円相場は日本景気に逆行する

 早速、円相場のアマノジャクぶりについて、典型的な事例をご紹介しましょう。それは、「日本の景気が悪化するときに円は強くなり(円高)、景気が良くなるときに円は弱くなる(円安)」性質です。

 図1で、日本銀行の短期経済観測(3カ月ごとの企業景況感のアンケート調査)の代表指標である大企業製造業の業況判断指数(DI)と、ドル/円相場の動きを並べています。日銀短観のDIは、日本の景気サイクルをきれいに映し出してきました。両線の山と谷を見比べると、日本の景気にドル/円相場がやや遅れて連動しています。

図1:日本の景気とドル/円のサイクル 

出所:日本銀行、Bloomberg Finance L.P.のデータから田中泰輔リサーチ作成

 悩ましいのは、日本の景気が良くなると、少し(平均1年半ほど)遅れて円安が進み、景気が悪化すると、やはり少し(こちらも平均1年半ほど)遅れて円高になるという巡り合わせです。日本の景気が悪いとき、外国人がことさらに日本株を売るのに、なぜ円高(円買い)になるのか、このアマノジャクぶりに面食らって、円相場は理解不能とサジを投げた人も多いはずです。

海外投資に大敗した理由

 景気に逆行する円相場の理屈は次回に解説しますが、今回は景気に対するアマノジャクという事実関係をしっかり押さえたいと思います。日本人が海外投資で失敗を繰り返してきた理由が浮かび上がってきます。

 日本では好景気が続くほど、株価が上昇し、円安で外貨資産も値上がりし、フトコロ具合が良くなります。そして、投資家は高リスク投資に積極的になり、たびたび外貨資産を買い過ぎてきました。ところが、景気が下り坂に転じる頃には株価は下がり、やがて円高で外貨資産にも為替差損が生じます。

 早々に利益を確定させて退避すれば良い話ですが、それをためらわせる事情もありました。

 好景気、株高、円安のときは、投資家も、投資家に金融商品を売る金融業者ももうかり、みな笑顔です。多くの金融業者の相場予想は自ずと株高、円安に偏ります。そんな彼らが株安、円高への相場の転換をいち早く予想することはほぼありません。さらに景気悪化で株安、円高の典型的な局面に移っていても、株安、円高の予想を出せなくなりがちです。顧客である投資家を苦しめ、金融業者自らの首を絞めることになるとしても。

 やがて彼らは割り切ったように、「大丈夫です。円安が来ます。株高になります」と、日本の投資家の応援団のように振る舞うようになるのです。専門家にそう言われたら、一般の投資家は資産を売ることなく持ち続け、やがて含み損が膨らんで身動きとれなくなるという事態を繰り返してきました。