投資の初心者なのになぜか自信家という矛盾

 なんとなく投資をスタートした人が必ずかかる「病気」がひとつあります。

それは「自信過剰」です。

初めてお金を入金し投資する人は、本来は投資の初心者です。しかし、投資初心者の多くは「自分には実は投資の才能があるのではないか」「自分は売買を繰り返しながら1億円くらい稼げるのではないか」といった、根拠のない自信を秘めていることが多いものです。

冷静に考えれば、マーケットにはたくさんの投資のベテランや仕事として投資をしている人がいるわけですから、経験の面でも知識の面でも自分が初心者であることを自覚しなければいけません。しかしながら、この「根拠なき自信」というものはなかなかの厄介者で、あなたを何度も失敗させる原因となるのです。投資の非合理的な矛盾の心理学を応用しながら解き明かしてきた行動ファイナンスの研究においても「自信過剰」度々取り上げられるテーマです。


根拠なき自信はあなたの世界を変える力だが、危うさもある

そうはいっても自信過剰がすべて悪いとは思いません。根拠のない自信に自分を追いつかせることができれば、それは大きな財産を作る力になります。ほとんどの起業家は自信過剰の力であえてリスクを取ったことで結果として大きな成長を得ていたりします。

投資家も同じです。自分にまったく自信がない人はそもそもリスクを取りませんから、投資に興味を持ったり投資のスタートラインに立ったということはあなたは何らかの自信を持っている、ということです。注意が必要であっても、それはすばらしいことです。まず、その事実を認めておきましょう。
(投資の自信もないまま投資のスタートラインに立たされるのは、会社が導入した企業型の確定拠出年金の加入者となった場合くらいでしょう)

長い目でみれば、リスク資産の期待リターンは、物価上昇率を上回るわけですから、あなたは過度の自信で無茶な投資を行わない限り、資産を有利に増やすスタートラインには立てています(フランスの経済学者トマ・ピケティも示したとおりです)。

せっかくの勇気とちょっとの自信を胸に投資をスタートするのであれば、大きく道を踏み外すことなく※「r>g」の果実をあなたの資産形成に組み入れていけるはずです。そこで問題は「自信過剰」に陥らないことです。
※r=投資など出られる利益率、※g=経済や所得の伸び率

自信過剰にならないための「3つの問いかけ」「2つの対策」

そこで、あなたが自信過剰とならないためのヒントを「3つの問いかけ」と「2つの対策」としてまとめてみたいと思います。いずれもシンプルな内容ですが、自信過剰を戒めるための強い効果が期待できます。

「3つの問いかけ」

どんな投資対象を購入するのもあなたの自由です。しかし3つの問いかけを自分に投げかけてみてください。

(1)半年以上「保有」し続けてもいいと思えるか
その投資対象(個別株でもインデックスファンドでもいい)について半年以上、できれば数年以上保有し続けられる自信があるか、問いかけてみましょう。その間、毎日値動きしますがそれでも期待リターンの実現を待つことができるでしょうか。

(2)明日20%下がっても「納得」できるか
大きく下がる、ということはどんな局面でも起こります。日経平均2万円になったとき買ったインデックスファンドは1万9000円に調整すれば、過去に比べて高値でも5%の値下がりです。そしてリーマンショッククラスの値下がりが来ればもっと大きく下がります。その損失の可能性を受け入れることができるでしょうか。

(3)自分に「都合のいい」情報だけ集めていないか
初心者ほど、自分が購入するための「理由」を外部に探し求めます。推奨銘柄のコメントを新聞や雑誌で見つけて自己正当化している人は自信過剰の補強に他人を利用し、失敗したときは他人を言い訳に使います。自分に都合のよい情報だけ集めて投資判断していないでしょうか。

「2つの対策」

3つの自問自答を踏まえてもなお、自信過剰から逃れることはできません。むしろ完全に逃れられないので、どうつきあうかを考えるほうが大切です。そこで2つの対策を提案してみましょう。

1)投資判断は即断即決より「一晩寝かせる」
夜中に書いたラブレターはそのまま投函せずに朝日の下で読み返すべし、というのはティーンエージャーの鉄則ですが、あなたの投資判断も自信過剰のゆえにゆがんでいるかもしれません。冷却期間をおいて冷静に見直すべきです。急いですぐ買わなくては乗り遅れると思うのはすでに判断が偏っている証拠です。一日おいても意思が変わらないなら注文を出してみましょう。

2)投資金額は背伸びより「控えめ」に
本連載では何度も「投資金額を抑えよ」と指摘しています。投資初心者にとって最大の防御は「投資金額を少なめにする」ということです。自信過剰なときほど、うまくいった自分の「可能性」に酔って投資金額をつり上げます。失敗したときのツケも大きくなることのほうに意識を置くなら、むしろ投資金額は控えめにすべきです。


ネガティブシンキングよりは自信過剰のほうがいい

 自信が過剰であるか、ネガティブ思考が支配的か、どちらがあなたの人生を楽しませるかといえば前者のほうがいいはずです。ポジティブシンキングとか楽観主義と言い換えてもいいでしょう。投資においてもある程度の悲観主義を「心の中に飼う」意識は必要ですが、悲観主義に支配されると投資はできなくなります。なぜなら投資は成長の可能性に賭ける不確実要素が必ずあるからです。自信と期待は胸に秘めつつ、自信過剰には陥らない、そんなバランスのよい「自信」をもって、ぜひ投資にチャレンジしてみてください。きっと投資はあなたの人生を楽しくする選択肢になるはずです。