2018年6月22日に第174回OPEC(石油輸出国機構)総会が、翌23日に第4回OPEC・非OPEC総会が終了しました。
図1のとおり、WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエート)原油価格は総会開始とほぼ同時に上昇し、およそ1カ月ぶりの高値で取引を終えました。
図1:WTI原油先物価格(期近)・1時間足
6月25日午前9時時点でWTI原油先物(期近)は1バレルあたり68.32ドル近辺で推移しています。先週末の総会時の流れが一服しやや反落して今週の取引が始まっています。
直接的かつ具体的な言葉を用いず即時に増産実施を宣言。総会は混乱なく終了
事実確認のため、6月22日から6月24日にかけてOPECのウェブサイトに掲載された今回のOPEC総会とOPEC・非OPECの閣僚会議に関する文章から、要点を抜粋しました。
・150%前後まで上昇した減産順守率を100%まで引き下げる
・減産順守率の引き下げは7月から
・コンゴのOPEC加盟、チャド、エジプト、ウガンダ、南アフリカが非OPECとして減産に参加することが示唆
・次回のOPEC総会は2018年12月4日に開催
「増産」という言葉をはじめ、「どの国が」「どれだけ生産量を増やすか」などの記載はありません。
減産順守率が非常に高い水準であり、それを7月から100%に引き下げるという言葉から、7月以降、どのような生産状況になっていくのかを推し測ることになります。
すでに複数のメディアによる要人への取材によって得られたコメントとして、「おそらく増産幅は日量70万バレル程度になるだろう」「どの国が増産するかは不明だ」などと報じられています。
7月のOPECの原油生産量は8月に公表されます。
8月初旬に複数の海外大手通信社が、8月7日にEIA(米エネルギー省)が、8月10日にIEA(国際エネルギー機関)が、8月13日にOPECが公表します。
今回の総会後、生産量にどのような変化が生じたのかについて、8月に入ってから各情報源のデータを追うことになります。
また、現在減産に参加する24カ国が実施する減産(原則2016年10月に比べて、参加国合計でおよそ日量180万バレルの生産量の削減)の期限は、2018年12月までです。
ウェブサイト上の記載にはこの期限について、つまり、「減産を再々延長するのか」という点については触れられていませんでした。
まとめれば、7月より減産順守率を100%まで下げ、それを12月まで維持する、減産の期限後については12月4日の総会で決定(その前に臨時総会の可能性もあり)ということが公式に伝えられたことだと言えます。
OPECは総会で「増産枠の獲得」「原油価格の反発」に成功
今回の総会の結果をどのように解釈することができるのでしょうか。筆者は減産体制側からの視点として、以下の2つに成功したと言えると考えています。
(1)増産枠の獲得
(2)原油価格の上昇
(1)の増産枠の獲得
増産枠の獲得については、公式にも触れられているとおり、減産順守率を引き下げる、つまりこれまで行ってきた生産量を絞る減産行為を緩めることになり、今年6月の生産量に比べて、7月から減産の期限である12月までは生産量が増加すると考えられます。
現在の減産は、参加する24カ国合計で原則約180万バレル(2016年10月比)削減するというものですが、その達成状況を示す「減産順守率」を毎月下旬に減産監視委員会が公表しています。
図2のグラフはOPECのウェブサイトに掲載されている減産順守率のデータを示したものです。
図2:減産参加国24カ国全体の減産順守率の推移
今年5月下旬に、サウジとロシアが増産を協議していると報じられました。その頃から、一部の加盟国の中で生産の増加が起きていた可能性があります。
また図3は減産順守率と削減幅・増産可能幅のシミュレーションです。注意しなければならないのは、このシミュレーションはOPECのみのものではなく、OPECを含んだ減産体制24カ国全体の減産順守率、削減幅・増産可能幅だということです。
図3:減産順守率と削減幅・増産可能幅のシミュレーション
原則的に2016年10月を基準とし、減産参加国24カ国全体で日量180万バレル削減をするのが今回の減産です。今回の総会でも触れられましたが、2018年5月の減産順守率は147%でした。
このため、余分に日量約84万バレル分多く減産している計算になります。この分が増産可能幅になると筆者は考えています。
さらに、米国によるイランへの単独制裁、およびベネズエラの自国都合の生産減少(ともにOPECに加盟)により、余剰分が拡大することが予想されます。
この点については過去のレポート「原油70ドル超えは核合意破棄のせい?トランプ劇場とOPECの舞台ウラ」で触れましたが、年末ごろまでに日量50万バレル程度、減少すると考えています。
先述の84万バレルとこの2カ国の減少予想分である50万バレルを足せば、年末ごろには今よりも日量130万バレル分多く生産できる計算になります。
図4は2018年12月までの、減産体制24カ国全体の増産枠のシミュレーションです。
図4:減産体制24カ国全体の増産枠のシミュレーション
2018年7月に総会で獲得した増産枠が年末に向けて徐々に拡大することが予想されます。
増産幅の出現と拡大は、増産を提起していたサウジアラビアやロシアはもちろん、減産開始からもうじき1年半が経過する中、減産に疲労感を感じる国にとっても恵の雨となる可能性があります。
(2)原油価格の上昇
次に原油価格の推移を見てみます。
図5:WTI原油先物価格(期近)の推移 日足
およそ1カ月ぶりの水準まで上昇しました。サウジとロシアの増産への言及があったころから下落し、冴えない展開となっていた原油市場ですが、今回の総会での増産決定で急反発しました。
「噂で買って、事実で売る」という相場格言がありますが、まさにその逆のパターンで、今回の総会前後の原油市場は「噂で売って、事実で買う」というパターンとなりました。
増産が強く示唆されてきた5月下旬から総会直前までは、2017年1月から始まった「減産相場」が終わりを告げるのではないか?という強い警戒感があったとみられます。
原油相場はOPECがロシア等と協調して減産をしているから下がらない、という思惑が働いていたことで2017年1月の減産開始以降、大きく原油相場は上昇してきました。
しかし、その減産体制のリーダーであるサウジとロシアが一転して増産に踏み切ると発言したことで減産体制への期待が削がれ、原油相場は下落に転じました。
ただ、総会で決まったことは、減産順守率を100%まで下げる、その規模は数十万から100万バレル前後などといった、6月に入って流れてきたニュースの内容そのものであったため、むしろ想定内だったことへの安心感が広がりました。
また、総会では減産体制は強固な協力体制であることが繰り返しアピールされたこともあり、減産体制への期待が持ち直した面もあると考えられます。
減産体制は総会のおよそ1カ月前から市場に大きな不安を与え、そして情報を小出しにして総会での決定事項を示唆し、懸念を市場に織り込ませた、そして総会で実際にその内容で決着させて市場に大きな安心感を与えた、その結果、増産で決着したにも関わらず、原油相場急騰(プラス増産枠獲得)、という産油国にとってはこの上ない結果を導き出したわけです。
先日、とある会合で「OPECのカルテルはなぜ現代社会でも通じてしまうのか」という疑問を呈された方がいました。筆者は「OPECをカルテルだと思い込む市場があるから」と答えました。
これを「OPECの神通力」と言う人もいます。OPECの発言に重みを感じる市場参加者は、OPECを含む減産体制の発言に一喜一憂し、不安にあおられたり安心感を与えられたりするとそれになびくように売り、買うという行為をするのだと思います。
OPECはこの市場環境を逆手にとって、今回の総会で、増産枠と原油価格の上昇、という相反するものを同時に手に入れたのだと筆者は考えています。
6月の総会が終わり次回の総会は12月4日に予定されています。しかし、一部のメディアでは12月の総会を前に臨時総会を開催する用意があると報じられています。
また、今後の原油相場の留意点は、米国をはじめとしたOECD石油在庫の動向です。減産が功を奏してこの半年間で大きく減少したOECD石油在庫ですが、増産となると再び在庫が高水準まで積み上がる可能性は否定できません。
さらには、トランプ米大統領がOPECについてのツイートを繰り返し、OPECが生産量を増やすことを後押ししています。
目先の原油価格の動向を考えるには非常に難しい状況ですが、在庫の他、現在の原油相場は非常に政治色が強くなっていることを考えれば、トランプ大統領を含めた要人の発言がヒントになるとみられます。まずは8月に公表される7月の原油生産量のデータを待つ、という状況なのかもしれません。
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