「人生設計の基本公式」使用上の注意とコツは1つだけ
人生設計の基本公式の、使用上の注意であると同時に使用のコツは、「条件を変えて何度も計算してみること」に尽きます。
一番良くないのは、「こんなに貯蓄が必要なのは大変だし、無理だ。この数字は見なかったことにしよう」と1回の計算だけで現実逃避することです。
さまざまな条件を変えて、実現可能な貯蓄率を見つけてください。それがどうしても不可能なら、現在の支出レベルが自分の経済的実力に対して高すぎるのだと考えるべきでしょう。現役時代の支出なり、老後の支出なり、早く仕事を辞める事なり、子供の教育費なり、何かを我慢しなければならなくなる現実を受け入れなければならないでしょう。
筆者は、話題になった報告書が本来伝えるべきだったのは、この計算式のような「自分の数字で計算して、自分の将来計画を立てる方法」につながる知識だったと思っています。
今回は、あえて数値例を載せません。読者は、ぜひご自身の数字で計算してみてください。
【補足】
先般(2020年7月1日)NHKの「あさイチ」という番組に、ファイナンシャルプランナーの岩城みずほ氏と出演する機会があった。「人生設計の基本公式」を説明したのは岩城氏だったが、後から、「式の意味がわからない」、「特に、分母がおかしいのではないか」といった問い合わせをいくつか受けた。確かに、式の「意味」について、雑誌の取材などで特に分母について適当な言葉一言では表すことが難しくて苦労した覚えがある。「計算するとこうなる」としか言いようがない。
もっとも、この式の発想や計算はそう難しくない。かつて筆者の息子(当時中学1年)に条件を言って考えさせたら、その日のうちに父親と同じ式が出てきた。小学生でも分数の計算はできるので、中学受験の塾に通った子供には簡単な計算のようだ。大人の読者は負けずに計算してみてほしい。
この計算式は大雑把な目処(めど)を計算するものに過ぎないが、「自分で」「何度も」「手軽に」計算できることが長所だ。将来を詳細に予想することは難しいので、大まかな計算以上に意味がある計算はない場合が多い。なお、主に稼ぎの大きな部分を当面の生活費に充てるような家計向けの計算式なので、ごくごく僅(わず)かであろうが収入と生活費が全くリンクしないような超富裕家計には実用性が乏しいことを付記しておく。「普通の家計」向きの計算式だ。(2020年7月2日 山崎元)