正しい「売り方」の理屈

 数式を嫌う読者が多いので、「株の正しい売り方」の一般論について、少し長いけれども言葉で書いてみる。運用する資金量が一定の場合だ。

「ポートフォリオの銘柄Aのウエイトを少し減らし、他の銘柄(保有していない銘柄を含む)のウエイトを少し増やした時に、ポートフォリオ全体の『効用』が改善する場合に限りその範囲で、銘柄Aを売ることが正しい」。

 ポートフォリオの効用に影響を与えるのは、銘柄Aのリターン、銘柄Aがポートフォリオに及ぼしているリスク(銘柄Aのリスクの大きさ、銘柄Aのウエイト、銘柄Aと他の銘柄のリスクの相関関係、他の銘柄のウエイト)、そして売買コストだ。

 銘柄Aの期待リターンが低下するのは主に次の2つの場合だろう。
(1)銘柄Aの業績見通しが悪化した
 あるいは、
(2)銘柄Aが値上がりして期待リターンが下がった
 元々、個別に銘柄Aを買って、これまで持っていた理由は、銘柄Aが特に優れていると考えられる情報(利益予想の上方修正、株価の割安、など)があったからだろう。

 平たく言い換えるなら、銘柄Aを「買った理由がなくなった時」に、銘柄Aを売ることが検討の俎上(そじょう)に上る、と覚えておくといい。

 他方、可能性としては、別の銘柄の期待リターンが高くなったと分かった場合がある。この場合、銘柄Aの期待リターンが悪化していなくても、銘柄Aを売って作った資金で別の銘柄(複数の場合もある)を買うことが正しくなる。

 銘柄Aのウエイト変化がポートフォリオのリスクに与える影響も「売る理由」になる。例えば、銘柄Aが買値から何倍にも値上がりすると、ポートフォリオの中で銘柄Aのリスクの影響が過大になり、ポートフォリオの効用が低下する。この場合、銘柄Aを売ることが正しい。

 ただし、ここで注意が必要なのは、銘柄Aのウエイトをある程度下げると、ポートフォリオ全体のリスクが改善し、銘柄Aを売る理由がなくなることだ。プロの運用者でも、ファンドマネジャーに成り立ての頃は、自分が売ると決めた保有銘柄の保有株数を一度に全部売ってしまうことがあるが、多くの場合、これはポートフォリオのバランスを損なったり、過大な売買コストを掛けたりして、運用成績を損なう原因になる(そして、運用が下手だと、そのこと自体に気付かない)。

 株価の値上がりが売却理由である場合は、部分的な売却が正しい判断になる場合が多いことを覚えておくといい。