毎週金曜日夕方掲載
本レポートに掲載した銘柄
アルプス電気(6770)、ソニー(6758)、日東電工(6988)、村田製作所(6981)
9月12日に新型iPhoneの説明会が開催される?
毎年9月に米アップルはiPhone(アイフォーン)の新型を発売します。それに先立って、新型iPhoneの中身に関する説明会を開催します。8月31日、アップルは9月12日午前10時(日本時間9月13日午前2時)に、本社で特別イベントを開催すると発表しましたが、おそらく、新型iPhoneに関する説明会だと思われます(昨年は9月7日10時〈日本時間では8日2時〉に開催されました)。
この説明会は非常に重要で、その後1年間の高級スマートフォン(スマホ)の方向性を決定づけるものになります。
新型iPhoneがどのような製品になるのか、正確なところはアップルの説明会を待つしかありませんが、これまでの報道を元に、新型iPhoneの中身を探り、関連銘柄を選びたいと思います。
足元では2016年9月発売の「iPhone7」、「iPhone7Plus」が堅調に売れています。iPhoneだけでなく、iPad(アイパッド)、MacPCも堅調で、アップルのブランド力、商品力は衰えていません。新型iPhoneについても期待が持てそうです。特に有機ELディスプレイ搭載の「iPhone8」が成功すれば、アップルの2018年9月期iPhone販売台数は過去最高の2億3,122万台(2015年9月期)を更新する可能性があります(表1)。
グラフ1 iPhone販売台数
表1 アップルの年度ベースiPhone販売台数
表2 アップルの製品別売上高
新型iPhoneの中身はどうなる?
表3のように、高級スマホになるほど、重要部品の搭載個数が増加する傾向にあります。そのため、世界の電子部品メーカーにとって高級スマホの代表である新型iPhoneの中身と売れ行きは最大の経営問題なのです。
現時点での報道を元にした新型iPhoneの中身は、次のように推測されます(日本の電子部品メーカーに関連した変化に限っています)。なお、正確な情報はアップルの説明会を待つ必要があります。
- 新型iPhoneとして、現行の「iPhone7」の後継機という位置付けの「iPhone7s」(4.7インチ液晶ディスプレイ)、「iPhone7sPlus」(5.5インチ液晶ディスプレイ)と、まったくの新型で5.8インチ有機ELディスプレイ搭載の「iPhone8」の3タイプが発売される(名称はすべて仮称)。
- 「iPhone7s」「iPhone7sPlus」は9月発売が予想されているが、「iPhone8」は有機ELディスプレイ、NAND型フラッシュメモリ、電池の調達の問題で、1~2カ月遅れて10~11月発売になるか、9月発売の場合でも初期出荷が少なく、出荷が増えるのが10~11月からになる可能性がある。アップルが最も期待しているのが「iPhone8」である。
- 「iPhone8」は、アウトカメラ(外側のカメラ)がデュアルカメラ(カメラの眼が2つ)で、眼のおのおのに手振れ補正用アクチュエーター(アクチュエーターはカメラの絞り機構)が付き、高性能化する。現行でデュアルカメラ搭載の「iPhone7Plus」のアクチュエーターは、一方が手振れ補正用、一方がAF(オートフォーカス)用、「iPhone7」(眼が1つ)は手振れ補正用になっている。
- アウトカメラだけでなく、インカメラ(内側=画面側のカメラ)も自撮り用にイメージセンサーが高性能化する。
- ストレージメモリは、現行の「iPhone7」、「iPhone7Plus」が32GB、128GB、256GBで売れ筋は128GBだが、「iPhone8」は64GB、256GB、512GBになるという情報がある。従来は64GBと256GBの2通りという情報が主流だったが、最近になって512GBバージョンが加わるという情報が出てきた。もし本当に512GBが実現するなら、動画撮影の増加、特に4K動画の増加に対応したものと思われる。
今の「iPhone7」でフルHD(1080p HD/30fps〈デフォルト状態〉)の動画を1分を撮ると130MB必要になる(撮影条件によって増減する)。これに対して、4K動画(4K/30fps)は350MB必要になる。256GBではフルHDは1,969分(33時間弱)記録できるのに対して、4K動画は731分(12時間強)しか記録できない。しかし、512GBなら4K動画が24時間録画可能になる。 - カメラが高度化し、ストレージ容量が拡大すると、大容量画像を伝送する通信能力も高度化する必要がある。例えば、NTTドコモが「PREMIUM 4G」として2015年3月にサービス開始した2波のキャリアアグリゲーション(電波2波をまとめて大容量通信を行う)には対応するはずである(「iPhone7」は375Mbpsに対応している)。ただし、2017年8月以降サービス開始する738Mbpsサービス(3波をまとめる)に対応するかどうかは不明。
- ハプティックデバイス(画面を押すことで各種操作を行う触覚デバイス)は従来通り搭載される。
- 「iPhone8」の価格は日本円で11万~15万円と言われている(15万円は512GBバージョンが実現した場合)。2014年9月発売の「iPhone6」からの買い替え需要が多いと思われるが、価格が高くなるのも事実だろう。各国で通信キャリアが何らかの値引きや分割払いプランを用意しないと売れ行きに問題が起こる可能性もある。このように、価格が実際にどうなるのかも、重要なポイントになる。
ただし、筆者は価格がこのレンジとなっても、新型iPhoneを含む2018年9月期のiPhone販売台数は過去最高を更新する可能性があると考えている。
表3 スマホに搭載される電子部品の個数
表4 主なスマホ用電子部品の概要
関連銘柄
電子部品メーカーは顧客名やその動向をコメントしていません。次の関連銘柄は各種メディアの情報や市場シェアから類推したものです。アップルは一部の例外を除いて1つの部品を2社以上から調達していますが、部品によって各メーカーの市場シェアに大きな差がある場合があります。シェアが高い会社を紹介します。
(1)カメラのアクチュエーター
手振れ補正用アクチュエーター、AF用アクチュエーターなどのスマホカメラ用アクチュエーターは、世界シェアの約80%をアルプス電気が持っており、ミネベアミツミ(旧ミツミ電機)、TDKが続いています。
このうち、アルプス電気、ミネベアミツミがiPhoneに関連していると思われます。手振れ補正用とAF用は単価に大きな開きがあるといわれており(手振れ補正用が高い)、「iPhone8」のデュアルカメラに使われるアクチュエーターがすべて手振れ補正用に切り替わるということはアルプス電気の業績に良い影響を与えると思われます。
また、2~3年後には、現在、単焦点でアクチュエーターが搭載されていないインカメラにもAF用あるいは手振れ補正用アクチュエーターが搭載される可能性があります。これは自撮り機能の性能向上のためです。
(2)イメージセンサー
カメラの高度化にはカメラの「眼」であるイメージセンサーの高性能化が不可欠です。これがアウトカメラだけでなく、インカメラでも重要になります。アクチュエーターと同様「自撮り」がスマホユーザーにとって重要だからです。
この分野ではトップシェアのソニーに注目したいと思います。スマホのデュアルカメラ化とインカメラの高度化によって、スマホの販売台数以上にイメージセンサーの売上高が増加すると思われます。
(3)電池
スマホ用電池のトップシェアはTDKが持っています。スマホの電池は小型、薄型、大容量が要求されており、重要部品の一つです。
この分野では、9月1日付でソニーから電池部門を正式に譲り受けた村田製作所の対応が注目されます。電池の用途は産業用、スマホ用、民生用、車載用とさまざまですが、村田製作所にとっては、ソニーではうまくいかなかったスマホ用電池でシェアを獲得できれば、スマホ向け電子部品事業をより一層充実させることができます。電池事業の立て直しには2~3年かかると思われますが、一定のシェアが確保できると村田製作所にとっては大きな成果になるでしょう。
(4)ハプティックデバイス
ハプティックデバイス(触覚デバイス)では、現在参入している日本電産、AACテクノロジーズ(中国)などに加えてアルプス電気が参入すると言われています。
アルプス電気は小型精密部品では定評のある会社ですので、今後ハプティック部品でどの程度のシェアを獲得するか、注目されます。
(5)有機ELディスプレイ関連
アップルは「iPhone8」で初めて有機ELディスプレイを採用すると言われています。「iPhone8」がユーザーから好評なら、それ以後のiPhoneは、調達に問題が発生しない限り、主流は有機ELディスプレイになり、液晶ディスプレイの比率は下がっていくと予想されます。
有機ELディスプレイは、自家発光するため液晶のようにバックライトが必要なく、全体を薄くできます。あるいは、薄くなった分、別の回路を付け加えることができます。消費電力も少なくなるため、電池を小さくするか、別に電力を使う機能を付加することができます。
また、有機ELディスプレイは折り曲げることができるため、デザインも柔軟になります。
「iPhone8」向けの有機ELディスプレイの生産はサムスンが行っていると言われています。有機ELディスプレイの材料は、日東電工、住友化学などが手掛けています。特に日東電工は、有機ELディスプレイ用材料と、それらの中間材料を幅広く生産販売しており、有機ELが普及することで大きな恩恵を受けると思われます。
(6)静電容量タッチパネル
「iPhone8」の画面には静電容量タッチパネルが搭載され、日本写真印刷などが供給すると言われています。
(7)ストレージメモリ
「iPhone8」で予想される大きな変化は、カメラの高性能化とともにストレージ(記録媒体)の大型化です。もし512GBが実現すれば、本体価格が高くとも人気となる可能性があります。
今回の新型iPhone、特に「iPhone8」は、2014年9月発売の「iPhone6」以来の大型モデルチェンジであり、買い替え需要と、新規需要の両方を獲得する可能性があるからです。
スマホのストレージメモリにはNAND型フラッシュメモリを使いますが、現在、品不足が続いているNAND型フラッシュメモリの増産(特に64層の増産)が秋口から実現する見込みです。それでも新型iPhone向けの増加や従来からのデータセンター向けの増加によってNAND型フラッシュメモリの品不足が続くと思われます。NAND市況も一段高となる可能性があります。
さらに、中国の高級スマホが「iPhone8」をまねて、これまで以上の大容量ストレージを搭載するようになったら、NANDの品不足がますます深刻化、長期化する可能性もあります。
そうなると、サムスンの半導体部門、東芝のメモリ部門(東芝メモリ)の好業績が長期化する可能性があるとともに、東京エレクトロン、ディスコなどの半導体製造装置メーカーや、信越化学工業、SUMCO(シリコンウェハ)、ステラ ケミファ(ウェハ洗浄液)などの半導体材料メーカーなどへ広範囲にポジティブな影響が予想されます。
(東芝の近況と半導体製造装置については、8月18日、8月28日の楽天証券投資WEEKLYを参照してください)
(8)通信機能
スマホで取り扱う動画が4Kになると、通信機能の強化を継続的に続ける必要があります。今のキャリアアグリゲーションは5波まで対応できますが、それ以上の伝送能力を持つ「5G」(第5世代移動体通信)も視野に入ってきます。5Gは日本では2020年ごろに商業サービスが開始される見込みです。
このような通信向け電子部品では世界的に村田製作所が有力です。
表4はスマホに使われる電子部品の会社別市場シェアを表したものですが、チップ積層セラミックコンデンサ、SAWデバイスなどの重要部品では村田製作所が圧倒的に強いことがわかります。今期は一部製品の売れ行きが悪いもようで(特定メーカー向けにシェアが低下した可能性がある)、増益率が低くなりそうですが、来期以降はスマホの通信機能がより一層重要になることで、村田製作所の重要性が高まると思われます。
注目銘柄
アルプス電気
上述のような新しい変化が新型iPhoneに起きたときに、現時点で日本の電子部品メーカーの中で最も大きな影響(ポジティブな)があると思われるのはアルプス電気です。手振れ補正用アクチュエーターの1台当たり搭載個数1個から2個に増加すること、ハプティックデバイスへの参入が観測されていることが大きなポイントです。新型iPhoneの効果は、今期は下期分のみですが、来期は年間を通じて発揮されると思われます。
そのほか、ゲーム機向け(ニンテンドースイッチのジョイコン用振動デバイスなど)も増加しているもようです。
このようなことから、投資妙味を感じます。株価は半年から1年の期間で3,500~4,000円のレンジが期待されます。
なおアルプス電気は、上場子会社アルパインと経営統合し、2019年4月からアルプスHDとなります。その際、株式の希薄化が13.2%発生しますが、会社側はこれを利益の伸びで吸収するもようです。
表5 アルプス電気の業績
ソニー
ソニーのイメージセンサーは世界で44%のトップシェアです。この中心がスマホ用イメージセンサーであり、特に高級イメージセンサーで高い競争力を持っています。イメージセンサーが含まれる半導体部門の営業利益は2017年3月期78億円の赤字でしたが(高級スマホの生産調整に熊本地震の影響が加わった)、今期会社予想は1,300億円の黒字です(このうちカメラモジュール事業の譲渡益275億円と、熊本地震の保険金67億円を除くと、正味予想は約960億円)。iPhoneを中心とする高級スマホのカメラの高機能化が続くことによって、来期は正味で1,300億円程度の営業利益が予想されます。
ソニーの各セグメントの中で、営業利益が1,000億円を超えるのはゲーム&ネットワークサービス、金融、半導体の3部門だけであり、イメージセンサーはソニーの旗艦製品の一つと言えます。
この点も投資妙味を感じます。株価は5,000円台乗せが期待できると思われます。
表6 ソニーの業績
日東電工
有機ELディスプレイには偏光板、タッチセンサー、保護フィルム、粘着シートなど現在24レイヤー(層)の材料が張り合わされています。このうち16レイヤーについて日東電工が製品化しています。液晶ディスプレイの場合はこのレイヤーが長年の技術革新で少なくなっています。偏光板だけだと液晶2枚に対して有機EL1枚と減少しますが、有機ELディスプレイでは液晶にはないさまざまなレイヤーが使われるため、液晶向けが減っても有機EL向けが増えれば日東電工は増収になるのです。
ちなみに、今1Q(第1四半期)は有機EL向け材料と液晶向け材料が両方とも増えました。これが今1Qの営業利益2.6倍の好決算の要因です。
液晶向けは来期以降には減少する可能性がありますが、有機EL向け材料はスマホ用有機ELディスプレイの増加によって、さらに伸びると思われます。今2Q(第2四半期)以降液晶テレビ用材料の減収が予想されることがネガティブ材料ですが、有機EL向けで吸収できると思われます。
今期業績は上方修正が期待でき、この銘柄にも投資妙味を感じます。株価は再度1万円以上での活躍が期待されます。
表7 日東電工の業績
村田製作所
2017年4-6月期(1Q)は中国製高級スマホの在庫調整が続く一方で、「iPhone7」シリーズの販売が堅調でした。ただし、一時的にシェアが低下した通信系部品があるもようで、今1Qは減益になりました。
もっとも、上述のように同社の得意な通信分野の重要性は増しています。今期の増益率は同社としては低いものに止まりそうですが、来期の増益率は今期よりも高くなると思われます。また、5Gの基地局投資、端末投資が出てくるであろう2019年3月期または2020年3月期に注目したいと思います。中長期的な投資妙味を感じる銘柄です。
表8 村田製作所の業績
本レポートに掲載した銘柄
アルプス電気(6770)、ソニー(6758)、日東電工(6988)、村田製作所(6981)