市場が非効率的でも強い!

 さて、前記の(1)から(4)が生じるに当たって「市場が効率的」であることが説明に使われていないことに気づいて欲しい。ミスター・アベレージのようなインデックス運用は、市場が効率的であってもなくても強いのだ。

 運用業界にとって不都合な2つの真実のうち、アクティブ運用の平均がインデックス運用に勝てない(事実1)は、必然的に起こる。

 アクティブ運用ビジネスにとって真の問題は(事実2)の方なのだ。11人のファンドマネジャー・モデルに即していうなら、(A)アクティブ10人衆の中で安定的かあるいは予測可能な優劣があるか否か、(B)仮に予測可能な優劣があるとしても第三者がこれを見分けることができるか、の2点が問題だ。

 仮に市場が効率的であれば、アクティブ運用のチャンス自体が存在しないのだから、(A)が成立しないことが自明だ。

 一方、市場が効率的(株価形成が正しいという意味で)でなくとも、アクティブ10人衆の持つ情報や能力に差が無い場合、彼らはランダムに勝ったり負けたりする可能性が大きい。

 また、曲がりなりにも運用のプロであるアクティブ10人衆がお互いの優劣が分からずに戦っている状況下で、「運用を他人に任せよう」と考える素人投資家やファイナンシャル・アドバイザーなどが、10人衆のうち、次に勝つ確率が大きいのは誰かを見分けられる能力があると考えることにはリアリティが乏しい。

 仮に、10人の中に安定した優劣関係があって、第三者がこれを知るようになると、資金は優秀なファンドマネジャーのところにだけ集まって、他のファンドマネジャーは遠からず失業するだろう。

 しかし、そのような事は、現実には起こっていない。

 完全な証拠固めができた訳ではないが、市場は非効率的であり株価の間違い(ミスプライシング)は頻繁に起こっているが、運用者の能力はこれを直ちに修正できるほど高くなく、かつ運用者間の優劣は安定せず、第三者に運用者を見分ける能力などない、といった状況が、日本の株式市場でも、米国をはじめとする外国のマーケットでも実態に近いのではないかと思われる。こう考えると現実の全てに得心がいく。

 加えて、こうした状況下で、まして手数料が低廉で売買コストが小さいのだから、インデックス運用がアクティブ運用に勝ちやすいことは明白だ。

 加えて、11人のファンドマネジャー・モデルで考えていただくと、運用パフォーマンスの競争にあっては、「ライバルの平均」を持つ事が有利であり、特別に有利な情報が無い場合のセオリーであることがお分かりいただけよう。現実に、アクティブ運用は、ビジネス的な利害からも、「ライバルの平均(となるポートフォリオ)」を意識して行われている。

 付け加えると、大きな年金基金などが、アクティブな運用者をたくさん雇った場合、彼らが運用するポートフォリオの合計はインデックス・ファンドに近づいていく。例えばGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のような巨大基金が十数社ものアクティブ運用機関を雇うとすると、それは実質的に委託金額の大半がインデックス運用で代替可能な無駄であり、多くのアクティブ運用者により高い運用手数料を払っているとすると、それは運用会社に対する慈善事業に近い。

 ともあれ、読者は、インデックス運用の優位性は、市場の効率性の正否のような高尚な(?)議論とは別次元の、もっと頑健な原理によって成立していることを理解されたい。

 

【追記】

 インデックス運用が有利なのは、(1)運用ゲームにおいてライバルの平均を持つことの有利性と、(2)余計な経費(信託報酬も、ファンド内の売買コストも)が掛からないこと、の2点によるもので、巷間よく言われる「市場の効率性」は無関係だ、ということが本稿で言いたいことです。

 現実の市場は非効率的だと思いますが、アクティブ運用の側にこれをコンスタントに利用できるスキルがないのが現実でしょう。もっとも、そんなに凄い「スキル」が本当にあるなら、もったいなくて他人のお金なんか運用できない!

(2019.12.24、山崎元)