界最大の半導体受託製造メーカー、TSMCの2020年12月期2Q(2020年4-6月期)決算を見ると、5G向けチップセットだけでなく、高性能パソコン、高性能サーバー、グラフィックプロセッサーの出荷が伸びていることがわかります(表4のハイパフォーマンスコンピューティング)。