「吸血国家という自由と繁栄の殺人鬼」 フェルナンド・デル・ピノ・カルボ=ソテロ

(「www.fpcs.es」に2019年7月5日掲載)

米国政府の財政赤字は年1兆ドルどころか、6兆ドル(GDP の29%)

 社会主義者にはフリードリヒ・ハイエク(オーストリア学派の泰斗)が非難した致命的傲慢さがある。政治家とその子分たちは、私たちのおカネの行き先について私たち各人よりも熟知しており、より良い決定ができる」という選民思想だ。しかし、連中を支えているのは、一連の不合理な規則・規制で一般市民の活動を難しくすることには長けた無数の極めて非生産的な官僚たちである。

 もちろん、現実は全く逆だ。皆のおカネ(公金)は政治家に管理されると誰のおカネでもなくなる。そして、あきれかえることに、その希少資源(これもまた社会主義者には未知の概念だ)は助成金という破廉恥な票の買収に、とてつもなく巨額で壮観なピラミッドのような公共投資に、権力の触手を伸ばしていく巨大官僚組織の増殖・維持に浪費されてしまうのだ。

 もちろん、公的支出は増加する一方である。減少することはない。各省庁の予算が権力の尺度となるからだ。その削減を計画するものなど、ただのひとりもいない。

「公的」資金では、損益計算書や貸借対照表の心配がない。また、会計の真実性を確認するための説明や監査を要求する投資家もいない。そうした資金の運用で犯した失敗に対して責任を持つ人など誰もいない。

 ※米国の非営利団体「トゥルース・イン・アカウンティング」が推計したところ、拡大する積立不足分(社会保障、メディケア、年金など)を含めると、米国政府の財政赤字は年1兆ドルどころか、6兆ドル(GDP[国内総生産]の29%)近くになる。

 実際のところ、すべての西側諸国で公的債務が不合理な水準にある。これは吸血国家のバラマキ濫用と馬鹿げた選挙公約のインフレが、国家としてできる範囲を超えて私たちを裕福に生活させている明らかな兆候といえる。

 2008年に金融危機があったとき、スペインの失業率は8%で、公的債務はGDP比36%強だった。それが今や失業率は15%で、債務はGDP比100%である。後者はラインハートとロゴフが証明したように経済成長の足を引っ張る水準だ(訳注:日経BP刊『国家は破綻する』で著者のカーメン・ラインハートとケネス・ロゴフは「政府債務の対GDP比が少なくとも90%に達すれば、GDP成長率が減速し始める」と主張した)。

 次の景気後退に直面したとき、こうした重荷が、どのようにのしかかってくるだろうか。そして、そのあと必然的に来る景気後退についてはどうか。

米国株の「妥当」な大天井は2018年1月26日に付いている

 以下は私の個人的見解である。完全に間違っている可能性があることを認めておく。しかし、私が見解を明らかにするときは通常、注意深くみた事実に基づいている。

 米国株は、わずかな例外を除き、魅力的ではない。今後5〜10年に大幅な売買益を投資家にもたらすことはないだろう。これまで何度も述べてきたように、米国株の「妥当」な大天井は2018年1月26日に付いている(図15)。

 確かにS&P500株価指数は2018年1月天井の2872に続いて、さらに天井を2回付けた。2018年9月の2940 と2019 年7月下旬の3027 である。しかし、これらの高値は大多数の銘柄によって達成されたものではない。

 NYSE(ニューヨーク証券取引所)の全上場銘柄を対象としたNYSE総合指数は、2018年1月に天井を付けた。また、S&P500 を構成する金融株・資本財株・素材株の業種別株価指数も同時期に天井を付けている。

図15 S&P500(2016~2019年)

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2019年9月号「介入を求めるのは、支配を求める誤った入口」

 NYFANG 指数(訳注:FANG 関連10銘柄による株価指数)が天井を付けたのは2018 年6月下旬だ(図16)。

図16 NYFANG指数(2017年-2019年)

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2019年9月号「介入を求めるのは、支配を求める誤った入口」

 また、ラッセル2000指数が2018年8月に、ダウ運輸株平均が2018 年9月に天井を付けている。米国株が業種間で不格好なズレをみせているのは、ちょうどアルゼンチンで発生したような株価暴落が差し迫っていると必ずしも意味するものではない。とはいえ、市場が疲れ果てており、上昇の勢いが失われたことを示唆している。景気拡大と強気相場が11年目を迎えたと考えれば、これに驚く人はいないはずだ。

 私は株式の上昇余地は極めて小さく、70年代のようにレンジ相場が何年も続くか、何かしら実に不愉快なサプライズがあって崩落する可能性があるとみている。したがって、株式への配分を減らすことを提案したい。

 10年物米国債は短期的に非常に買われ過ぎとなっている。しかし、マイナス金利の欧州・日本政府関連債や利回り1.93%の10年物ギリシャ国債、30年物米国債を保有するよりもマシなものがあるだろうか(図18)。

図18 30年物米国債理論利回り(2010-2019)

出所:マーク・ファーバー博士の月刊マーケットレポート2019年9月号「介入を求めるのは、支配を求める誤った入口」

 私はまだ米国債を保有している。ただし、政府関連債と社債は今後10年ほどで悲惨な投資先になり得ると承知している。過去数年にわたって享受してきた低い物価インフレを経て消費者物価が強烈に上昇すれば、金利が上昇し得るからだ。なお、私は新興国債も保有を続けている。だが、すでに妙味はないだろう。