米中貿易戦争の激化で増加した中国のブラジル産大豆輸入量と米国の大豆在庫

 以下は、中国の大豆輸入量です。

米国の穀物年度に準じ、9月を期初、翌年8月を期末としているため、例えば2018年=2018年9月から2019年8月までの合計です。

単位:百万トン
出所:※USDAのデータをもとに筆者作成
※USDA=United States Department of Agriculture:米国の農務省

 2018年度は前年度比、およそ800万トン減少しました。米中貿易戦争が激化した2018年5月ごろから同年8月までは2017年度に含まれるため、実際には貿易戦争の影響は17年度から出ていたと考えられます。

 このおよそ800万トンの減少分の内訳を確認するため、地域別の輸入量を確認します。

単位:百万トン
出所:※USDAのデータをもとに筆者作成
※USDA=United States Department of Agriculture:米国の農務省

 

 2010年度までは両半球からの輸入量は同じくらいでした。中国は増大する国内の大豆消費に対し、季節が逆の北半球と南半球から交互に輸入し、おしなべて年間を通じて安定供給ができる体制をとっていたとみられます。

 2011年以降、南半球からの輸入量の増加分が北半球からの輸入量の増加分を上回る状況が続きました。南半球の国からの輸入拡大の方が、都合がよかったのだと考えられます。

 そして2018年度、前年度に比べ、南半球の国からの輸入量の増加が継続、北半球からの輸入量が減少するという、米中貿易戦争が主因とみられる変化がみられました。

 2017年度から2018年度にかけて、北半球からの輸入量はおよそ1,670万トン減少、南半球からの輸入量はおよそ823万トン増加しました。差し引きすれば、およそ840万トン減少です。

もっと詳細に見ていきます。半球別に月単位の相手国別輸入量を確認します。

単位:百万トン
出所:ブルームバーグ(原典:中国税関のデータ)より筆者作成

 月単位で見ると、大豆の生産サイクルに応じて、中国は北半球からと南半球から、大豆を調達していることがわかります。南半球からの輸入のピークは毎年6月ごろ、北半球からのピークは12月ごろです。生産国で収穫期を過ぎ、輸出が最盛期を迎える時期です。

 半球ごとに、国別の輸入量を見てみます。以下は北半球です。

単位:百万トン
出所:ブルームバーグ(原典:中国税関のデータ)より筆者作成

 次は南半球です。

 図:中国の相手国別大豆輸入量(南半球) 

単位:百万トン
出所:ブルームバーグ(原典:中国税関のデータ)より筆者作成

 北半球からの輸入量が大きく増加するはずだった2018年12月に増加しなかったこと、そして南半球からの輸入量が大きく減少するはずだった2018年と19年の2月頃に減少しなかったことは、まさに米中貿易戦争の激化で中国が米国産大豆の輸入を減少させ、その代替をブラジルに求めたことによって起きたことと考えられます。

 このような変化を反映したのが、大豆在庫です。以下のとおり、中国向け輸出が急減した米国産大豆の在庫は記録的な水準まで積み上がり、中国向け輸出が大きな減少とならなかったブラジル産大豆の在庫はやや減少しています。

単位:百万トン
出所:※USDAのデータをもとに筆者作成
※USDA=United States Department of Agriculture:米国の農務省

 米中貿易戦争が目立った激化傾向となりおよそ1年半が経過しようとしています。この間、中国は米国産大豆の輸入を大きく減少させたわけですが、その影響で中国はブラジルにその代替を求め、その結果、北半球と南半球の主要大豆生産国の在庫の状況を大きく変貌させました。

 大豆相場への影響は、米国産大豆の記録的なモノ余りが、頭を抑える重石として作用しているとみられますが、逆に、この重石が取れれば、長期的に低迷している大豆相場の大きな反発要因になると考えられます。