「パウエル・プット」で米金利の安定期待が復活
1月4日のパウエル議長による発言は「パウエル・プット」と呼ばれ、米国と世界の株式を反転上昇させた材料として注目されました。
同議長は、アトランタで行われた米国経済学会の年次会合で、2018年10月以降の株価波乱に言及し、「市場は世界景気を不安視しており、金融政策を柔軟に見直す用意がある」「インフレが落ち着いていることを踏まえ、辛抱強くいられる」などと述べ、利上げをいったん休止する可能性を示唆しました。市場が懸念していたバランスシート(資産)の縮小についても、「政策目標と対立するなら変更することをためらわない」と発言し、ハト派的な姿勢を示しました。
近年の株価急落場面を振り返ると、政策金利や長期金利の上昇懸念が引き金となったことが多々ありました。こうした中で、金融当局が景況感や市場変動に配慮する姿勢を示したことで、市場にボラティリティ(変動性)の縮小期待が広まりました。
なお、先物市場(CME=シカゴ・マーカンタイル取引所)の動きをベースに政策金利の先行きを占う「FED Watch」によると、2019年12月のFOMC(米連邦公開市場委員会)終了後の政策金利(FF[フェデラルファンド]金利の誘導目標)を巡る市場予想平均を次のように見込んでいます。現行水準(2.25~2.50%)が維持される確率を73.5%、追加利上げが実施される確率を10.8%、利下げされる確率を15.7%としています。
そして米債券市場では、金融政策の先行きに最も敏感とされる短期債金利(2年国債利回り)と長期債金利(10年国債利回り)が低下傾向に転じています。米国金利の安定期待は、米国株式だけでなく新興国市場全般の戻り基調にプラスとなっています。
図表2:米国の政策金利と債券市場利回りの推移
世界株式の「年初来騰落率」にも差が見られる
日経平均は、2018年12月26日ザラ場で付けた安値(1万8,948円)から、2019年1月9日ザラ場の高値(2万0,494円)まで約1,546円戻したことになります。日経平均もTOPIX(東証株価指数)も年初来騰落率はプラスとなっています(1月10日)。
こうした相場の反発は、12月までの株価急落の反動(リターン・リバーサル)の部分もあります。ただ、昨年末に米国市場で個人投資家が「総弱気」に至り、景気後退や企業業績の大幅減益を織り込むほどまでに株価が急落した状況を分析したいと思います。
図表3は、世界の主要10市場(国・地域)について、世界の機関投資家がベンチマークとして使用するケースが多いMSCI株価指数の年初来騰落率(降順)で一覧したものです。
過去1年で下落率が大きかった順に年初来騰落率が高いわけではありません。例えば、年初来騰落率が+12.2%と好調であるブラジルは、新年に就任したボルソナロ新大統領が主導する構造改革期待を反映した動きとみられます。また、米国の2019年予想PER(株価収益率、15.3倍)、2020年予想PER(13.8倍)は比較的低位に留まり、2020年に増益が見込まれていることを示します。
そして、日本の2019年予想PER(11.7倍)、2020年予想PER(11.3倍)、予想PBR(1株当たり純資産、1.14倍)、配当利回り(2.6%)にも割安感が否めません。
トランプ米大統領は、貿易戦争懸念で急落した株式を押し上げるため、中国と早期に合意することを強く望んでいるとの意向が報道されています。3月1日を期限とする米中貿易交渉で一定の交渉進展が見られれば、昨年末に悲観に揺れ過ぎた株式相場が戻り試す余地はあると考えられます。
図表3:世界株式の騰落率とバリュエーション比較
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