不動産保有による節税策は資産価値の下落リスクに注意

 ここで、現金5,000万円と相続税評価5,000万円の更地(空き地)を保有しているケースを想定してみましょう。このような場合、空き地になっている土地に賃貸アパートを建てることによって評価を引き下げることが可能となります。

 すなわち現金5,000万円で賃貸アパートを建築すると、固定資産税評価額は建築費の概ね5割の評価となり、借家権割合は30%です。したがって、建物の相続税評価は、
5,000万円×50%×(1-30%)=1,750万円となります。

 一方、土地については貸家建付地となりますので、借地権割合が60%の地域であれば、以下のように評価は約2割引き下がります。

 5,000万円×(1-借地権割合60%×借家権割合30%)=4,100万円

 このように更地に賃貸アパートを建てることによって1億円あった財産は5,850万円(=1,750万円+4,100万円)まで評価を引き下げることができます。すなわち、4,150万円の評価引き下げによって、相続税負担を大きく軽減することができるのです。

 しかし、不動産保有に伴うリスクには注意が必要です。すなわち、不動産の市場価格が値下がりするリスク、建物が古くなって、空室率が高くなったり賃料の引下げを余儀なくされたりするリスクなど、資産価値自体が大きく目減りするリスクです。

 たとえば、銀行融資でアパート経営を始めたとしましょう。思いどおり相続税評価を引き下げることができ、そのうえ家賃収入があるため、当初は借入金を完済する勢いで、経営することができるでしょう。しかし、地価が一転して急落した場合、保有する不動産の資産価値は下落し、家賃収入も減少することになります。最悪の場合、キャッシュ・フローが赤字となって家賃収入で借入金を返済することができず、資金繰りに行き詰まる事態に陥ってしまう可能性もあります。

 不動産を活用した相続税対策は、節税効果の発揮だけでなく資産価値の下落リスクに注意しておく必要があるでしょう。

[図表2]賃貸アパート建築による節税効果

出所:岸田康雄『相続生前対策パーフェクトガイド』中央経済社

岸田康雄
島津会計税理士法人東京事務所長
事業承継コンサルティング株式会社代表取締役 国際公認投資アナリスト/公認会計士/税理士/中小企業診断士/一級ファイナンシャル・プランニング技能士

※この記事は2019年1月3日に幻冬舎ゴールドオンラインサイトで公開されたものです。

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