3:インデックス運用は負けにくい

 目標とするインデックスの内容にもよるが、時価総額加重の市場平均を表現しようとするS&P500やTOPIXのような指数の場合、アクティブ運用の平均には明らかに負けにくい。

 アクティブ運用がいいか、インデックス運用がいいかに関しては、古来さまざまな意見がある。

 この際に、議論の「分かれ目」は「市場の効率性」を認めるか否かに求められることが多いが、これは正確な議論ではない。

 市場が効率的であるとは、情報は資産の価格に迅速に正しく反映している状態を指すので、この場合にアクティブ運用に市場平均を体現するようなインデックス運用には勝つチャンスが無い。ここまではいいのだが、この先、市場が非効率的であるなら、アクティブ運用にチャンスがあるから、アクティブ運用の方がいいと論ずるなら、そこには現実と合わない重大な飛躍がある。

 アクティブ運用にチャンスがあるということと、現実のアクティブ運用がこのチャンスを有意に有利に利用できることとは同一ではない。

 実際には、アクティブ運用投資家の間で常に勝ったり負けたりが行われていて、彼らの平均はポートフォリオとして、市場平均を表すインデックスと一致するので、売買手数料と運用手数料の差を考えると、インデックス運用は、アクティブ運用の平均に勝ちやすい構造になっている。

 そして、この優位性は、市場が効率的であることにのみ依存する訳ではない。

 アクティブ運用に投資することが投資家にとって合理的になるのは、

(i)市場が非効率的でアクティブ運用にチャンスが存在し、

(ii)特定のアクティブ運用者が他のアクティブ運用者に対して相対的な優位を持ち、

(iii)投資家が優位なアクティブ運用者を事前に特定できる方法がある、

という3条件が全てそろった時に限られるのだが、全てがそろっていると考えることにリアリティーがあるケースはほとんどない。

 こうした「ライバルの平均を持つことの相対的優位性」は、本連載の「インデックス運用が最強である理由」でも詳しく説明したが、現実の運用商品に当てはめた場合、インデックス運用が「負けにくい」という長所に直結している。

 理念的には「市場平均」のポートフォリオ以外は全て「アクティブ運用」だと考えることができるが、ビジネスとして他人のために行われるアクティブ運用と、企業や個が自分のために行っている株式保有との間に、傾向的な差ができた場合に、商業的なアクティブ運用の平均が市場平均に勝つことが時々あり得るが、日米共にアクティブ運用の平均は、市場平均を代表するインデックス運用に勝てない場合が多い(だいたい10回に6〜7回は勝てない)。

 加えて、複数のアクティブ運用商品間で、相対的にどれが優れているかを「事前に」評価・選択することはできないし、現実の商品にあっては、アクティブ運用商品の方が手数料が高い。

 論理的に導くことができる結論は、「意思決定として、アクティブ運用商品を買うことは、インデックス運用商品を買うことに劣る」ということだ。

 もう少し前向きに言い換えると「インデックス運用商品は個人投資家にとって得でかつ扱いやすい投資対象だ」ということになる。

【追記】

 5年前の記事だが、筆者の現在の意見と相違はない。インデックス商品がアクティブ商品よりも優れていること、はその通りだ。

 また、個別株で十分な分散投資を行うとインデックス商品に大きく劣らない運用ができるのもその通りなのだが、個人が使えるポートフォリオ管理のツールがないので、これができにくい状況が残念ながら改善していない(個人的にはここをなんとかしたいと思っている)。

 一方、インデックス商品は、つみたてNISA(ニーサ:少額投資非課税制度)がきっかけとなって、この記事の後、手数料の引き下げが進んだ。インデックス商品の相対的な優位性がさらに高まったと言えるだろう。(2020年8月8日 山崎元)