石油戦争を逆説的に考えると、今後の原油相場のヒントが読めてくる

 昨今、メディア等で “石油戦争”という言葉を目にします。この言葉は、誰が(何が)きっかけで困難な状況が生まれ、それによって誰が被害をうけていることを指しているのでしょうか? そしてその困難とは、どのような状況なのでしょうか?

 筆者は、石油戦争という言葉を見聞きするたびに、このような疑問を抱きます。広い意味を包含しつつ、人目を引くインパクトがある便利な言葉であるため、ただ漠然と、原油相場が暴落して大変な状況になっていることや、サウジアラビアとロシアがもめている様子を「石油戦争」という言葉でひとまとめにしていないだろうか? と思うのです。

 この戦争の当事者として名前が挙がっているのは、サウジ、ロシア、米国(人名で言えば、サウジのムハンマド皇太子、ロシアのプーチン大統領、米国のトランプ大統領)です。

 サウジとロシアという、実態が見えづらい巨大な資源国が、石油の消費国である先進国をさしおいて、個別の都合で仲たがいして会合が決裂。その結果、原油相場を支えてきた減産が終了して原油価格が急落。そのあおりで米国内の財務体質がぜい弱なシェール会社の社債が急落。そして米国の金融市場が混乱し、それが世界全体に波及。新型コロナウイルスの世界的な感染拡大で混乱する金融市場が、石油戦争によってさらに混乱させられた…。

 このように、サウジとロシア、そしてもともと財務体質がぜい弱だった米シェール企業(被害者の面もあるが金融市場の混乱の一端となった意味では加害者)が、世界を混乱させたように語られる場面を、筆者はこの1カ月間、何度も見聞きしてきました。

 特に、3月6日の産油国の会合については、サウジとロシアが先進国の消費国の事情を考えず、身勝手に会合を決裂させ、甚大な被害が出た、というように語られるわけです。

 確かにその面はあると思います。しかし、このような情報の多くは、サウジとロシアと米国以外の、原油市場の急落に“混乱させられた”先進国側が、混乱させた原因を表面的になぞっているように感じてなりません。

 サウジやロシアがなぜ仲たがいをしたのか、米シェールの生産量が今後具体的にどうなりそうか、そしてこれらの当事者たちが今後どのような行動をとると考えられるのかなど、さらに大きく一歩踏みこんだ議論が必要だと感じます。

 筆者は、コモディティの専門家として、この状況について、できるだけデータを用いて説明できないかと考えてきました。そして、今回のこの件をレポートにするにあたり、上記のように語られる一般的な“石油戦争”と異なる(部分的には正反対ともとれる)見解を含むことから、タイトルを“逆説の石油戦争”としました。

 さまざまなデータに注目した上で、逆説的な視点からも石油戦争を見ることで、ほとんど報じられない意外な事実が明らかになってきます。そして、その事実が、原油相場の今後の動向を考える上で、非常に重要なヒントを与えてくれると筆者は考えています。

 図1:[参考]WTI原油価格の長期的な値動き 単位:ドル/バレル

出所:ブルームバーグのデータをもとに筆者作成