「内憂外患」のトランプ政権

 5月のドル/円相場は、1ドル=107.30円近辺で始まり、107.85円近辺で終りました。終値ベースで約55銭の円安となりました。その間、月初めに米中貿易摩擦再燃不安から一時106円割れとなりましたが、その後は、ワクチン開発期待や経済活動再開に伴う景気回復期待が株価を押し上げ、ドル/円も107円台に戻り、月後半はほとんど107円台で推移しました。

 6月はどのような相場展開になるのでしょうか。相場材料としては以下の点に注目しています。

(1)経済活動再開に伴う景気回復期待と実体経済の乖離
(2)ワクチンや治療薬開発への期待
(3)米中対立の激化
(4)感染拡大第2波の警戒
(5)米国内の抗議デモ
(6)欧州動向

(1)と(2)は、株価押し上げ材料となり、株価上昇は現在の環境ではドル安・円安となっています。4月、5月に発表された経済指標に対して、悪いのは当然で一時的な数字であると無視されてきましたが、6月発表の5月分についても同じような反応を示すのでしょうか。

 5月は経済活動が再開された時期でもあるため、数字が上向くことも期待されます。そうなれば、株価は一段と押し上げられることになりそうです。逆に、期待していた程改善しないとなれば、足元の実体経済の現実にマーケットが気付き始め、先行していた期待が剝落すると株価を押し下げることも予想され、注意が必要です。

 ワクチンや治療薬開発への期待も同じです。薬効や投薬時期、投薬量について、現時点では期待先行でマーケットは動いていますが、期待を後退させるニュースが出るとマイナス材料になります。6月もこれらのニュースに一喜一憂する相場が続きそうです。

(3)の米中対立については、トランプ大統領は引き続き中国に対して厳しい態度で臨んでいくことが予想されます。

 5月29日、香港問題を巡る中国の国家安全法制に対抗し、トランプ大統領は香港に対する優遇措置を撤廃することを表明しました。しかし、米中貿易交渉の第1段階合意の撤回や対中追加関税には言及しなかったことから、警戒されていたほど厳しい内容ではなかったためマーケットのマイナス材料にはなりませんでした。

 中国に対して追加関税などを課すと自国にも跳ね返ってくるため、具体的な厳しい措置は取れないのではないかという見方も出てきています。今後、米中対立は警戒すべき材料ですが、具体的な制裁措置が出ない限り、マーケットの反応は鈍くなることが予想されます。ただ、6月4日の天安門追悼集会の日は警戒しておく必要があります。

 米中対立問題ではもう一つ注目しておくことがあります。トランプ大統領は9月のG7サミットにロシア、オーストラリア、インド、韓国を招待したいと表明しましたが、G7の足並みは揃っていません。英国は、早速、ロシアの参加を支持しないと表明しています。

 中国包囲網形成を狙った今回の提案に対して、トランプ大統領がリーダーシップを取れなかったということと、国際協調が機能しないという二つの問題点が浮き彫りになりました。今後の米中問題がどのような展開になっていくのか注目です。

 現時点で最も気掛かりなのは米中問題よりも米国内問題です。白人警官に対する抗議デモは、コロナ感染拡大による自粛や失業などによってストレスが溜まっている中での抗議デモであり、これまでのデモとは質が変わる可能性もあり要注意です。

 抗議デモが過激になったり、長引いたりすれば、経済活動再開の大きな足枷となります。また、人々が密集することから感染拡大が懸念されます。経済活動再開によって感染者が増えている自治体もあり、第2波の波を大きくする可能性も想定されます。トランプ大統領は連邦軍投入を仄めかせていますが、対応を誤ると政権の命取りになり、大統領選挙の再選も危ぶまれることになります。

 抗議デモは、トランプ政権基盤の不安定化、経済活動再開の足枷、コロナ感染第2波発生と複合的に絡まってくる可能性があり、注意してみておく必要がありそうです。