4)日産とゴーン被告との法律関係、そして株主代表訴訟

A― ゴーン被告の、日産に対する損害賠償請求は? 

 ゴーン被告は日産の取締役を解任されましたが、任期の定めがあるにもかかわらず正当な理由がなく解任された場合、解任された者は会社に対し損害賠償請求ができます(会社法339条2項)。

 解任の正当な事由には、取締役の職務執行上の法令定款違反行為や心身の故障により職務執行に支障があること(最高裁昭和57年1月21日判決)、経営能力の著しい欠如が含まれるとされています。したがって、今後の刑事裁判でゴーン被告の違法行為が認められた場合には、ゴーン被告は日産に対し解任による損害賠償請求はできないということになります。

B― 日産の、ゴーン被告に対する請求と株主代表訴訟は?

 日産としては、ゴーン被告が特別背任などを行い会社に損害を被らせたとして、取締役の法令定款違反に基づき損害賠償請求することが考えられます(会社法423条)。

 万が一、会社側が取締役となれ合いになるなどして、損害賠償請求しない場合に備えて、会社法は「株主代表訴訟」という制度を規定しています(会社法847条)。

 株主代表訴訟について、6カ月前から株式を保有している株主は会社に対する提訴請求を行うことができ、会社が60日以内に提訴しない場合には、その株主は会社に代わって提訴することができるという制度です。株主は1株しか所有していなくても提訴することができます(ただし定款の定めにより単元未満株主は不可とされる場合があります)。

 つまり会社が持っている損害賠償請求権を、株主が代わって行使することができるという制度です。

 したがって、今後、刑事裁判でゴーン被告の違法行為により日産に損害が生じたことが明らかになったにもかかわらず、日産がゴーン被告に対する損害賠償請求をしないときは、株主が日産に代わって代表訴訟を起こすことも可能ということになります。

 日産株式を保有している投資家は、株主としてゴーン被告に対し代表訴訟を提起することもできるということです。