2)2020年3月期通期会社予想は1%増収、88%営業増益で変更なし

 今1Q、2Qの業績好調にもかかわらず、会社側は2020年3月期通期の会社予想業績を修正しませんでした。会社予想は売上高2兆9,500億円(前年比1.3%増)、営業利益1,100億円(同88.1%増)です。今上期で上振れた利益を将来のための追加投資に使うことや、システム開発の前倒しがありうると思われます。

 また、日本電気単独の国内ITサービス受注高は今1Qに前年比17%増となった後、今2Qは同10%減となりました。製造業向けがスローダウンしたこと、官公庁、自治体向けは基調は堅調ですが、前2Qの受注が好調だった反動が出たことによります。ただし、国内のITサービス市場の勢い自体は堅調な動きが続いているもようです。

 来期2021年3月期も業績拡大が予想されます。Windows7サポート切れ特需の反動が予想されますが、パブリック、ネットワークサービスの増加が予想されます。エンタープライズも今期よりは勢いが増す可能性があります。特に、5G関連、AI関連の事業拡大が期待できます。

 楽天証券では、2021年3月期を売上高3兆300億円(前年比2.7%増)、営業利益1,450億円(同31.8%増)と予想します。前回予想は、売上高3兆円(同1.7%増)、営業利益1,350億円(同22.7%増)と予想していましたが、5G基地局整備の前倒しの可能性、パブリックの好調が続く可能性を考慮しました。

3)5G、AIに、量子コンピュータが加わる

 日本電気は5G基地局ビジネスで富士通と並んで国内では大手です。2020年春から日本でも5Gサービスが始まる予定ですが、もともとの日本電気の予想は、日本の5G基地局投資は2020年3月期の数十億円の水準から2021年3月期は300億~400億円、2022年3月期には約1,200億円へ急増し、その後2026年3月期の約2,500億円まで安定成長が続くというものでした。

 ところが、これでは諸外国に対して日本の5Gの競争力が劣後してしまうと危惧した総務省が、各通信会社に対して前倒しで5G基地局を整備するよう要求しているもようです。そのため、2021年3月期から日本での5G基地局ビジネスが本格的に立ち上がる可能性があります。

 日本電気は伝統的にNTTドコモ向けが強いこともあり、30~40%程度の市場シェアが期待できると思われます(競合は富士通、ノキア、エリクソン、サムスンだが、日本電気=サムスン、富士通=エリクソンは提携関係にある)。

 AIでは、AIを使った顔認証技術で日本電気は世界最高の評価を受けています。2019年10月には、米国国立標準技術研究所より顔認証技術のベンチマークテストにおいて世界第1位の評価を獲得しましたが、1位はこれで5回目です。1,200万人分の静止画の認証エラー率0.5%という高性能が評価されました。

 日本電気のAI顔認証システムは、現在までにコンサートの入場者管理に採用されており、空港のゲート管理(2020年に成田空港などで開始、世界展開も行っている)、2020年東京オリンピック・パラリンピックの大会関係者の入退場チェックなどへの導入が決まっています。AI顔認証システムの年間売上高はハードウェアを入れて推定数十億円とまだ小さいですが、日本電気の情報システムの競争力として重要なものになっています。また、AIの医療への応用(特に、創薬への応用)を進めています。

 更に、5G、AIに、2023年を目途に量子コンピュータが加わる計画です。日本電気では量子アニーリング型量子コンピュータを開発中であり、2023年の実用化を目指しています。そして、そのマシンを使った高速計算サービスを始める計画であるもようです。

 日本で独自開発の量子コンピュータを開発しているのは、企業では日本電気(量子アニーリング型)とNTT(量子ニューラルネットワーク型)の2社のみです。このうちNTTの量子ニューラルネットワーク型はNASA、米スタンフォード大学などと共同で10年後の完成を目指すものなので、実用化には時間がかかります。また、富士通や日立製作所が開発した量子アニーリングの機能を取り入れたデジタル回路型コンピュータは、実際に量子アニーリング型や量子ゲート型が実用化されたときの位置づけが不透明になる可能性があります。

 このため当面は、量子アニーリング型が量子コンピュータの特性を生かしつつ早く使えるようになる量子コンピュータと言えるため、需要は大きいと思われます。

 このように見ていくと、計画通りに2023年に量子アニーリング型の実用化に成功すれば、日本電気は日本における量子コンピュータの第一人者ということになります。日本のITサービス大手にとって、この地位には大きな意味があります。

4)今後6~12カ月間の目標株価を5,800円から6,600円に引き上げる

 今後6~12カ月間の目標株価を前回の5,800円から6,600円に引き上げます。2021年3月期の楽天証券予想EPS331.3円に想定PER20倍を当てはめました。引き続き投資妙味を感じます。

本レポートに掲載した銘柄:日本電気(6701)