キャッシュレスの先にある世界

 2018年は、楽天ペイやLINEペイ、またソフトバンク・ヤフー連合によるペイペイなど、モバイルによる現金を使わない決済サービスが注目され、「キャッシュレス元年」とも言われました。ですが、キャッシュレスという潮流にも「この先」があるのです。今回紹介したアリババパークが、それを端的に表しています。

 アリババは、アリペイというキャッシュレスの手段とともにリアル店舗でも経済圏を拡大。支払いのキャッシュレス化が、他のサービスの拡大において大きな武器になっています。それは、キャッシュレスがリアル店舗のデジタル化の入り口にもなっているからです。今後もアリババは、中国から、広義の中華圏、さらにはアジア諸国へと金融と小売事業を拡大させていくことが予想されます。

 キャッシュレス化には重要な潮流があります。それは、無人・自動化とシェアリング・サービス化です。キャッシュレス化によって無人・自動化が促進されています。またキャッシュレス化によりシェアリング・サービス化が促進されています。

 そもそもキャッシュレスを前提としない限りは、無人・自動化は困難。そして自転車シェアリングも自動車シェアリングもスマホでのキャッシュレス決済を大きな原動力として発展してきました。

 私は、キャッシュレス化によって実現する社会の自動化やサービス及びシェアリング化がより重要であると思っています。都心部においては渋滞や混雑の緩和、そして過疎地においては構造的な人手不足への対応となるのが、キャッシュレス化×自動化×サービス及びシェアリング化なのです。だからこそ、私たちは中国の進化から目を背けるのではなく、きちんとそこに目を向け、対峙していくことが重要です。

アリババ本社。「中国のシリコンバレー」から世界の覇権を狙う

 もちろん日本においては、アリババパークで見たような全てを顔認証で済ませるような世界を望むべきなのかは大いに意見が分かれることでしょう。私自身も、「もう一度、このAIホテルに泊まりたいか?」と聞かれたら、やはり普通にスタッフが応対してくれるホテルを望みます。

 中国の監視社会についても大いに疑問に思っています。それでも、日本でもキャッシュレスが大きな話題となっているなかで、「キャッシュレスの先にあるもの」を見据えた展開、そして日本独自の価値観でそれを進めていくことが求められているのです。

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