初心者に必要なのはメンタル

―――テクニカルな話というのは投資手法や商品選別の話なんだと思いますが、メンタルの話とはなんでしょうか? あまり、投資関連の書籍には出てこないテーマな気がします。

 金融教育の会社をやっているので、投資未経験者の学生や社会人と話す機会や、証券会社主催のイベントで個人投資家の方と話をしますが、いつも感じるのは日本人の勤勉さなんですね。

 投資を始めるとなると、「どの本を買えばいいですか?」とか「なんの資格を取ればいいですか?」という話から入ってくることも多いですし、「誰のTwitterをフォローしておけばいいですか?」という質問もあります。

 勉強して知識を付けたり、他人の情報を参考にするという姿勢は非常に重要だと思いますが、どうもその発言の裏には、どことなく知識が付けば投資でもうかると思っている節がある気がしてしまうんですね。

 過去に某テレビ番組に私が大学生向けに投資についての講演をしているシーンを使っていただいたことがあるのですが、「将来のことは誰にも分からない」と言っているシーンが切り取られて放送されたんですね。そしたら、「経済アナリストを名乗っておきながら、将来のことが分からないとは何事だ!」というお叱りの声をいくつかいただいたのですが、やっぱりそういう認識の人って多いんだなと。

 いくら勉強しようが、将来を正確に予測できるようになることなんてありません。たまに「絶対にもうかる」とか「確実に上がる」とかっていう表現を目にしますが、そんなものは詐欺です。本書ではまず、その点はしつこいぐらいに書きました。「将来のことを正確に予測できることはない」と。

 故に、いざ投資を始めると予期しないことばかりが起きるので、そこを分かっていないと精神的に疲弊してしまいます。「上がると思ったから買う」というスタンスだと、だいたい買った翌日から下がる訳です。逆に、今回のコロナ・ショックのような急落を目にすると、「底なし沼の様に永遠に下がり続けるかもしれない」という恐怖感に襲われ損切りをする。そして、見事にその日が大底で、翌日から株価が戻っていく。極端な例を出しましたが、不確実な事を前にすると、人間というのはメンタルが動揺して合理的な判断ができなくなります。

―――メンタルの話が理解できました(笑)投資あるあるですね。コロナ・ショックで急落した株式市場も、コロナ前の水準近くまで株価は戻ってきています。

 そのような株価の上昇を見て、最近では「コロナバブル」という言葉も目にするようになりましたが、森永さんは「コロナバブル」についてどう考えていますか?

 たしかに、コロナ・ショックからの戻り局面を見て、コロナバブルと表現している記事を散見しますね。ただ、その見方については私は賛同しません。新型コロナウイルスの影響で日本だけでなく世界的に経済が落ち込んでいくなかで、株価だけはコロナ前の水準に近いところまで戻ってきています。

 たしかに、実体経済と株価が乖離(かいり)していると思いますが、これはコロナ対策に対する金融緩和や財政出動がもたらしたバブルであるとは思いません。

 バブルという言葉を使うかどうかは悩むところですが、むしろコロナ前から世界的な金融緩和を背景にした株高が続いていて、そこに得体の知れないウイルスが現れたことで、一旦はリスクオフの動きが出たものの、ある程度新型コロナウイルスについての情報も集まったことで、再び株高路線に戻ったということかと考えています。