平成を通じてお札の発行額は増え続けた

 お札の物量を見たところで、次は発行額を時系列で振り返ってみましょう。

 平成元年(1989年)の12月末は株式バブルのピーク。大納会の終値で日経平均株価は史上最高値となる3万8,915円87銭をつけましたが、お札の発行額は37兆円で平成30年(2018年)12月末の3分の1しかありませんでした。

銀行券発行額の推移(12月末)

(出所)日本銀行「通貨流通高統計」(種類別流通高)を基に筆者作成

 当時はバブル経済の絶頂でした。タクシーに乗りたいときに、ただ手を挙げるだけではなかなか止まってもらえないけど、1万円札を持って手を挙げると捕まえやすいといった噂話があったそうです。その時よりも今の方が、お札が3倍も多いというのは意外ですね。

 一般的には、景気が良くなったり、所得水準が高くなったりすれば、取引が活発になるのでお札の需要が増えます。預金金利が高ければ、利子収入を期待して現金を減らして預金を増やしますが、逆に、預金金利が低くなると、預金する魅力が薄れるので、現金が増えやすくなります。この他にも、金融機関の経営が不安だと思えば預金ではなく現金を持つでしょうし、取引や保有する資産額を他人に知られたくない場合は、匿名性の高い現金が好まれます。

 預金口座からの自動引き落としやクレジットカード払い、SuicaなどのICカードやモバイル決済といった電子決済はお札の需要を減らす方向に働きます。もっとも、こうした電子決済によるお札の需要減少よりも、タンス預金などの貯蓄によるお札の需要増加が上回っているようです。発行総額に占める1万円札の割合は緩やかに増加を続けています(1989年87.5% → 2000年90.2% → 2010年91.3% → 2018年92.6%)。

 お札の発行額を月別に見ると、12月末が一番多くなるという特徴があります。グラフの尖った箇所が12月です。年末年始の買い物でお金を使いますし、銀行は休みで、ATMもシステム対応で使えないことがあるため、現金需要が増えます。1999年の12月末は2000年問題への警戒から、いつもの12月末よりも多めの現金需要があったようです。

銀行券発行額の推移(月末)

(出所)日本銀行「通貨流通高統計」(種類別流通高)を基に筆者作成

 1日単位で考えると、1年で最も家計の支出が多い日は1月1日なので、年末にはその分のお金を用意しなければなりません。初詣に行くぐらいで普段よりもお金を使わない気がしますが、お年玉が支出額を増やします。

 総務省統計局が公表している「家計調査」(二人以上世帯)2018年1月調査の支出額を見ると、1月1日の食料は1月平均を下回っています。初詣の際に屋台やお店で買い物をするかもしれませんが、年末に購入した食材でお節料理を家で食べれば、支出額は少なくなります。余程のことがなければ、元旦から医者に行くこともないでしょうし、新年会には早すぎます。こうした支出を減らす要因があっても、お年玉という支出があるので、1月1日の支出は多くなるのです。