毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄:日本電気(6701)、アンリツ(6754)、東京エレクトロン(8035)
特集:5Gの現状と展望
1.5Gの現状―各国でインフラ整備が進む―
今回の特集は5Gです。5Gの現状を確認し、今後を展望します。注目銘柄としては、日本電気とアンリツを取り上げます。
世界的に5Gインフラ(基地局、基幹光ファイバー網など)の整備が進んでいます。グラフ1は世界の移動通信用基地局市場の予想を示したものです(富士キメラ総研予想)。この5年間で急速に伸びると予想されます。
グラフ2は日本の5Gインフラ市場の予想です(IDCによる)。2019年8月の予想と古いものなので、2021年から急速に立ち上がる予想になっていますが、実際には1年以上前倒しになり、2020年に急増する状況になりつつあります。これは、昨年末に国際的に日本の5Gが遅れることを懸念した日本の総務省からNTTドコモなどの移動通信会社に対して、5G投資の前倒し要請があったことや、5Gスマートフォンの機種が増えてきたことによって、通信会社間の顧客獲得競争が始まっており、各社ともこれに乗り遅れるわけにいかないという事情があります。5Gは顧客を維持し、新たに獲得するために重要なサービスであるだけでなく、遊びの分野でも企業向けでも、動画配信やゲーム配信など各通信会社が持っている多角化事業や企業向けシリューション事業と密接に結び付くからです。
また、5Gは5G対応Wi-Fiモデムやスマートフォンのテザリングを使うことで、手軽に数Gbpsの高速回線を敷くことができます。テレワークにとって5G良い商材になり得るのです。
各国でも5Gインフラの整備は活発です。新型コロナウイルス禍の中ではありますが、中国が最も先行しており、それに韓国が続いています。アメリカ、日本でもインフラ整備が進んでいます。ただし、欧州は新型コロナウイルス禍による不況の影響でインフラ整備が遅れているもようです。
このまま進めば、欧州を除く世界主要国の多くの都市で5Gがストレスなく使えるようになると思われます。
グラフ1 世界の移動通信用基地局市場
グラフ2 日本の5Gネットワークインフラ市場
2.5Gスマホは足元では振るわないが、今週の新型iPhoneに期待
5Gのインフラ整備が進んでおり、5G用チップセット(CPU、GPUと周辺半導体を組み合わせたモジュール)の生産も活発です。5Gスマホのチップセットの生産をほぼ一手に引き受けている台湾の半導体受託製造業者TSMCの2020年1-3月期売上高は前年比42.0%増でした。4月は28.5%増、5月は16.6%増と伸び率は鈍化していますが、高水準が維持されています。
ただし、5G用チップセットの生産の活発さに比較して、足元のスマートフォンの売れ行きは芳しいものではありません。2020年1-3月期の全世界のスマートフォン出荷台数は前年比11.7%減でした(IDC調べ)。2019年10-12月期の同1.2%減からマイナス幅が拡大しましたが、新型コロナウイルスの影響で出荷、需要の両方が減少しました。4-6月期には持ち直していると思われますが、感染第2波の恐れもあり、先行きには不透明感もあります。
ただし、夏から秋にかけての商戦には期待できる余地があります。今年9~10月に新型iPhone(iPhone12?)が発売されると予想されます。今年の新型iPhoneはチップセットは5ナノ(2018年秋から7ナノ)で5G対応も予想されています。これがスマートフォン市場に対して大きな前向きな刺激になると思われます。
グラフ3 5Gスマートフォンの世界出荷台数予想
3.5Gスマホ市場は4Gとは異なる市場になる可能性がある
また、5G時代のスマートフォン市場は4G時代とは様相が変わってくると思われます。4G時代のスマートフォンの中心は、スマートフォン各社の最上位機種でした。特に、アップルやサムスンのような上位メーカーにとってそうでした。しかし、最上位機種は価格が高くなりすぎました。今のiPhone11 Pro Max 512GB版は15万7,800円(アップルストアで買い取りの場合)です。2~3年使って次世代機に更新することを考えると、買う人が多くはならない価格です。
そこで、普及機種や廉価版が5Gスマホ市場では重要になると言われています。これに関して、スマホメーカーのスマホ開発の方向性は2通りあります。
一つは、能力を落とした普及機種あるいは廉価版専用のチップセットを使ってコストダウンすることです。クアルコムやメディアテックがこのような普及機種向けチップセットを既に発売しています。これにも種類があり、クアルコムのチップセットは普及機種用と言えども、サブ6、ミリ波、両方の電波に対応しているのに対して(サブ6は電波の種類で、4Gで使われていた比較的低い周波数帯の電波。ある程度曲がるため、ミリ波よりも使いやすい)、メディアテック(台湾のスマホ用チップセットメーカー)は今のところサブ6のみに対応し、ミリ波には対応していません。普及機種向けチップセットのダウンロードスピードは、クアルコムは3.5~3.7Gbps、メディアテックは4.7Gbpsと、クアルコムの上位機種向けの7~7.5Gbpsに比べると低いですが、今のところ実用上は問題ないスピードです(ダウンロードスピードはスペック上のもの)。
このような普及機種向け、廉価版向けのチップセットを搭載した5Gスマートフォンがいくつか発売されていますが、5万円以下のものもあります。4G時代よりも早く、高性能で端末も安くなるというのが5G時代なのです。ちなみに、このようにチップセットを安くした場合は、カメラのような付加機能は4G時代と同じで、高性能化が進んでいるようです。5万円以下の廉価版5Gスマホでも、カメラは3眼カメラを搭載しているケースが多いです。
もう一つのやり方は、5G用チップセットは妥協せずに高性能品を使い、周辺機能をコストダウンするというやり方です。5Gスマホではまだありませんが、4Gスマホでこのやり方でヒットしているのが今年5月に発売されたiPhone SE(第2世代)です。価格は最低で44,800円(64GB版。最も高い256GB版で60,800円)。チップセットは上位機種のiPhone11シリーズに搭載されている最新鋭の「A13Bionic」を使っているため、かなり高性能です。コストダウンのために比較的小さい液晶パネルを使い、カメラの眼も一つですが、小振りなサイズがよいという人、カメラにこだわらない人にはこれで十分な性能です(今のスマホのカメラはAIで制御される部分が大きいため、A13Bionic搭載ならばカメラも十分な性能を持っていると思われます)。この第2世代版iPhone SEは各国でヒットしているため、消費者の多くは、チップセットが高性能であれば、周辺機能をある程度ダウングレードしてもよいと考えていると思われます。
このように、5G時代は、普及機種と廉価版が5Gスマホ市場の中心になる可能性があり、4G時代とは変わる可能性があります。4G時代よりスマートフォンの平均価格が安くなる可能性もあり、その場合、4Gから5Gに急速に転換し、スマートフォン全体の販売台数が早めに回復に転じる可能性もあります。
なお、上位機種に使われる完全フルスペック(送受信の高速化に加え、同時多接続、低遅延の機能を付けたもの。今のチップセットは送受信の高速化のみ)の5G用チップセットは、早ければ2021年中に出荷開始となる可能性があります。
表1 5Gスマートフォン用チップセットと5Gモデム