守り人の力を評価する

 もっとも、今局面の円高が緩やかな背景には、日本側のドル売り圧力が控えめであることも影響しています。日本の貿易黒字が小さくなり、時に赤字になる状況で、輸出企業のドル売りにかつてのインパクトはありません。生命保険会社も為替リスクをとる投資に慎重姿勢を強めてきました。2016年初頭の円高時に、日本勢のドル買い持ちが整理・圧縮されたことも、最近の円高圧力が控えめになっている一因と思われます。

 財務省統計を見ると、最近の円高時の年金基金による外国証券買越額は、株式と債券を合わせても、多くて月次1兆円前後でした。

 日本政府は、2003~2004年の円高時に100円防衛のために34兆円ものドル買い介入を実施。2010~2011年に日本が単独で行った3回のドル買い介入では、それぞれ2.1兆円、4.5兆円、9.1兆円をつぎ込みました。それでも、介入によってドル安トレンドは変わりませんでした。

 ドル/円がトレンドとして反転上昇したのは、米景気が新たな拡大サイクルに入り、継続的な利上げを展望できる状況になってからです。仮に代理介入が行われるとしても、月々1兆円程度の押し目買いで、基調としてのドル安トレンドを押し返すことはできません。

 ただし今局面は、日本勢のドル売りがかつてほど強くないこと、米国経済も現時点では何とか底堅さを保っていること、米国の株価もまだ高値圏にあって過度にリスクオフになっていないことから、ドル/円の押し目買いで特定水準を守る時間稼ぎは可能でしょう。

 後はトランプ大統領が波風を立てないこと、そして、望ましくは、米中貿易問題での何らかの合意という追い風を吹かせてくれることです。米大統領選挙に向けてタイミングが良ければ、投機筋のドル/円ショートが巻き戻され、ドル/円が110円付近に戻る可能性も排除されません。

日本投資家が読み取るべきこと

 私は、米景気が終盤に入ったと判断した2018年後半以来、ドル/円は2019年末100円、2020年末95円というトレンド観を維持しています。過去のリスクオフ局面に比べれば控えめな円高予想ですが、その背景に本レポートで解説した判断があります。留意すべきは、米経済が完全雇用という終盤に来ている以上、トランプ大統領が選挙戦術で中国との合意を演出しても、景気も株価もドル/円も反発余地は限られるだろうということです。

 相場の回復は新たなトレンドのスタートと見るべきではありません。終盤が永らえたものと認識し、保有するリスク投資ポジションを圧縮することが第一です。新たにリスク資産を買いたいなら短期勝負です。高利回り商品を買うなら、その後の相場下落リスクとのバランスをよくよく吟味することが重要です。

■お知らせ:円相場8月急騰の真実。1ドル100円予想に新たな兆候は?が分かる注目動画はこちら↓
【再降臨】ドル円100円男「今回の逆イールドは初めての体験」先行き真っ暗⁉『田中泰輔』×億り人『井村俊哉』対談