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<21>投資になると、リスクからリターンを考えられない
中桐 啓貴
投資小説:もう投資なんてしない
「3日で3万円も儲かったのだから、ひと月で数十万稼ぐのも夢じゃない」と、株式投資にのめり込んだ隆一。だが、待っていたのは金融ショック。株式市場から「退場」させられた。そして「もう…

<21>投資になると、リスクからリターンを考えられない

2018/7/20
いざ投資先を決めようとするとき、「●●%のリターンが狙えそう」「●倍高になりそう」と儲けの想像はするけど、「いくら損しそうか?」というネガティブな想像をしない人が多い。これも資産運用の明暗を分けるポイントだと先生は言う。
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第5章 分散投資は、個人投資家を堕落させるか、成功させるか

<第2話>投資になると、リスクからリターンを考えられない

 何に投資をするべきか自分であれこれ選ぶより、株価指数などのインデックス、市場平均を買ったほうが長期的には成績がよさそうだ、というのが隆一の学んだこと。先生は、それを踏まえて話を続けた。

「投資先を考えるときのポイントは、市場平均を持っていればいいということ。そして、もう1つ重要なポイントがあります。それは、リスクから考えるということです」
「どういうことですか」
「ハイリスク・ハイリターン、ローリスク・ローリターンの意味はわかりますか」
「先生、TOEIC400点台ですけど、それぐらい分かります。リスクを取ればリターンがあり、リスクを取らなければリターンはないということですよね」

 

会社を辞めて起業するリスクとリターン。投資に置き換えると?

「その通りです。では、もしあなたが友達に『いっしょに起業をしないか』と誘われたとしたらどうしますか」
「家族もいますし、起業しても10年持つ会社はほとんどないと言われるので、簡単には乗れませんね。ただ、うまくいったときにかなり稼げるという見込みがあるなら、考えますけどね」「そう、それはつまり、あなたは今の会社を辞めて起業をするというリスクを取るのであれば、そのリスクに見合ったリターンがないと納得できないということを言っているのです」

 隆一が<そりゃそうだろ>と思っていたところに、「何を当然のことを言っているのだと思っていませんか」と先生が言うので、隆一はやれやれと目を伏せた。

「いや、この当然のことを、投資になると、できていない人が多いのです。多くの人がリターンのことしか考えていません。たとえば、最近業績のいい個別株があり、それを買えば10倍になるかもしれないと思って買ったりします。でも、そこが高値だった。そして、その後ずっと低迷したとしても、塩漬けにしてしまい、それもしょうがないと諦めてしまうのです」

リターンだけ考えて、リスクを想定しない投資家たち

「確かに、『すごい儲かりそう』とか、いい想像はしても、悪いシナリオは考えないで失敗したら、目を瞑る感じでした・・・」
「そんなに都合がいい話はありません。こと自分の仕事となればリスクを考えるのに、投資になるとリスクを考えない。失敗したら、臭いものに蓋をする。これで資産が増えたら苦労はありません。リターンからしか投資を考えていないうちは、素人です。プロは常にリスクから考え、取っているリスクに対して最大のリターンが出ているかを考えます。違う言い方をすればその投資が効率的なのかどうかということです」
「でも、投資になると自分がどれくらいのリスクを取っているか分からないので、リスクとリターンの関係なんて考えたこともないですし、どう考えればいいんですか」

「ふむ。実はこのリスクから投資を考えるというのも、1950年代にハリー・マーコヴィッツという人が初めて論文を出し、その論文でのちにノーベル経済学賞を取るのですが、そこから金融業界の人もリスクとリターンの関係を気にするようになったのです。リスクを取るからこそリターンがある、虎穴に入らずんば虎児を得ずです」
「へえ、リスクから投資を考えるというのは、つい最近の話なんですね。だとすると、それをごく一般の人ができないのも無理ですよ。特に日本人の僕には」

 

リーマンショックのとき、日本の年金はどのくらい損した?

 隆一の返事は先生にとって新鮮なものだったようで、頷いて話を続けた。

「なるほど、それは確かにあなたの言うとおりかもしれません。とはいえ、投資を続ける上ではリスクとリターンをいっしょに考えるのは、大前提です。そして取っているリスクに対して最大のリターン、最も効率的な資産配分にするために分散投資をするのです。そこで、なぜ株式と債券を組み合わせるといいかを考えたいと思います。参考になるのが日本の年金運用です。日本の年金は約150兆円を株式と債券に投資をしています。ちょうど10年前にリーマンショックが起こりました。その時にどれくらいのマイナスになったと思いますか?」

「リーマンショックですよね。30%ぐらいは当然下がったんじゃないですか」
「ははは、そんな数字が出ていたらもっと大騒ぎになったでしょうね。でも、実はマイナス7%で済んでいたんです」
「そのくらいのマイナスでリーマンショックを乗り切ったんですか。にわかには信じがたいですね。神運用じゃないですか」

「神でもなんでもありません。リーマンショックの時に値上がりした資産クラスが2つだけあります。何かというと日本国債と金(GOLD)です。当時、日本の年金は全運用資産のうち、約70%を日本国債に投資をして、30%が株式でした。株式は軒並み30〜50%下落しましたが、70%入れていた日本国債が値上がりしたので、全体のマイナスは7%で済んだのです。これが分散投資の効果です。景気がいいときは株式が上がり、景気が悪くなると債券が安全資産で買われるので値上がりします。この2つを組み合わせることで、リスクを減らしながらリターンを取れるというわけです」

 

分散投資とリスクとリターン。いくらまで損に耐えられるか?

「先生、少しずつですが分散投資の意味がわかってきました。私の勤めている会社はスポーツ用品メーカーで元々、野球用品が強かったのですが、冬場に売れるものも必要ということで、バスケットボール用品も開発するようになりました」
「ふむ。まさに分散効果ですね。季節ごとの売り上げのブレを抑えるために、ラインアップを広げたわけですか」
「ですね。売り上げの波がなだらかになりました」「なだから、というのはまさに分散投資の目指すところです。あなたも投資の成績はなるべく安定していたほうがいいでしょう」
「精神衛生上、とても」

「さて、もう一度リスクの話に戻りますが、あなたがどれぐらいのリスクを取れるかをまず決めて、そのリスクに対して最大のリターンが見込める資産配分を考えるのが、日本の年金もやっている『ポートフォリオ運用』というものです。仮に500万円を一括投資するとして、あなたはいくらの評価損まで耐えられますか?」
「500万円・・・大金ですね。平常心をなんとかを保てるのは100万円の損、マイナス20%ぐらいまでですかね。それ以上、損が膨らむと嫁の顔を直視できなくなってしまい、寝つきが悪くなりそうです」

「そうすると、あなたはマイナス20%までのリスクを取れるということです。そのリスクに対して最大のリターンと考えると、おおよそ年率で4〜5%のリターンが出る資産配分で運用をすべきということになります」
「20%のリスクで、4%のリターンじゃ割が合わないような気がしますが」
「あなたがこれからしようとしている、投資はどのくらいの期間でするつもりなんですか」「う、そうでした。長期です。」
「最大の損失が20%、年率で4%のリターン、これの意味するところはわかりますか」
「毎年4%で増やせれば、5年で20%のプラス、ですね」

「単純に考えればそうですね。でも、利益を再投資して複利で運用することを前提とするなら、リターンはさらに上乗せされます。投資期間が長くなれば」
「長くなればなるほど、増やしやすい。あらかじめ下がっても20%ぐらいまでと分かっていたら、もし仮にそうなったとしても、これは一時的なものと思って耐えられそうです」

「まさにそれが、リスクから考える効率的な資産運用ということです」

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