株価はこうして決まる

 ここから1,000字くらいは、少し理屈っぽい話をするので、数式とか論理とかが面倒くさい読者は、このパートを飛ばして、次のセクションまで飛んでいただいて結構だ。

 さて、株価を予想される企業の利益の割引現在価値だと理解すると、株価をP一株あたりの利益をE将来まで一定の利益成長率をg投資家が株式投資に要求するリターン(割引率)をrとして、以下の関係が成り立つ(高校の数学に出てくる「等比数列の和の公式」の応用だ)。

P=E/(r―g)

 例えば、一株あたりの利益が100円で割引率が6%(=0.06)の時、永続的な利益成長率が+2%(=0.02)なら、株価は2,500円になるし、利益成長率がマイナス2%(=▲0.02)なら株価は1,250円だ。それぞれの株価で投資した時の期待リターンは同じだ。

 適正に形成された株価に投資するなら、世界経済がプラス成長でもマイナス成長でも、株式投資は同じ期待リターンを持つと考えることができる。投資家は、資本主義の未来まで心配しなくていい。ただ、他の投資家が十分な恐怖を株式投資に感じているかどうかが重要なのだ。

 先の関係を株式投資の期待リターンであるrについて整理すると、

r=E/P+g

 となる。

 株式投資の期待リターン(r)は、株価に対する一株利益の比率、つまり益利回りに利益の成長率を足したものになる。

 さらに、株式投資の期待リターンであるrは、リスク無しにお金を増やすことができる無リスク金利(i)と、株式投資のリスクを負担することに対して投資家が要求する「リスク・プレミアム」(小文字の「p」としよう)に分解できる。pについて整理すると、

p=E/P+g―i

 ということになる。株式に投資することによるリスク・プレミアムは、株式の益利回りに利益成長率を足して、そこから無リスク資産の金利を差し引いたものになる。投資家は、このリスク・プレミアムの獲得を目指して、株式に投資するのだ。

 例えば、新型コロナウイルスの影響で企業の利益成長率が大幅に低下あるいはマイナスと予想される場合、投資家が求めるリスク・プレミアム(p)が一定なら、株価(P)が下落して株式の益利回り(E/P)を上げることで、式の右辺と左辺を均衡させるしかない。概念的には、これが最近起こったコロナ・ショックによる株価下落の説明だ。

 しゃくし定規にこの関係を当てはめると、株価が高い時に投資しても、株価が低い時に投資しても、リスク・プレミアムの大きさが同じなら、有利・不利はないはずだ。

 しかし、現在、投資家は、自らの投資に関して、コロナウイルス問題の経済的影響について「恐怖」を感じているのではないだろうか。そうなのだとすると、株式投資のリスク負担に対する追加的なリターンであるリスク・プレミアム(p)を通常よりも大きく要求して株価を形成しているということは十分ありそうだ。リスク・プレミアムの拡大は株価の下落に拍車を掛ける。

 いかにもありそうな話だが、仮にリスク・プレミアムが拡大しているとしよう。すると、投資家の立場から今回の株価下落を見ると、株式市場の参加者が見積もる将来の利益成長率(g)が、仮に、将来実現する値よりも高いか・低いかが五分五分であるとすれば、今の株価で株式に投資することは、通常の株式投資よりも有利な(期待リターンがより高い)投資だと考えることができる。

 投資がリスク・プレミアムのコレクションなのだとすると、コロナ・ショック暴落の渦中にある今のような時こそが投資のチャンスなのだと考える事ができる訳だ。