急落したことで底が近づいた原油とプラチナは、長期的に価格動向を見守りたい銘柄

 プラチナはおよそ60%が産業用の用途、およそ25%が宝飾用の用途に用いられています(2019年 WPIC[(ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル)]の統計より)。このため、世界の景気動向が悪化する懸念が生じれば、自動車排ガス浄化装置などの消費や、自分を飾る宝飾品などの消費が減少する懸念が生じます。原油も同様に、世界景気の鈍化懸念が生じれば、輸送用の燃料や、化学繊維などの消費が減少する懸念が生じます。

 現在、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、世界景気が鈍化する懸念が生じていることが、プラチナと原油の大きな下落要因になっていると言えます。原油については、3月6日(金)のOPEC(石油輸出国機構)・非OPECの会合で協議が決裂したことで、4月以降、供給が大きく増加する懸念が強まっている点も、大きな下落要因です。

 足元の下落は、新型コロナウイルスの世界的な拡大が主因ですが、実は、この2つの銘柄は、近年、もともと下落要因を抱えていました。

 プラチナについては、2015年に、ドイツの世界的な自動車メーカーであるフォルクスワーゲンが、違法な装置を使って排ガス規制を違法に逃れようとしたことが明らかになり、同社やディーゼル車への信用が大きく毀損(きそん)する出来事が強く影響しています。

 このため、主にディーゼル車の排ガス浄化装置(エンジンと消音機の間に取り付けられる、排ガスを水と二酸化炭素などに変える装置)に用いられる、触媒作用(自分の性質を変えずに相手を変えること)を持つプラチナの消費が大きく減少する懸念が生じました。

 2015年以来、プラチナの消費が増加しないのではないか? という臆測がマーケットを支配し、プラチナ価格は低迷の時期に入りました。

 原油については、2017年1月からサウジアラビアとロシアをリーダー格としたOPECプラスが原油生産量を絞り、需給バランスを引き締め、原油価格を上昇させることを企てました。しかし、米シェール主要地区の原油生産量の増加が止まらず、減産の効果が相殺され続け、目立った上昇に転じることが難しい状況が続いていました。

 このような背景があり、プラチナも、原油も、この数年間は、ともに下落圧力にさらされていました。そこに今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による石油の費の大幅減少懸念が追い打ちをかけ、さらに価格が下落したわけです。

 ただ、世界的なプラチナの調査機関であるWPICが3月に公表したデータによれば、プラチナ価格が長期的な下落局面にあった2019年は、投資需要が大きく増えたとされています。投資需要が喚起されるほど、2019年の価格は投資家に割安に映ったとみられます。

 また、原油においては、以下のとおり、3月6日(金)の会合で減産の延長が決まらなかった背景には、米シェール主要地区の原油生産量がサウジの原油生産量に肉薄したことがあったとみられます。しかし、2015年と同様、原油相場が30ドルから40ドル台でしばらく推移すれば、同地区の原油生産量の減少が目立ち始めると考えられます。

図:サウジ、ロシア、米国、米シェール主要地区の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 次回のOPEC総会(6月9日 予定)前のタイミングで、サウジの増産が進み、かつ、米シェールの生産減少が目立ち始めていれば(あるいは生産が減少することが濃厚な状態であれば)、次回の総会で減産を再開する可能性が生じます。

 今年9月はOPEC設立60周年を迎える重要な月です。加盟国が足並みをそろえて、その日を迎えることが優先されれば、なおのこと、6月の総会で減産を再開する可能性が高まります。

 プラチナ相場、原油相場、ともに、長期の下落要因がある中、短期的にも新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大によって急落しているものの、目先は、各相場を支える材料が存在しているといえます。

 長期的には、それぞれ以下のとおり、ともにリーマン・ショック(2008年)直後の安値水準、それ以降の2015年ごろにも同様の安値水準をつけ、そして現在も、同様の水準にあります。

図:プラチナ先物価格(年足)

単位:ドル/トロイオンス
出所:CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

図:原油先物価格(年足)

単位:ドル/トロイオンス
出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 さまざまな長期・短期、いずれも下落要因はありながらも、それでも、これらの銘柄は、長期的なサポートラインに支えられています。

 数日や数週間、数カ月ではなく、数年単位を意識した、長期投資という点で言えば面白い状況にあると筆者は考えています。

 仮に、新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が今後も続き、さまざまなジャンルの投資商品の価格が下落した場合は、もちろん、プラチナと原油も下落する可能性はあります。ただ、その際に注目したいのは、下値余地です。

 いずれのコモディティ(商品)銘柄も、ゼロ円になることはおそらくないと思います。記録的な安値水準にあるプラチナと原油は、恐らくはならないと考えられるゼロ円に比較的近いため、ここから下がれば下がった分だけ、かえって底堅さが増すとみられます。

 新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が一因となり、プラチナと原油は急落しましたが、ゼロ円に比較的近い、記録的安値水準まで下落したからこそ、長期を前提とした投資妙味が増したと、筆者は思います。