まずは、足元の新型コロナウイルスの感染状況を確認します。そして、新型コロナウイルスの感染拡大が始まった日から直近までの各種市場の価格動向を確認します。次に、この中から、今後、“長期的に”注目したいプラチナと原油を取り上げ、最後に具体的なこれらの銘柄に関する投資商品について述べます。

中国以外での新型コロナウイルスの感染拡大は、まだまだ続く可能性あり

 2月3週目以降、中国以外の国と地域における、新型コロナウイルスの感染拡大が目立ち始めました。WHO(世界保健機関)のデータによれば、ここ最近は、中国以外の国と地域で、毎日5,000人を超える規模で感染者が増加しています。

 一方で中国は、2月の上旬をピークに、毎日の感染者の増加数は減少傾向にあり、ここ最近は、数十人程度の規模まで減少してきました。

 感染拡大が爆発的に進行している中国以外の国と地域と、感染拡大が縮小傾向にある中国。感染状況は大きく異なっています。

図:世界全体の新型コロナウイルスの感染者(前日比)

単位:人
出所:WHOのデータより筆者作成

 一部では、“封じ込め”策を徹底したかどうかで、感染拡大を抑制できたかできなかったかが分かれた、と報じられています。実際に、中国では感染が始まった武漢市がある湖北省は大規模な感染拡大が起きたものの、それ以外の省や市では湖北省ほどの規模の感染拡大は起きていません。ある程度、湖北省で感染を食い止める“封じ込め”策が功を奏したとみられます。

 一方、目下、感染者が激増しているイタリアは、かつての中国に迫る勢いです。最近では、イタリアだけで毎日、数千人規模で感染者が増えています。もはや、中国以外の国と地域における感染大国で“第2の中国”の様相を呈しています。

図:中国とイタリアの新型コロナウイルスの感染者(前日比)

単位:人
出所:WHOのデータより筆者作成

 イタリアで特筆すべきは、同ウイルスによる死亡者数が多い点です。

図:新型コロナウイルスによる死亡者(前日比)

単位:人
出所:WHOのデータより筆者作成

 すでに、イタリアでの死亡者拡大の勢いは、かつての中国を大きく上回っています。

 また、イタリア以外のイランや韓国でも、まだ毎日数百人規模で感染者が増加しています。国単位の“クラスター感染”が起きていると言っても過言ではありません。

 “封じ込め”については、もともと国の統制力が強い中国では効果が出やすかったと考えられます。一方、中国以外の国では、国民の感染症に対する考え方や医療体制など、国によって事情はまちまちであるため、封じ込めが徹底されるかもまた、まちまちと言えます。

 人口14億人の中国では、本格的な感染拡大開始からおよそ4週間後に、感染者・死亡者の増加が鈍化し始めました。中国以外の国と地域の人口62憶人(世界の人口76億人から中国の人口を引いた値)をもとに計算すれば、感染拡大開始からおよそ18週間後に感染拡大が鈍化する計算になります。

 すでに中国以外での感染拡大が始まっておおむね4週間程度経過しているため、これから14週間後(6月下旬ごろ)にようやく感染拡大が鈍化し始める(終息ではなく)計算になります。

 もちろん、このような単純計算通りにはいかないと思いますが、強いて、目安となる考え方を持つのであれば、上記のような考え方もあるのかもしれません。いずれにせよ、しばらくは欧米を中心とした感染拡大は続くと考えられます。

新型コロナウイルスの世界的な感染拡大でほぼ、全面安

 以下は、新型コロナウイルスによって武漢市で初めて死者が出たことが報じられた1月11日(土)の直後の営業日である1月13日(月)と、3月13日(金)の価格の騰落率を示したものです(日本は祝日だったため基準は1月14日)。

図:1月13日(月)を基準とした3月13日(金)の騰落率

出所:各種情報源より筆者作成

 原油を筆頭に、ジャンルをまたいだ合計23の主要銘柄のほとんどが、1月13日よりも3月13日のほうが、価格が安くなっています。その他、下落率の下から4番目に、貴金属銘柄のプラチナの名前を確認することができます。

急落したことで底が近づいた原油とプラチナは、長期的に価格動向を見守りたい銘柄

 プラチナはおよそ60%が産業用の用途、およそ25%が宝飾用の用途に用いられています(2019年 WPIC[(ワールド・プラチナム・インベストメント・カウンシル)]の統計より)。このため、世界の景気動向が悪化する懸念が生じれば、自動車排ガス浄化装置などの消費や、自分を飾る宝飾品などの消費が減少する懸念が生じます。原油も同様に、世界景気の鈍化懸念が生じれば、輸送用の燃料や、化学繊維などの消費が減少する懸念が生じます。

 現在、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大によって、世界景気が鈍化する懸念が生じていることが、プラチナと原油の大きな下落要因になっていると言えます。原油については、3月6日(金)のOPEC(石油輸出国機構)・非OPECの会合で協議が決裂したことで、4月以降、供給が大きく増加する懸念が強まっている点も、大きな下落要因です。

 足元の下落は、新型コロナウイルスの世界的な拡大が主因ですが、実は、この2つの銘柄は、近年、もともと下落要因を抱えていました。

 プラチナについては、2015年に、ドイツの世界的な自動車メーカーであるフォルクスワーゲンが、違法な装置を使って排ガス規制を違法に逃れようとしたことが明らかになり、同社やディーゼル車への信用が大きく毀損(きそん)する出来事が強く影響しています。

 このため、主にディーゼル車の排ガス浄化装置(エンジンと消音機の間に取り付けられる、排ガスを水と二酸化炭素などに変える装置)に用いられる、触媒作用(自分の性質を変えずに相手を変えること)を持つプラチナの消費が大きく減少する懸念が生じました。

 2015年以来、プラチナの消費が増加しないのではないか? という臆測がマーケットを支配し、プラチナ価格は低迷の時期に入りました。

 原油については、2017年1月からサウジアラビアとロシアをリーダー格としたOPECプラスが原油生産量を絞り、需給バランスを引き締め、原油価格を上昇させることを企てました。しかし、米シェール主要地区の原油生産量の増加が止まらず、減産の効果が相殺され続け、目立った上昇に転じることが難しい状況が続いていました。

 このような背景があり、プラチナも、原油も、この数年間は、ともに下落圧力にさらされていました。そこに今回の新型コロナウイルスの世界的な感染拡大による石油の費の大幅減少懸念が追い打ちをかけ、さらに価格が下落したわけです。

 ただ、世界的なプラチナの調査機関であるWPICが3月に公表したデータによれば、プラチナ価格が長期的な下落局面にあった2019年は、投資需要が大きく増えたとされています。投資需要が喚起されるほど、2019年の価格は投資家に割安に映ったとみられます。

 また、原油においては、以下のとおり、3月6日(金)の会合で減産の延長が決まらなかった背景には、米シェール主要地区の原油生産量がサウジの原油生産量に肉薄したことがあったとみられます。しかし、2015年と同様、原油相場が30ドルから40ドル台でしばらく推移すれば、同地区の原油生産量の減少が目立ち始めると考えられます。

図:サウジ、ロシア、米国、米シェール主要地区の原油生産量

単位:百万バレル/日量
出所:EIA(米エネルギー情報局)のデータをもとに筆者作成

 次回のOPEC総会(6月9日 予定)前のタイミングで、サウジの増産が進み、かつ、米シェールの生産減少が目立ち始めていれば(あるいは生産が減少することが濃厚な状態であれば)、次回の総会で減産を再開する可能性が生じます。

 今年9月はOPEC設立60周年を迎える重要な月です。加盟国が足並みをそろえて、その日を迎えることが優先されれば、なおのこと、6月の総会で減産を再開する可能性が高まります。

 プラチナ相場、原油相場、ともに、長期の下落要因がある中、短期的にも新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大によって急落しているものの、目先は、各相場を支える材料が存在しているといえます。

 長期的には、それぞれ以下のとおり、ともにリーマン・ショック(2008年)直後の安値水準、それ以降の2015年ごろにも同様の安値水準をつけ、そして現在も、同様の水準にあります。

図:プラチナ先物価格(年足)

単位:ドル/トロイオンス
出所:CME(シカゴ・マーカンタイル取引所)のデータをもとに筆者作成

図:原油先物価格(年足)

単位:ドル/トロイオンス
出所:CMEのデータをもとに筆者作成

 さまざまな長期・短期、いずれも下落要因はありながらも、それでも、これらの銘柄は、長期的なサポートラインに支えられています。

 数日や数週間、数カ月ではなく、数年単位を意識した、長期投資という点で言えば面白い状況にあると筆者は考えています。

 仮に、新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が今後も続き、さまざまなジャンルの投資商品の価格が下落した場合は、もちろん、プラチナと原油も下落する可能性はあります。ただ、その際に注目したいのは、下値余地です。

 いずれのコモディティ(商品)銘柄も、ゼロ円になることはおそらくないと思います。記録的な安値水準にあるプラチナと原油は、恐らくはならないと考えられるゼロ円に比較的近いため、ここから下がれば下がった分だけ、かえって底堅さが増すとみられます。

 新型コロナウイルスの世界規模の感染拡大が一因となり、プラチナと原油は急落しましたが、ゼロ円に比較的近い、記録的安値水準まで下落したからこそ、長期を前提とした投資妙味が増したと、筆者は思います。

プラチナと原油関連の具体的な投資商品

 以下は、プラチナと原油関連の具体的な投資商品の例です。

図:プラチナと原油関連の具体的な投資商品の例

出所:筆者作成

 あくまで、数年単位の長期投資を前提とした投資商品の例です。今後の投資活動の参考になれば幸いです。