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本レポートに掲載した銘柄

アルプス電気(6770)ソニー(6758)日東電工(6988)TDK(6762)日本写真印刷(7915)村田製作所(6981)

 

9月12日、「iPhoneⅩ」発表

 9月12日10時(日本時間9月13日2時)、米アップルは新製品発表会を開催しました。新型iPhone、Apple Watch、アップルTVについて発表がありました。ここでは新型iPhoneについて解説します。

 新型iPhoneの中身は、名称など一部に違いはあるものの、9月1日付け楽天証券投資WEEKLYで予想したものとかなり一致しています。事前にネット上に大量の情報が出回っていたため、実は大きなサプライズはありませんでした。もっとも、後述の「iPhoneⅩ(テン)」については先端技術を詰め込んだ機種であり、話題性は大きいと思われます。

 まず新型iPhoneの名前ですが、従来の「iPhone7」「iPhone7Plus」の延長線上の機種が「iPhone8」「iPhone8Plus」となります。画面サイズは「7」シリーズと同じで、「8」が4.7インチ、「8Plus」が5.5インチになります(表2)。

 そして、まったくの新型が「iPhoneⅩ(テン)」であり、画面サイズは5.8インチです。有機ELディスプレイを搭載しており、全面フルスクリーンです。

 予約開始日と発売日は、「8」「8Plus」が9月15日から予約受付開始、9月22日発売。「Ⅹ」は、遅れて10月27日から予約受付開始、11月3日発売です。

 新型iPhone(「8」「8Plus」「Ⅹ」、以下同様)の発売によって、2018年9月期のiPhone販売台数は、2016年9月期、2017年9月期よりも高い率で伸びると予想されます。スペックと価格の詳細は後述しますが、まず「8」シリーズの価格が2016年9月発売の「7」シリーズとほぼ同じ水準であり、性能向上を考えると「8」シリーズに割安感があります。

 一方、「Ⅹ」は「7」シリーズよりも高価格にはなっていますが、有機ELディスプレイや顔認証システムを搭載し、画面サイズが大きくなっていること、最新のCPUを搭載していることなどを考えると、20%の価格上昇は許容範囲と思われます(「7Plus」256GBが107,800円→「Ⅹ」256GBが129,800円、いずれも税抜き価格)。新しいものが好きなユーザーは「Ⅹ」を購入すると思われます。

 iPhoneはこれまでもスマートフォンの大きな流れを作ってきました。新型iPhone(特に「Ⅹ」)が作り出す流れは中国製高級スマホにも波及すると思われます。そして、スマートフォンは高級になるほど高級部品を数多く使います。スマートフォン関連の日本の電子部品メーカーが新型iPhoneから受ける恩恵は、直接・間接ともに大きいと思われます。

 ただし、リスクもあります。「Ⅹ」は有機ELディスプレイの供給に限界があると言われていること(メーカーはサムスンのみと言われています)、NAND型フラッシュメモリ、電池などの重要部品も不足気味になっているにもかかわらず、人気が高くなると思われることから、当面は品薄になると予想されます。一方、「8」シリーズは人気があまりでない可能性もあります。もしそうなるとiPhone全体の販売台数が伸び悩む可能性もあります。このリスクに注意しつつ、まずは9月15日からの「8」シリーズの予約状況を観察したいと思います。

 

表1 アップルの年度ベースiPhone販売台数

単位:万台
出所:Apple社資料より楽天証券作成
注:全機種を含む数字。予想は楽天証券。

 

新型iPhoneのスペック

「iPhoneⅩ」「iPhone8」「8Plus」の主要スペックは以下の通りです(表2)。

表2 新旧iPhoneの比較

出所:アップルホームページ、各種報道より楽天証券作成
注1:価格は税抜き。
注2:iPhone7、7Plusの価格とストレージのタイプは発売時のもの。現在の価格は「8」シリーズ、「Ⅹ」発表時に値下げされ、ストレージは256GBが廃止された。

画面:「Ⅹ」の画面は、有機ELディスプレイが採用され、全面フルスクリーンになりました。ホームボタンはなく、ほとんどの操作を画面上で行います。これに対して「8」「8Plus」は「7」シリーズと同様の体裁になっています(ホームボタンもあります)。

認証:「Ⅹ」の認証システムとして顔認証(Face ID)が採用されました。画面側の上部に顔認証用のカメラとセンサー類が付いています。「8」「8Plus」は「7」シリーズ同様指紋認証(Touch ID)です。

カメラ:「Ⅹ」のカメラは縦型のデュアルカメラ(眼が2つ)で、各々画素数12メガピクセル(MP)の広角カメラと望遠カメラです。カメラの眼一つにつき12MPという画素数は、「7」シリーズと「8」シリーズ、「Ⅹ」は同じですが、4K動画撮影時の性能は「8」シリーズ、「Ⅹ」とも「7」シリーズよりも向上しています。カメラのイメージセンサーは、アップルによればより大きくより速くなりました。

 また、「Ⅹ」には広角カメラ、望遠カメラともに手ブレ補正機能が付いています。これもカメラが高性能化した要因です。なお、「7」「8」は単眼カメラに手ブレ補正機能がついています。デュアルカメラの「7Plus」には広角カメラのみに手ブレ補正機能が付き、望遠カメラにはオートフォーカス(AF)機能のみが付いていました(「8Plus」も「7Plus」と同じと思われます)。

 カメラ全体が高性能化しているため、AR(拡張現実)機能が充実しました。AR機能の充実は、新型iPhoneの「売り」の一つです。

CPU:「8」「8Plus」「Ⅹ」のCPUは「A11Bionic」チップで、「7」シリーズの「A10」よりも高速化、高性能化されています。コア数は「A10」の4コアから増え6コアになりました。ニューラルエンジン(神経回路エンジン)を採用しているため、AI(人工知能)を動かすのに向いたCPUでもあります。

電池:「Ⅹ」の電池(リチウムイオン電池)は従来に比べ最大2時間長持ちするようになりました。

充電方式:「8」「8Plus」「Ⅹ」ともにワイヤレス充電が可能になりました。

ストレージ:「8」「8Plus」「Ⅹ」ともに、ストレージは64GB、256GBの2種類です。「7」シリーズは32GB、128GB、256GBの3種類でしたが変更されました。事前の情報にあった「Ⅹ」に512GBバージョンが加わるという情報は実現しませんでした。おそらく端末価格が高くなりすぎること、NAND型フラッシュメモリの不足によるものと思われます。

価格:「iPhone8」64GBは699ドル(78,800円)、「8Plus」64GBは799ドル(89,800円)です(価格は全てアップル直販(SIMフリー版)の税抜き価格)。表2の価格欄をみるとわかりますが、「7」シリーズ→「8」シリーズへの性能向上を考えると、「8」シリーズは割安と言ってよいと思われます。この割安さに着目して購入するユーザーは少なからずいると思われます。

 一方、「iPhoneⅩ」64GBは999ドル(日本では112,800円)、同256GBは1,149ドル(129,800円)であり、特に「Ⅹ」256GB版の価格の高さが目立ちます。もっとも、「7Plus」256GB版の発売時(2016年9月)価格は969ドル(107,800円)だったので、iPhoneの最上級機種はいつも高価格であると言えます。また、このハイスペックで日本で約13万円(税込みで約14万円)は仕方のないところです。コストパフォーマンスを考えると、「Ⅹ」の価格が飛び抜けて高いわけではないと思われます。

 今後の問題は、通信各社の料金プランがどのようなものになるかです。ソフトバンクが9月22日から提供するプランでは、「iPhone8」以降の機種について48回払いで購入して25カ月目以降に機種変更すると残債の支払いが不要になります。これが販売台数にどの程度効果があるか注目されます。

予約開始日と発売日:「8」「8Plus」は予約開始が9月15日からで発売日は9月22日、「Ⅹ」は予約開始が10月27日からで発売日は11月3日です。いずれの機種も予約状況と販売動向が注目されます。特に、「Ⅹ」の人気度合いは今後の高級スマホのトレンドを大きく左右すると思われます。たとえば、「Ⅹ」の人気が大きいと、有機ELディスプレイ、顔認証、カメラの高性能化が中国スマホに波及する可能性が高くなります。ここが今後の大きな注目点です。実際、アップルは「Ⅹ」をして今後10年間のスマートフォンを見据えた製品と位置づけています。

 また、予想されるユーザー層は、「8」シリーズ、「Ⅹ」ともに、iPhoneで過去最大の販売台数だった「6」を今も使っているユーザーと発売後2年経過した「6s」のユーザー、そしてAndroidから乗り換える新規ユーザーです。これらのユーザー層が新型iPhoneに向かえば、2018年9月期のiPhone販売台数は過去最高を更新する可能性があります。

その他(通信機能、ハプティックなど):アップルの説明会では、通信機能については触れられませんでしたが、CA(キャリアアグリゲーション:電波を数本まとめて大容量高速通信を実現する技術。最大5波まで可能)については高度化する見込みです。日本の通信会社では、KDDI(au)が「8」「8Plus」について4波CAサービスを東名阪の一部地域から導入します(理論値は下り最大558Mbps)。「Ⅹ」でも4波CAに対応すると思われます。NTTドコモ、ソフトバンクの対応は現時点では不明ですが、対応が進むと思われます。

 ハプティック(触覚)デバイス(3D Touch)についても、説明会では特に言及がありませんでした。これについては、実際に使ってみなければ機能向上の程度はわかりません。

 iPhoneの性能向上は一世代だけで完了するわけでなく、毎年性能向上が図られてきました。今回のモデルだけでなく、2018年以降のモデルにも大きな変化が予想されます。例えば、インカメラの性能向上(現在は単焦点だが、今後2~3年でAF機能、手ブレ防止機能が搭載される可能性がある)、通信機能の向上(2019年以降に5G(第5世代移動体通信、今以上に大容量高速通信が可能になる)に対応する可能性がある)、ディスプレイの機能向上、カメラの性能向上などです。

 

関連銘柄

 電子部品メーカーは顧客名やその動向をコメントしません。以下の関連銘柄は各種メディアの情報や市場シェアから類推したものです。

 

アルプス電気(6770)

 AF機構、手ブレ補正機構に使うAF用アクチュエーター、手ブレ補正用アクチュエーターは、世界シェアの約80%をアルプス電気が生産、販売しており、ミネベアミツミ(旧ミツミ電機)、TDKが続いています。このうち、アルプス電気、ミネベアミツミがiPhoneに関連していると思われます。手ブレ補正用とAF用は単価に大きな開きがあると言われており(手ブレ補正用が高い)、iPhoneの全販売台数の中でデュアルカメラ比率が高くなること、「Ⅹ」のデュアルカメラに使われるアクチュエーターが全て手ブレ補正用に切り替わるということは、アルプス電気の業績に良い影響を与えると思われます。

 また、2~3年後には、現在単焦点でアクチュエーターが搭載されていないインカメラにもAF用あるいは手ブレ補正用アクチュエーターが搭載される可能性があります。これは自撮り機能の性能向上のためです。

 

ソニー(6758)

 高級イメージセンサーで世界トップのソニー半導体部門も、デュアルカメラ比率が高くなることで大きなメリットを受けると思われます。今回はイメージセンサーの画素数増加はありませんでしたが、来年は画素数が更に増加する可能性があります。また、インカメラの高性能化が進む可能性もあります。そうなれば、ソニーへの良い影響が期待されます。

 また、ソニーが開発した非接触型ICカード技術方式である「FeliCa(フェリカ)」が、「8」「8Plus」「Ⅹ」に標準搭載されました。従来は「7」シリーズの日本仕様にのみ搭載されていました。

 

日東電工(6988)

 「Ⅹ」の人気が大きくなれば、今後の高級スマートフォンのディスプレイに有機ELディスプレイが使われるケースが多くなると思われます。有機ELディスプレイは自家発光するため、液晶のように後ろからバックライトで照らす必要がなく、ディスプレイを薄くできます。そのため、スマートフォンに新たな機能を搭載することが容易になります。

 また、ディスプレイを曲げることができるため、液晶に比べデザインが柔軟になります。たとえば、折畳み式スマホが実現できるようになります。

 有機ELディスプレイが高級スマートフォン用ディスプレイの主流になれば、有機ELディスプレイ用材料を幅広く生産、販売している日東電工、有機ELディスプレイ用偏光板を手掛けている住友化学に恩恵が大きいと思われます。特に日東電工は今1Qの業績が好調でした。

 また、ブイ・テクノロジー、平田機工、アルバックのような有機ELディスプレイ製造装置のメーカーも注目されます。

 

TDK(6762)

 スマートフォンで電話、メールなどの通信を行うだけでなく、テレビ、映画などの長時間視聴をするユーザーが増えています。そのため、スマートフォン用電池にも小型化、薄型化だけでなく大容量化が求められています。「Ⅹ」の電池は「7」シリーズよりも大容量化していると思われますが、実際には発売後に分解レポートが出るのを待つ必要があります。

 電池の重要性は今後も変わりません。スマートフォン電池トップのTDKに注目したいと思います。また2~3年後を見ると、ソニーから電池部門を買収した村田製作所の電池戦略も注目されます。

 

日本写真印刷(7915)

 新型iPhoneの画面には静電容量タッチパネルが搭載され、日本写真印刷などが供給していると言われています。

 

半導体関連銘柄

 「iPhone7」シリーズのストレージは、32GB、128GB、256GB で、売れ筋は128GBと思われます(新型iPhone発表時に32GB、128GBに変更され、256GBは廃止された)。「8」「8Plus」「Ⅹ」は64GB、256GBですが、売れ筋は256GBになると思われます。平均すると従来の2倍のストレージ容量になるため、新型iPhone全体が売れれば、ストレージの材料になっているNAND型フラッシュメモリの需要が増加し、今の品不足が長期化し、メモリへの設備投資も高水準な状態が続く可能性があります。NAND型フラッシュメモリ世界2位の東芝(東芝メモリ)、半導体製造装置大手の東京エレクトロン、ディスコなどへの恩恵が考えられます。

 また、新型iPhone用CPUの「A11」はTSMC(世界最大の半導体受託製造業者、台湾)が受託生産していますが、2018年秋発売の次のiPhoneに搭載される「A12」はTSMCの他に一部の生産が韓国サムスン電子に委託されると言われています。「A11」の線幅は10ナノですが、「A12」は7ナノです。「8」シリーズと「Ⅹ」の売れ行きがよければ、それが次のiPhoneの好調を予想させ、「A12」への投資、ひいては足元で静かになっているTSMCの半導体設備投資とサムスンのロジック投資が増加する可能性があります。この場合も半導体製造装置メーカーへの恩恵が考えられます。iPhone関連としても半導体関連銘柄が重要なのです。

 

村田製作所(6981)

 前述のように、今回のアップルの説明会では通信性能に関するコメントがありませんでした。ただし、新型iPhoneで4波CAが実現する模様です。このように、通信性能は毎年着実に向上しており、来年以降も継続的に通信性能が強化されると思われます。さらに、2019年以降になると、5Gへの対応がスマートフォンでも始まると思われます。通信分野で大きな変化が予想されます。

 村田製作所の今期は、一部部品の受注が減った可能性があるため、業績の伸びが鈍くなる模様です。ただし、各製品の市場シェアから考えて、新型iPhone向けにも、従来同様チップ積層セラミックコンデンサ、SAWフィルタなどの重要部品を納入していると思われます(「7」シリーズに比べて新型iPhone向けは搭載個数が増えていると思われます)。iPhoneの通信性能向上は着実に進展していくと思われるため、来期に再び業績の伸びが高くなると思われます。

 また、新製品である樹脂多層基板「メトロサーク」が高級スマホ向けに採用された模様です。2~3年先になると思われますが、ソニーから買収した電池部門の拡大、強化という期待もあります。中長期スタンスで村田製作所への投資を考えたいと思います。

表3 主なスマートフォン用電子部品の概要

出所:会社資料とヒアリングより楽天証券作成。
注:Samsung Electro-Mechanicsは韓国サムスン電子系の電子部品会社。

 

本レポートに掲載した銘柄:アルプス電気(6770)ソニー(6758)日東電工(6988)TDK(6762)日本写真印刷(7915)村田製作所(6981)