「所得代替率」に問題あり!

 ところで、将来の年金支給水準を評価する尺度として報道に登場する「所得代替率」だが、これが50%を維持することを以て、読売の見出しのように、「現役収入の5割維持」と思って生活設計を考えることには少なからぬ問題がある。

 お時間のある方は、パソコンかスマートフォンで「所得代替率、長妻、塩崎」とでもAND検索をしてみて欲しい。2016年10月の衆議院厚労部会で行われた長妻昭議員と当時の厚労大臣だった塩崎恭久氏のやり取りを報じる「朝日新聞」の記事が見つかるはずだ。

 この記事には、厚労省の抗議によって後で訂正が入っているが、記事からは、所得代替率が、年金支給額については税金や社会保険料を差し引いていない「名目額」であり、これを税金と社会保険料を差し引いた現役世代の「手取り」の所得で割り算して求められていることが分かる。

 記事には、2013年度の所得代替率は62.6%だが、年金支給額を税金と社会保険料を差し引いた「手取り」で計算すると、53.9%になると書いている。「名目年金額÷現役手取り所得」の所得代替率の約0.86倍だ。

 法律で決めた所得代替率は「名目年金額÷現役手取り所得」でいいので、当初「不適切な計算方式を使い、現役世代の平均的な収入に対する年金額の割合(所得代替率)が高く算出されるようになっていた」と書いた朝日新聞は記事の訂正に追い込まれたのだが、生活者としては、年金支給額を手取りで見た現役世代の所得との比較で考える方が、より現実的だ。法律はともかく、生活設計を考える上では、どう見ても「名目額」よりも「手取り額」を基本に考えるべきだ。

 財政検証では、経済前提の違いによって異なる所得代替率が示されているが、これらの数値を「手取り」に換算するためには、相当の割引が必要なのだ。

 倍率は将来の税制や社会保険制度によって変化するが、取りあえず「0.86倍」くらいを考えておこう。

 つまり、所得代替率50%という数字を、「手取りベースでは」43%くらいに読み替えて将来を考えるのが妥当だということだ。

 2016年当時のやりとりでは、所得代替率の定義について2019年に検討する可能性を厚労省は示唆しているが、今回、この点には触れられていない。

 モデルケースが、今や多数派ではない「サラリーマンの夫と専業主婦の家計」であることも生活設計を考える上で不都合だし、経済成長率(人口が減るのに、高い想定のケースが多い)や実質賃金上昇率が経済成長率よりもさらに高い(今後機械やAIに置き換えられる労働が多いのにこうなるのだろうか?)など、経済の前提条件についても、再考があっていいのではないか。

 所得代替率の定義の見直しと共に、来年改めて財政検証のやり直しをするべきではないかと筆者は考えている。現在の定義とモデルケースの所得代替率が何%かという情報は、国民の生活設計と年金制度に対する納得性の検討の役に立たない。年金制度は、評価尺度も含めて見直すべき時期にある。

 なお、年金に関する今後の制度の見直しだが、まず在職老齢年金制度の廃止と、確定拠出年金の掛け金支払い可能年齢の上限を70歳まで引き上げることの2つは、速やかに実行して欲しい。高齢者の労働参加のためにぜひ必要だ。

 加えて、名目額が減る場合でもマクロ経済スライド(人口の増減や平均寿命などの社会情勢に合わせて、年金の給付水準を自動的に調整する仕組み)を実行することと、年金の支給開始年齢を引き上げる(まず自由度を拡大して、その後に標準の開始年齢を70歳程度まで引き上げる)ことを実行するといい。

 その他、第三号被保険者(サラリーマンの妻)優遇の廃止が望ましいし、国民年金(含む基礎年金)を全て税金で負担するような低所得の若者対策を導入すべきだ、などなどの意見はあるのだが、実現性を考えると、前記の諸策から手を付けるといいのではないかと思っている。