5月7日~11日原油マーケットレビュー

  前週のNY原油相場は上昇。米国のイラン核合意離脱表明を受け、イランからの供給減少を懸念した買いが集まった。WTI期近6月限は一時71.89ドルまで上昇し、期近ベースとしては3年5ヶ月ぶりの高値を付けた。

 2015年にイランと欧米など6カ国との間で締結された核合意だが、米国は合意から離脱する意向を示していた。核合意の欠陥修復がない限り、制裁解除の税費を検討するとし、その期限が12日に迫っていた。直近の上昇による高値警戒から利食い売りも見られたが、イランをめぐる問題を警戒した動きから下値も堅い状況のなか、期限前の8日午後にトランプ米大統領は核合意を破棄すると宣言、さらにイランへの経済制裁を再開することを表明した。原油関連の取引については、180日間の猶予期間を経た後、米国は経済制裁を再発動することになる。前回2012年からの制裁時において、イランの原油輸出量は日量100万バレルほど減少した経緯があるため、相応の輸出減少につながる可能性がある。そのため、日本を含め調達先を見直して代替調達に動く輸入国が増え、供給タイト感が強まるとの思惑が広がった。

 核合意離脱に関して、市場ではある程度織り込まれていたため、過度な上昇局面では利食い売りが集まり、一時的に押される場面もあったが、石油輸出国機構(OPEC)の複数の加盟国からは、イランの供給減に代わって産油量を早急に増やすことは検討していないとの声も聞かれ、財政難にあるベネズエラの原油生産量がさらに落ち込むことへの懸念もあり、需給が引き締まるとの見方が優勢に。また、米国の核合意破棄が引き金か否かは不明だが、親米国家であるイスラエルとイランとの軍事衝突も危惧される状況にあり、中東の地政学上のバランス崩壊も懸念された。足元の供給においては、ベネズエラの産油量が減少傾向にあることは確かだが、イランからの供給が落ち込んでいる訳ではない。しかし、先行きに対する思惑が市場のセンチメントを強気に傾け、買い優勢の地合いが続いている。

 このほか、米国の原油在庫が市場予想以上に減少したこと、また利上げペース加速期待からドルの先高観が強まっていたが、この週はドル買いが一服したこともあり、ドルが対主要通貨で軟化したこともサポート要因となった。さらにテクニカル面からの上昇支援もあった。節目の70ドルを上抜いたことで、売り方の踏み(損失確定の買戻し)を巻き込み、上げ足を速めた一面もある。トランプ米大統領が核合意離脱を表明した8日においては、日中の値動きが乱高下し、当限(6月限)の出来高は100万枚を大きく超えるなど商いは盛況。玉の回転は進んだ可能性はあるが、買い方が利食い売りをこなしながらも新たに買い玉を構築した可能性があり、買戻しが遅れた売り方に対してショートスクイーズ(損切りの買戻しによる上昇)が狙われる可能性も残っている。買われ過ぎ感があるため、右肩上がり一辺倒の相場上昇は想定し難いが、これらテクニカルや内部要因からの上昇余地がある点も念頭に入れておくべきだろう。

今週の予想

  • WTI    中立 68.50-72.50ドル
  • BRENT    中立 79.00-75.00ドル

 

国内石油化学関連ニュース

トピックス

  • 積水化学工業、塩化ビニル管および関連製品値上げ
  • 東レ、ポリオレフィン発泡体生産能力を増強
  • 京葉エチレン、クラッカーが定修入りへ
  • 昭和電工、酢酸ノルマルプロピル生産能力を増強
  • 日揮、S&Bと協業に合意
  • DIC、米バイオベンチャーと先端高機能材料に関する共同開発契約を締結
  • ダイセル、サプリメント向け添加剤の販売を開始
  • クレハエクステック、深絞り包装用フィルム事業から撤退
  • デンカ、新規高機能エラストマーを上市
  • JBIC、中国における三井化学の機能性コンパウンドの製造・販売事業に人民元建て融資
  • 三京化成、タイに工業用ゴム製品の合弁会社を設立
  • 三菱ケミカル、日本合成化学工業の合併検討を開始

 

海外石油関連ニュース

CFTC、ファンド建玉明細

 米商品先物取引委員会(CFTC)が発表した建玉明細報告によると、8日時点におけるWTIのファンド筋のポジションは67万9928枚の買い越しと、前週から買い越し幅を1万0799枚縮小させた。手仕舞い売りを先行させるとともに、小幅ながら新規に売り建ちしている。一方の生産者筋は69万8340枚の売り越しと、前週から売り越し幅を2万1566枚縮小させた。こちらは売り買いともに新規にポジションを構築。新規買いを先行させた。

 

EIA、2018年WTIスポット平均価格見通しは65.58ドルと大幅上方修正

 米エネルギー情報局(EIA)は5月8日、5月の短期エネルギー見通しを発表した。世界石油需要見通しは、2018年は日量1億0028万バレルと前月見通しから同3万バレルの小幅下方修正、2019年は同1億0201万バレルと同15万バレルの下方修正。世界石油供給見通しは、2018年は日量1億0045万バレルと前月見通しから同2万バレルの小幅下方修正、2019年は同1億0264万バレルと同42万バレル引き上げた。原油スポット平均価格に関しては、WTIスポット平均価格は、2018年が65.58ドルと引き上げ、2019年も60.86ドルと上方修正した。ブレントスポット平均価格は、2018年が70.68ドル、2019年は65.98ドルとともに引き上げている。 

単位: 1万バレル/日、ドル/バレル
出所:EIA

 

EIA、原油在庫は予想以上の減少

 米エネルギー情報局(EIA)が5月9日に発表した5月4日までの週の週間石油統計の概要は次の通り。

 原油在庫は前週比219.7万バレル減の4億3375.8万バレルとなった。前年同期比は17.0%減と前週の同17.4%減からマイナス幅が縮小した。ロイター事前予想の70万バレル減を上回る減少となった。生産量は日量1070.3万バレル(前週比8.4万バレル増)と増加し過去最高を更新。輸入量は同732.3万バレル(同122.6万バレル減)と減少した。リファイナリーへの投入量は同1679.2万バレル(同12.0万バレル減)と減少し、稼働率は90.44%と0.65pt低下した。輸出量は同187.7万バレル(同27.1万バレル減)と減少した。なお、WTIの受け渡し拠点であるオクラホマ州クッシングの原油在庫は3717.0万バレル(同138.8万バレル増)と3週連続で増加した。戦略石油備蓄(SPR)は6億6355.7万バレル(同70.9万バレル減)。

 ガソリン在庫は前週比217.4万バレル減の2億3580.4万バレルとなった。前年同期比は2.2%減と前週の同1.3%減からマイナス幅が拡大した。ロイター事前予想の50万バレル減を上回る減少となった。生産量は日量992.6万バレル(前週比13.0万バレル減)と減少した。輸入量は同80.3万バレル(同12.0万バレル減)と減少した。輸出量は同58.1万バレル(同32.0万バレル減)と減少した。需要は同977.5万バレル(同68.5万バレル増)と増加した。4週平均の需要は同945.1万バレルと前年同期の同924.8万バレルを2.2%上回る水準。全米平均ガソリン小売価格(レギュラー)は前週比0.1セント安の284.5セントと4週ぶりの値下がり。

 ディスティレート在庫は前週比379.1万バレル減の1億1503.8万バレルとなった。前年同期比は22.7%減と前週の同21.0%減からマイナス幅が拡大した。ロイター事前予想の140万バレル減を上回る減少となった。このうちヒーティングオイル在庫は同20.8万バレル減の926.8万バレル、前年同期比0.8%増と前週の同1.0%増からプラス幅が縮小した。生産量は日量499.3万バレル(前週比0.2万バレル減)と小幅に減少した。輸入量は同12.8万バレル(同5.2万バレル増)と増加した。輸出量は同135.6万バレル(同21.3万バレル増)と増加した。需要は同430.7万バレル(同17.8万バレル減)と減少した。4週平均の需要は同422.4万バレルと前年同期の同406.0万バレルを4.1%上回る水準。全米平均ディーゼル小売価格は前週比1.4セント高の317.1セントと7週連続の値上がり。

 なお、プロパン/プロピレン在庫は前週比230.1万バレル増の3867.1万バレルとなった。生産量は日量187.5バレル(前週比3.2万バレル増)と増加した。輸入量は同13.8万バレル(同1.1万バレル増)と小幅増。輸出量は同70.7万バレル(同15.7万バレル減)と減少した。需要は同97.7万バレル(同3.5万バレル減)と減少した。4週平均の需要は同98.2万バレルと前年同期の同91.8万バレルを7.0%上回る水準。

 石油製品全体の4週平均の需要は、日量2028.7万バレルと前年同期の同1974.7万バレルを2.7%上回る水準。SPRを除く石油全体の在庫は、前週比150万バレル減の11億8620万バレル。前年同期を11.2%下回る水準。