貿易戦争はFRBの手に負えない

 筆者は2008年のリーマン・ショックで金融資本主義、新自由主義、グローバリゼーションと言われるこれまでの成長モデルは終わったと指摘してきた。米国が好景気と言ったところで、わずかトップ1%が良いだけで、資本主義の成立と繁栄に不可欠となる中間層は没落してしまっているのである。今のまま新自由主義を続けていても貧富の格差は広がる一方で、事実上、中間層は消滅に向かっている。このためデフレ圧力は高まり、金利には下げプレッシャーがかかることになる。ケインズが『経済の死』と言ったレベルにまで下がってきた現状の長期金利の低下は、金融資本主義、新自由主義、グローバリゼーションと言われる成長モデルが終えんを迎えていることを表しているのかもしれない。

金融資本主義、新自由主義、グローバリゼーションと言われる成長モデルが終えんを迎えている

出所:セントルイス地区連銀

 現在のトランプ関税は、1930年のスムートホーリー法(※)の再来だ。

※《Smoot-Hawley Tariff Act》1930年に米国のフーバー政権下で成立した関税法。1929年に始まった大恐慌の際、国内産業保護のため農作物など2万品目の輸入関税を平均50%引き上げた。報復措置として多くの国が米国商品に高い関税をかけたため、世界貿易が停滞。恐慌を深刻化させたとされる。

 トランプ大統領の誕生は米国の建国史上、初めての政権交代であり、現代の革命である。彼は政治家ではなくビジネスマンである。反体制は、結局は体制に取り込まれてしまい、体制の補完装置となるだけだが、トランプ大統領は従来の政治家と同じ土俵に上がっていないところが革新的なのである。

 貿易戦争について、米中どちらが有利になるとか不利になるとか、的外れな報道がなされているが、歴史が明らかにしているように、貿易戦争の末路は共倒れである。トランプ大統領は世界がどうなろうと知ったことではない。国内問題第一主義だからだ。それがいいとか悪いとかではなく、トランプの登場は、貧富の格差が促した歴史の必然であり、彼は就任以来、全くぶれずに当初の目的に沿って政治を行っている。

『トランプ大統領の戦略』は以下の3点だ。

  1. グローバル企業の生産体制を破壊し、生産拠点を米国に戻す(米国人の雇用の確保)
  2. 同盟国から米軍を撤退させ、軍事的に独立させる。その過程で軍事兵器を売り込み、貿易赤字を縮小させる(トランプ大統領は戦争するふりをするが、実際に戦争はしない)
  3. 貿易戦争(関税・数量規制)の終着点は貿易不均衡の是正と米国の赤字解消であり、最終的には「プラザ合意2.0」が発動される可能性

 トランプ大統領がこうした政策をビジネス的、プロレス的に進める中で、FRBは貿易戦争の激化を解決できるわけではない。それでも、今後、市場はFRBに早期の利下げや、利下げが終わればQEなどを催促することになろう。筆者がずっと述べてきた『金融政策のホテルカリフォルニア化』である。

「強気の投資家は、“茹でカエル”のようなものだ。貿易戦争は長く続き、どれだけ紛争がヒートアップしているか気づいていない。彼らはまだ害を受けることなく、株式市場から抜け出すことができるが、ほとんどはそうしないだろう。彼らはコックが火を消し全てが大丈夫になることを願っている。貿易戦争が終わるまで株式投資を取り巻く環境は日々、少しずつ悪くなる。鍋が沸騰し、投資家が火傷をした時(損失を被る時)にようやく理解されるだろう。」(Project Syndicateの2019年5月27日 「Japan Then, China Now  あの時は日本、いまは中国」)との指摘にあるように、ここからの金融緩和で相場は“少しずつ悪くなる”だろう。“茹でカエル” にならないようにしたい。