為替DI:一周回って「円最強」!円高見通し、さらに強まる

楽天証券FXディーリング部 荒地 潤

 楽天DIとは、ドル/円、ユーロ/円、豪ドル/円それぞれの、今後1カ月の相場見通しを指数化したものです。DIがプラスのときは「円の先安」見通し、マイナスのときは「円の先高」見通しを意味します。プラス幅(マイナス幅)が大きいほど、円安(円高)見通しが強まっていることを示しています[図-1]。

[図1]DIの推移:2018年7月~2019年6月

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

「7月のドル/円は円安、円高のどちらへ動くと思いますか?」という質問に対して、6月末の水準(107.30円)よりも「円高」になるという予想が最も多く、回答数全体(3,647名)のうち約59%を占めました(2,152名)。最も少なかったのは「円安」予想で約19%(693名)。残りの約22%(802名)は「動かない(わからない)」という回答でした [図-2]。

出所:楽天DIのデータより楽天証券経済研究所作成

 円安見通しから円高見通しを引いたDIは▲39.70で、2カ月連続のマイナス(=円高見通し)。マイナス幅は16.4ポイント増えました。

 円高見通しが先月よりさらに強まっているのは、6月25日にドル/円が106.78円まで下落して、1月3日のフラッシュクラッシュ以来の安値をつけたことが大きいと思います。実際のところ106円台はこの日1日だけだったのですが、個人投資家の相場観に強い影響を与えたことが想像できます。

 一方、6月の高値は108.80円で一度も109円台にのせることはありませんでした。5月の高値111.69円と比較すると、確実に天井が低くなっていることが分かります。6月の中心レート(高値と安値の差)は107.79円(5月は109.98円)。

 6月は、FRB(米連邦準備制度理事会)とECB(欧州中央銀行)が重大な発表を行いました。二大中央銀行が、相次いで「利下げ」へと進むことを宣言したのです。

 それまで「利上げ」方向を見ていたFRBとECBが、方針を大転換した理由として、パウエルFRB議長は「米景気拡大のために適切に行動する必要がでてきた」と述べ、ドラギECB総裁は「欧州経済には一段の景気刺激策が必要になった」と説明しています。

 FRBとECBが政策転換したことは、他の中央銀行にも大きな影響を及ぼすことになります。FRBが利下げすれば隣国のカナダやメキシコは利上げする理由がなくなりますし、トルコや南アフリカなど新興国には利下げできる余地が生まれます。ECBが利下げするならば、経済関係の深いスイスも追随すると考えられます。

 金融緩和の動きはグローバルに広がっていてRBA(豪準備銀行)は今月再び利下げを実施、RBNZ(NZ準備銀行)の再利下げも時間の問題といわれています。強気だったBOE(イングランド銀行)も、金融緩和の必要性をほのめかしています。2019年6月は、金融政策の大転換があった月として、マーケットの記憶に残ることになるでしょう。

 ところが、世界の中央銀行総裁が、景気不安だ、経済後退だと懸念を示す中で、日銀の黒田東彦総裁だけは、「景気は基調として緩やかに拡大」と楽観的な見通しを崩していません。FRBやECBが利上げへと向かっていた時代も、それに逆らうように徹底して緩和政策を貫いてきた日銀。気づいてみたら、一周回って強気な中央銀行の先頭集団を走っていました。悲観に傾くFRBやECBと対照的な日銀の楽観スタンス、そして実質的な金利差縮小によって、今後さらに円高が進む可能性があると考えます。