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 <12>繰り返されるバブル。資本主義はバカなのか
中桐 啓貴
投資小説:もう投資なんてしない
「3日で3万円も儲かったのだから、ひと月で数十万稼ぐのも夢じゃない」と、株式投資にのめり込んだ隆一。だが、待っていたのは金融ショック。株式市場から「退場」させられた。そして「もう…

<12>繰り返されるバブル。資本主義はバカなのか

2018/5/11
チューリップの球根ひとつで家が建つ?――繰り返されてきたバブルは、これからも起こるし、崩壊する話す<先生>。なぜ、人は過ちを繰り返すのか。
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第3章 バブル崩壊は、投資タイミングのヒントになるか?

<第3話>繰り返されるバブル。資本主義はバカなのか

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「投資の勉強をしているのに、なぜバブルのことを学ぶ必要があるかについて改めて話しましょう。それは第一に、私たちの暮らす資本主義の社会では、バブルは付き物だということです。ところで、あなたは何年生まれですか?」

「1985年、昭和60年です」

 バブルの話と自分の生まれ年に何の関係があるのか、と思いつつ隆一は先生に答えた。

「そうですか。であれば、ちょうどいい」
「ちょうどいい?ですか?」

「日本では、1980年代後半の不動産や株価の上昇と好景気の時代を『バブル経済』と呼びますね。2000年代初頭のNTT、光通信などの株価上昇は『ITバブル』、アメリカの2003年以降の住宅価格と金融資産価格の高騰は『住宅バブル』と呼ばれました。ご存知ですか?」
「ええ、聞いたことはあります。私の親父も80年代後半のバブルの時は、若手でも飲んだあとはタクシーで帰ったと言っていました」

「実は、バブルの歴史は古く、17世紀のオランダでは、『チューリップバブル』とよばれるバブルがありました。一般大衆までチューリップの球根を買いあさって、球根一個に家が一軒買えるほどの値段が付いたことがあったのです」

「球根一個で家が買えたんですか!」

「そう、それがバブルです。その後も18世紀のフランスではミシシッピ会社という実態のないペーパーカンパニーの株に人々が殺到したミシシッピバブルが起こりました。目の前に、儲かりそうなチャンスが現れると、その実態に関わらず、人々は、みなそれに群がるのものなのです」

 先生は続けた。
「つまり、バブルは資本主義が社会に浸透し始めたころから各国で生じていました。そして、その度に混乱が起こったので、その愚かしさも、弊害も、誰もが知ることとなります。でも、誰もが分かっているのにバブルは繰り返され、21世紀の今日でも続いているのが現実です。むしろ、資本主義が成熟化するにつれてバブルの発生頻度が増えています」

「え? 成熟するほど、愚かだとわかっているバブルが起きやすくなるなんて、バカみたいじゃないですか」

「ふむ、実に全うな疑問ですね」

音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない

 先生は、隆一の悪くない反応を見て続けた。
「資本主義とは、市場の需給で価格が決まる社会で、誰もが自由におカネを使え、誰もが自由に儲けることができる社会です。逆に、おカネがないと暮らしていけないし、儲けないと豊かになれない社会です。」
「先生、そこは、理解できています」

「そうですね。私が改めて言ったのは、人々が自由に儲けることができる社会になると、人はどう行動するか、ということです。全員とはいいませんが、ほとんどの人は、もっと儲けよう、損したくない、と行動するのではないですか。」

「それって、当たり前じゃないですか? それが、なぜ、バブルを生むんですか?」

「そう、当たり前なのです。その人間の当たり前の欲求とインフラの進化がポイントです。金融市場が整備されて、投資、あるいは投機がしやすくなると、金融市場でどういうことが起きるのか、ということです。2008年にリーマンショックがあり、市場は大混乱しました。しかし、その手前では債券価格も株価も、長く上昇を続けていました。そして、プロも素人も価格は高くなりすぎているのでは?と感じていました。それでも買う人の方が多かった。なぜでしょうか?」

「確かに、高過ぎると思うなら買わなければいいと思いそうです。みんなバカだったということでしょうか?」

「そう思うでしょうね。でも、それはやはり結果論なのです。『音楽が鳴っている間は、踊り続けなければならない』という有名な話があります。これは2007年にサブプライム・ローンのリスクが高まっている最中に、シティグループCEO(チャック・プリンス)がフィナンシャル・タイムズ紙のインタビューに答えたものです。つまり、彼らは市場の価格が異常に高いことは、皆、知っていたのです。でも、価格が上昇基調にある間は、買わないと儲けられない。ですから、買わざるを得ないのです」

「投資の素人ならまだしも、プロまでも高いとわかって買ってしまうのですね」
 隆一は、バブルという巨大はハリケーンが民家を飲み込んでいく姿が目に浮かんだ。

 

誰かが、より高い値段で買ってくれれば、株価は上がる

「金融機関という組織で働いている人は、運用成績を問われます。特にディーラーと呼ばれる職種の人は、その成績が会社の業績はもちろん自分の給料にダイレクトに影響します。だから、ライバルが稼いでいるのに、自分が稼がないわけにはいきません。私たちも、理屈はどうあれ、周りの人の儲け話を聞くと、自分も、と思ってしまうものです。日本も1980年代後半のバブル期には、一流といわれる企業まで財テクに走るなど、日本中がバブルに踊りました。証券会社が事実上の利回り保証をしていた『営業特金』は1989年には40兆円まで残高が膨れあがりました。営業特金というのは、ある意味、証券会社の営業マンに運用を丸投げしていた資金です。トヨタや日産、松下でさえも1兆円を超える資金を運用し、1,000億単位の運用利益をあげていました。NTT株の売出しに日本中が熱狂し、NTTのピーク時の時価総額は当時の西ドイツと香港の市場を合わせた時価総額よりも大きい50兆円まで買われました」

「とんでもない金額すぎてピンとこないですが、それだけ狂っていたんですね」

「これも有名ですが、バートン・マルキールというアメリカの学者が『ウォール街のランダム・ウォーカー』という本の中で『より馬鹿理論』として紹介している話があります。もし株価が実体を伴わないほど高くなっていたとしても、それよりも高い値段で買ってくれる人がいる限り、その株を買うことに合理性があるという理屈です。どんな高値でも、それ以上の値段で売り抜けられるのなら儲かるからです。逆にいえば、理屈のつく妥当な値段、あるいは割安と考えられる値段で買っても、それより高い値段で買う人が現れなければ損失を抱えることになります」

「先生、やっぱりMr.マーケットって嫁より気難しいですね」
「そう、Mr.マーケットは気難しいという認識を持つことはいいことです。ただ、難しいから尻込みするのではなく、そういった相場の特徴と上手に付き合うことが重要です」
「嫁との付き合い方も慣れてきたのと同じか」

サービス業の隆盛とカネ余りでバブル頻発?

「ここ最近は10年おきにバブルが起きていますが、それには別の理由もあります。資本主義の国での景気刺激策は、金融政策と財政政策が二本柱です。金融政策とは、金利を下げることと通貨供給量を増やすことです。どこの国も、不景気では選挙で負けて政権が持ちませんから、金利を下げることで、低金利でお金を借りて工場や家を建ててもらって景気をよくしようとします。日本でも、デフレ脱却という名目で、超がつく金融緩和が続けられていますよね。住宅ローンなどは1%以下の金利で借りることができるのも金融緩和の恩恵です」

「先生、私は、経済学のような話は苦手というか……。」
「いや、経済学の話をしようとしているわけではありません。ケインズは1930年代の世界恐慌に、金融政策と財政政策という二つの方策を取り混ぜて有効需要を増やして不況から脱却する解決策を示したわけですが、21世紀の今日は、ケインズの時代とは産業構造が大きく変わったことでバブルが生まれやすくなりました」

「すみません、全然付いていけていません」
「大丈夫です。今話したのは結果のところで、ここから仕組みを説明していきます。まず、ケインズの時代、第2次世界大戦後は、工業製品の大量生産が経済の柱で、それができる欧米が先進国とよばれた時代でした。ここは大丈夫ですか?」
「はい、イメージできます」

「しかし今は、情報通信、医療介護、観光娯楽、金融などのサービス生産が経済の中核を占めるようになっています。その結果、金融緩和によってあふれたカネは設備投資のような実物投資に向かうのではなく、金融資産や不動産への投資に向かいがちです。そうなると、資産価格のバブルを誘発しやすくなります。これが、近年、バブルが発生しやすくなった一つの背景です。」

 隆一が、遮るように聞いた。
「先生、要するに、金融緩和でカネ余りの時にはバブルが起こりやすいということですか?」

「まあ、そう理解しても間違いではないでしょう。日本人は、80年代後半のバブル期には、絵画を目が飛び出るような値段で買いました。1987年3月にはロンドンの競売所で日本企業がヴァン・ゴッホの『ひまわり』を3,990万ドル(約42億円)で落札したり、日本人のオーナー経営者がニューヨークの競売所でヴァン・ゴッホの『医師ガシェの肖像』とルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレット』を総額1.6 億ドル(約170億円)で落札したりしていました。カネ余りの社会では、このようなことがよく起こります」

バブル発生は、防げない。終わりもわからない

「バブルについて、もう一つ、しっかりと覚えておく必要があるのは、バブルは必ず崩壊することです。そして、それがいつかは事前にはわかりません」

「必ず、ですか?」
「ええ、必ずです。暴騰があれば暴落もあるのが相場の特徴です。オランダのチューリップバブルや1930年代のアメリカの大恐慌、そして直近のリーマンショックもすべてある日突然バブルがはじけて暴落が始まっています。だから暴落に備える必要があります」

「ある日、突然ですか? でも、それがいつか分からないなら、備えようがないじゃないですか。先生なら、予測できるんですか?」
「できません。私は神ではありません。ただ、理屈も歴史も学んできましたから、可能性を察知して警戒して、行動することはできます」

「先生でも、可能性だけですか」
 隆一が、小さな声で呟くと、それを聞き逃さず、先生が続けた。

「でも、可能性を頭に入れて、警戒して行動するのと、そうでないのとでは、リターンに大きな違いが生まれますよ」
「リターンにですか」

 <リターン>と言う言葉につい反応してしまう、隆一の素直ところを、先生は好ましく感じ、コーヒーにひと口つけて、話を続けた。

「さて。企業の実力を離れて上昇した株価は、いつかは調整されて実力に近づきます。需給面でも、高騰した株が、何かのきっかけで、株を売ろうとする人が増えて下落を始めると、今度は上昇期に誰もが買おうとしたのと同じで、誰もが売ろうとします。人は、皆、自分だけは利益を確定しておこう、自分だけは損を抱えたくない、と動きますから」

「なるほど。バブルで暴騰したり、暴落したりしても、長い目で見れば、結局、株価は企業の実力程度に収まっていくということですね。」

「そういうことです。今日は、バブルを中心に相場の基本を話しました。まとめると、

第一に、モノの値段はその価値とはかけ離れることがある
第二に、相場は実需だけでなく期待でも上下する
第三に、投機の対象となると暴騰と暴落が起こりやすい
第四に、資本主義ではバブルは付き物、特に、カネ余りの時期はバブルが起きやすい
第五に、バブルは必ず崩壊して相場は暴落するが、それがいつかは事前にはわからない

ということです。投資をしている間にいくつものバブルを乗り越えなければ長期投資でリターンは得ることはできません。次回はどうしたらこのバブルを上手に乗り越えることができるのかを話しましょう」

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