森永康平氏

◇話を伺った人
新進気鋭の経済アナリスト・森永康平(株式会社マネネCEO / 経済アナリスト)

―――この度、7月17日に新著『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』をあさ出版から出版されました。まずは今回の出版にあたっての背景について教えてもらえますか?

 3月の中旬に今回の書籍の担当編集者から連絡をもらいました。いま思い返せば、ちょうどコロナ・ショックで株式市場が一番ヒドかった時期です(笑)

リーマン・ショックの時よりも速いスピードで株式市場が急落したことから、投資未経験者や初心者は「投資って怖い」という発想になるのかなと思ったのですが、担当編集者も含めて投資のチャンスと思った方が想像以上に多かったようです。

 そこで、担当編集者から「自分も含めてこれから老後資産のために投資を始めたい」と思う人達に向けて1冊書いて欲しいという依頼をもらいました。

 ただ、6月に出版した拙著「MMTが日本を救う」の執筆が4月に入ったこともあり、出版がこの時期になってしまいました。でも、本書の中にも書いたのですが、将来の老後資産のための資産形成は長期的な話になりますし、タイミングを狙った投資法を否定しているので、あまり出版時期は気にしなくていいや、ということもあります。

―――なるほど。投資で老後資産を形成したい投資未経験者や初心者を対象に書かれたということですね。具体的にはどのような内容が書かれているのでしょうか?

つみたて投資の教科書

 タイトルからも分かる通り、本書では数ある投資法の中から、「つみたて投資」を勧めています。「なぜ、つみたて投資なのか?」「つみたて投資って何?」というところから始まり、つみたて投資の始め方、商品の選び方、最後に投資を続けるうえでの心得について書いています。

 投資の本というと、難しい単語や数式が羅列されていて、難しいイメージがあるかもしれませんが、本書は最初の10ページにまとめが載っていて、そこはカラーですし、可愛いイラスト付きなので、肩肘張らずにリラックスして読んでいただけると思います。

―――「つみたて投資」に関する書籍は既に数多く世の中に出ていると思いますが、そのなかでも今回の書籍の特徴はなんでしょうか?

 そうなんです。既に世の中にはたくさんの書籍があるんですよね。もっと言えば、個人投資家の方がブログを書いていたり、金融機関も各社分かりやすいコンテンツを作っていたりするので、わざわざお金を払って本を買わなくても……みたいな話もあると思います(笑)

 とはいえ、投資未経験者や初心者に向けての本なので、マニアックな話や、極端な話を書いても意味がない。どうしようかなぁと悩みました。

 悩んでいても時間が経っていくだけなので、とりあえず書くべきこと、外してはいけない重要な基礎ポイントを書いていきました。自分自身も個人投資家としてさまざまな経験をしてきたのでそこも合わせて書いていった結果、意外とテクニカルな話は少なくて、メンタルの話が多いなぁ、と書き上げた後に気付きました。

初心者に必要なのはメンタル

―――テクニカルな話というのは投資手法や商品選別の話なんだと思いますが、メンタルの話とはなんでしょうか? あまり、投資関連の書籍には出てこないテーマな気がします。

 金融教育の会社をやっているので、投資未経験者の学生や社会人と話す機会や、証券会社主催のイベントで個人投資家の方と話をしますが、いつも感じるのは日本人の勤勉さなんですね。

 投資を始めるとなると、「どの本を買えばいいですか?」とか「なんの資格を取ればいいですか?」という話から入ってくることも多いですし、「誰のTwitterをフォローしておけばいいですか?」という質問もあります。

 勉強して知識を付けたり、他人の情報を参考にするという姿勢は非常に重要だと思いますが、どうもその発言の裏には、どことなく知識が付けば投資でもうかると思っている節がある気がしてしまうんですね。

 過去に某テレビ番組に私が大学生向けに投資についての講演をしているシーンを使っていただいたことがあるのですが、「将来のことは誰にも分からない」と言っているシーンが切り取られて放送されたんですね。そしたら、「経済アナリストを名乗っておきながら、将来のことが分からないとは何事だ!」というお叱りの声をいくつかいただいたのですが、やっぱりそういう認識の人って多いんだなと。

 いくら勉強しようが、将来を正確に予測できるようになることなんてありません。たまに「絶対にもうかる」とか「確実に上がる」とかっていう表現を目にしますが、そんなものは詐欺です。本書ではまず、その点はしつこいぐらいに書きました。「将来のことを正確に予測できることはない」と。

 故に、いざ投資を始めると予期しないことばかりが起きるので、そこを分かっていないと精神的に疲弊してしまいます。「上がると思ったから買う」というスタンスだと、だいたい買った翌日から下がる訳です。逆に、今回のコロナ・ショックのような急落を目にすると、「底なし沼の様に永遠に下がり続けるかもしれない」という恐怖感に襲われ損切りをする。そして、見事にその日が大底で、翌日から株価が戻っていく。極端な例を出しましたが、不確実な事を前にすると、人間というのはメンタルが動揺して合理的な判断ができなくなります。

―――メンタルの話が理解できました(笑)投資あるあるですね。コロナ・ショックで急落した株式市場も、コロナ前の水準近くまで株価は戻ってきています。

 そのような株価の上昇を見て、最近では「コロナバブル」という言葉も目にするようになりましたが、森永さんは「コロナバブル」についてどう考えていますか?

 たしかに、コロナ・ショックからの戻り局面を見て、コロナバブルと表現している記事を散見しますね。ただ、その見方については私は賛同しません。新型コロナウイルスの影響で日本だけでなく世界的に経済が落ち込んでいくなかで、株価だけはコロナ前の水準に近いところまで戻ってきています。

 たしかに、実体経済と株価が乖離(かいり)していると思いますが、これはコロナ対策に対する金融緩和や財政出動がもたらしたバブルであるとは思いません。

 バブルという言葉を使うかどうかは悩むところですが、むしろコロナ前から世界的な金融緩和を背景にした株高が続いていて、そこに得体の知れないウイルスが現れたことで、一旦はリスクオフの動きが出たものの、ある程度新型コロナウイルスについての情報も集まったことで、再び株高路線に戻ったということかと考えています。

今後の株式市場について

―――それでは、今後の株式市場についてはどう考えていますか? これからも株高は続くのか。それともバブルが崩壊するのか。

 さっきの話、聞いてましたか? 将来のことは分かりません(笑)ただ、それを言ってたら話が進みませんので、基本的な私の考え方を共有します。

 株式市場にはいろいろな考え方の人が参加しているので、いまの株価水準が割高に見える人もいれば、割安に見える人もいます。また、いまの相場がバブル相場なのかどうかも意見が割れることでしょう。

 しかし、理論価格のようなものを算出することは可能で、それを基に現在の水準が割高かどうかなどを判断することは可能です。もちろん、理論価格の算出に使用する数字が本当に正しいのか、適切なのかなどの話もあるのですが。

 先ほど、実体経済と株価が乖離していると言いましたが、これは私には割高に見えているということです。仮にこの状態をバブルとするならば、それはいつか弾けるでしょう。バブルがいつ弾けるかは誰にも予想できませんが、少なくとも過去のバブルは全て弾けてきました。

 過去のバブルについて見てみると、だいたい過剰な緩和によってバブルが醸成されて、中央銀行が景気の過熱を抑えることに出遅れることで、その対応が行き過ぎてしまい、結果として景気をオーバーキルしてしまい、バブルが弾けていくという流れですね。

 今回も暫くは株高が続くのでしょうが、いずれは大きく下落する局面が訪れるのだと思います。何度も言いますが、それが何月ですとか断言はできません(笑)

―――いずれバブルは崩壊すると言われると、「やっぱり投資はやめておこう」となってしまいそうですが。

 でも、そんなことを言ってたらいつまで経っても投資なんてできませんよ。何度も言いますが、将来の相場変動なんて誰にも分かりません。そして、「100年に1度の危機」がこの20年の間に何回も起きているんです。この記事を読んでいる最中に大地震が来るかもしれないし、実は新たなウイルスがまん延しているかもしれない。

 安い時に買って、高く売ればもうかるというのは投資の原則ですが、そんなことが誰にでもできるんだったら、そもそも「老後2,000万円問題」なんて存在しませんし、みんな働くことをやめて投資だけで生きていけます。

 タイミングを計ってうまく投資するのなんて運に身を任せるようなものです。だからこそ、定額を一定期間で積み立てていくことを勧めているのです。一度始めたら、あとは淡々と継続していくのみ。そのスタイルで相場に臨むのであれば、下落局面はむしろ有難いと思えるはずです。この投資法の弱点は、相場が上昇し続けることや下落し続けること。一方向に相場が動き続けると損をする確率が上がります。

 投資期間中に相場が上下に変動し続けてくれた方がいいのです。詳しくは拙著『いちばんカンタン つみたて投資の教科書』に全て書いてありますから、ぜひ投資生活のお供として読んでいただければと思います。

森永康平:
金融教育ベンチャーの株式会社マネネCEO、経済アナリスト。 証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとしてリサーチ業務に従事。その後はインドネシア、台湾、マレーシアなどアジア各国にて法人や新規事業を立ち上げ、各社のCEOおよび取締役を歴任。現在はキャッシュレス企業のCOOやAI企業のCFOも兼任している。日本証券アナリスト協会検定会員。著書に『MMTが日本を救う』(新書/宝島社)や、父・森永卓郎との共著『親子ゼニ問答』(新書/ KADOKAWA)がある。 Twitter:@KoheiMorinaga

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