個別株運用とインデックス運用をズバリ比べると…

 さて、定性的な特徴と個人的な好き嫌いだけでなく、もう少し具体的に個別銘柄投資とインデックス投資を比べてみよう。前記の比較表からもおわかりいただけると思うが、筆者は、個別銘柄投資は複数の銘柄のポートフォリオを作って行う事が望ましいと思っている。だが、あえて1銘柄への投資とインデックス投資を比較してみようと思う。

 筆者は昨年末を終端とする過去5年間の月次の株価変化率から、SONY(6758)TOPIX連動のETF(1308を使った)の年率換算のボラティリティーを概算してみた。SONYが36.1%、TOPIXが16.7%だった。

 SONYは話題や人気を集めやすく活発に取引されることが多い銘柄だ。東証一部の大企業には値動きがもっと地味な銘柄があるが、他方、個人投資家が投資する銘柄は値動きがもっと派手なものになる場合もある。

 他方、TOPIXの過去5年間は、アベノミクス開始当初と昨年末にかけての変動の激しい時期を含むものの、比較的値動きが地味な時期だったといえるだろう。

 仮に単一の個別銘柄を保有するリスクを36%、インデックスファンドを保有するリスクを(先程のデータよりも少し大きめに見て)18%と考えた場合どのようなことが言えるだろうか。

さらに追加的仮定として、個別銘柄への一銘柄の投資も、インデックスファンドへの投資も期待リターンは共に年率5%だと考えるとどうなるか。

 マイナス2標準偏差レベルで最大損失を考えると(リターンに単純な正規分布を仮定する)、1年後に、単一銘柄投資は67%、インデックス投資では31%が、想定最大損失だ。

 この場合、一定の想定最大損失額を限界だと考えると、インデックス投資では単一銘柄投資の2倍以上の金額まで投資できることになる。

 仮に「100万円が許容できる最大損失だ」という人にとっては、単一銘柄の個別株投資なら149万円程度しか投資できないが、インデックス投資なら323万円(共に1万円以下四捨五入)まで投資できる。共に期待リターンが同じ(例えば5%)だと仮定すると、同じリスクの負担に対して、インデックス投資は単一銘柄の個別株投資の2倍以上の収益を期待できることになる。

 保有するポートフォリオのリスクの大きさが違うということは、一定の投資金額に対する想定最大損失の違いとして理解することもできるが、想定最大損失を一定額に揃えた場合には期待リターンの差として評価する事ができるのだ。

 加えて、標準的な投資の理論ではポートフォリオを、「(効用関数)=(期待リターン)−(リスク拒否度)×(分散で表したリスク)」といった「効用関数」で評価するので(注:分散で表したリスクは、標準偏差で表したリスクの2乗)、ポートフォリオのリスク(標準偏差表したもの)が2倍になると、リスクによる減点要素の大きさは4倍になる。投資家がどの程度リスクを嫌うかによってリスクの悪影響の大きさは異なるが、多くの場合、単一銘柄による個別銘柄投資は「話にならないくらい効率が悪い」。個別株投資を行う場合、数銘柄でもいいから分散投資する形で行って欲しい。

 筆者は、資産形成を目的に個別株で株式投資を始めようとしている投資家に対し、例えば以下のような原則で投資をお勧めしたい。

 

【株式投資初心者の投資原則の一例】

  1. 少なくとも業種の異なる3銘柄以上のポートフォリオで投資を始めて下さい。
  2. 最大投資金額の銘柄のポートフォリオに占めるウェート(%)が、ウェートが最小銘柄のウェートの3倍を上回らないように投資金額を決めて下さい。
  3. 保有銘柄が10銘柄を超えるまで、投資対象は東証一部上場で時価総額3,000億円以上の大企業として下さい。
  4. 自分が持っている銘柄と同じ銘柄は買い足してはいけません。
  5. 自分が持っている銘柄と同じ業種の銘柄はなるべく買わないようにしましょう(保有銘柄が増えてきたらある程度許容しても結構です)。
  6. 3. 以外の銘柄は、投資金額の1割以上は投資しないことにしましょう。

  上記のようなルールを守って投資すると、上手く作れば10銘柄内外で、通常10数銘柄の段階で、標準偏差にして20%台前半のポートフォリオが出来てくるはずだ。信託報酬の差を考えても「インデックス投資よりも効率的だ」とまではいかないかも知れないが、相当リスクを落として運用することが、個別株投資でも可能になるはずだ。

 かつては、インデックスファンドでも信託報酬が50ベイシス・ポイントを超えるものが少なくなかった。また、2000年4月に行われた日経平均の銘柄入れ替えで、日経平均連動のインデックスファンドを持っていた投資家が10%以上の損失を被ったケースの記憶が生々しく残っていることもあり、筆者は「個別株投資に分散投資して自分で管理するほうが、インデックスファンドに投資するより、むしろいい」と考えていたのだった。

 現実の個人投資家の話を聞き、あるいは個人投資家が利用可能なインフラ(特にポートフォリオのリスク計測)を考えた場合に、十数銘柄程度のポートフォリオを個人投資家がバランスを取って運用することは容易ではないように思われる。

 個別株投資の場合、インデックス投資以上に、投資家は、個人の感情の揺れ、投資上の悪癖、世間の俗説などから自由になることが容易ではないし、何よりもポートフォリオのリスクを可視化してコントロールできるようにするためのデータとソフトウェアを安価に用意することが難しい。

 筆者は、普通の個人に個別株投資による資産形成を勧めることを未だ諦めた訳ではないのだが、現状では、インデックス投資を勧めることがより適切な場合が多いだろうと考えている。

 読者は、先の数値例から個別株投資よりもインデックス投資の方が有利な場合が多く、どの程度有利であるかをおおむねご理解されたものと期待するが、許容できるリスクの範囲内でやるなら、個別株投資を行うことに問題がある訳ではない。趣味として個別株投資を行うのは結構なことだし、もちろん、インデックスファンド並み以上の効率性を目指して個別株投資による資産形成法の確立を試みることも(単なる結果論はともかく、方法論レベルでやり方を確立することは)簡単ではないが、やり甲斐のあるチャレンジだと思う。