米長期金利の3%突破に市場は恐怖心?

 米国市場で警戒されていた長期金利(10年物国債利回り)は今週、節目とされていた3%を突破しました。2月5日以降の「ボラティリティ・ショック」のきっかけが長期金利上昇であった経緯から、市場の不安心理は拭えません。また、24日にはダウ平均採用銘柄であるキャタピラーに業績面の先行き不安が広まり、資本財銘柄を中心に大幅安を余儀なくされました。

 長期金利上昇の背景としては、(1)米景気が堅調に推移している、(2)原油など商品市況堅調で期待インフレが上昇している、(3)トランプ政権の税制改革で財政収支悪化が懸念される、などが挙げられます。このうち(2)については、米国債市場で計算される「期待インフレ率(ブレークイーブンレート)」が2014年9月以来の水準まで上昇しており(図表1)、利上げの継続を想定すれば、米国債市場でのイールドカーブのベアフラットニング(利回り曲線が平坦化しながら上昇する傾向)は想定された範囲内の動きと言えます。

 むしろ、米金利の上昇は、米国景気堅調を反映する事象です。日本企業の外需面で販売数量の増加が見込めることに加え、「日米金利差拡大」を反映しはじめた為替相場でドル高・円安が進んでいます。これらは、自動車、機械、電気機器などを中心にグローバル企業の業績見通しにプラス要因となりやすく、日経平均株価は戻りを試す展開となっています。

図表1:米国の長期金利と期待インフレ率の推移

注:長期金利=米10年国債利回り、期待インフレ率=米ブレークイーブンレート(10年物)
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年4月25日)

 

為替のドル高・円安は日経平均の下支え要因

 為替相場で潮目の変化が鮮明となっています。米長期金利が3%に達する動きをみせる一方、欧州経済の一部に景気減速感が出てきたことで、通貨ユーロや英ポンドが米ドルに対し軟化。

 米国とドイツの長期金利差は29年ぶり高水準に拡大し、相対的な利回り魅力も米ドルの堅調要因となっています。図表2で示すとおり、米ドルの他通貨に対する総合的な値動きを示す米ドル指数(DXY)が4カ月ぶり高値まで反転上昇した一方、米国のシリア空爆を無難に消化した後、5~6月に開催される米朝首脳会談に向け地政学リスクが後退したことで「リスクオフ(回避)の円買い」が一巡。為替がドル高・円安となっています。

 トランプ政権の財政出動で国債の供給増は警戒すべき要因ですが、現時点で「米国債売り・ドル売り」の動きにはなってはいません。日銀が量的緩和政策としてのYCC(イールドカーブコントロール)を維持し、国内長期金利がゼロ近辺に抑制されている現状で、為替市場が「日米金利差拡大」を素直に材料視しているとも言えます。

 また、17~18日の日米首脳会談でトランプ大統領が対日貿易赤字に関わる為替に言及せず、21日にはムニューシン米財務長官が「中国を訪問する可能性がある」と表明。貿易摩擦を巡る米中対立が緩和に向かうとの観測もドル円の押し上げ要因となりました。ドル円が「心理的な節目」とされる110円を突破し、年初の水準(112円台)に挑戦する動きとなれば、日経平均の戻りに追い風となりそうです。

図表2:為替に潮目の変化?米ドルの反転上昇と円の反転下

注:米ドル指数=DXY(The U.S. Dollar Index)<米ドルの他通貨に対する総合的な値動きを示す>
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年4月25日)

 

米インフレ期待と円安は日本企業の売上見通し改善に寄与

 注目したいのは、中長期でみると米国の期待インフレ率や長期金利と日経平均の相関性が比較的高かった事象です。もちろん、金利上昇ペースが急となる場面では、米国市場でリスクオフ(回避)が先行し、株安と円高が日本株を押し下げたことがありました。ただ、米国の景気拡大、インフレ期待上昇、日米金利差拡大、為替のドル高・円安は、日本企業の外需拡大に寄与していく可能性があります。

 図表3は、日経平均ベースのSPS(Sales Per Share=1株当り売上高の実績と市場予想平均)と日経平均の推移を示したものです。景気回復と「デフレ脱却」が進むなか、すでに売上高は2017年に前年比増収に転じ、過去最高水準を更新しました。今後、米景気堅調にインフレ期待の上昇とドル高・円安が重なれば、外需面の売上見通し上方修正に繋がりやすくなります。

 現時点で日経平均ベースの2018年予想SPSは2年連続の増収が見込まれており、過去最高水準をさらに更新する動きとみられます(市場予想平均)。いわゆる「トップライン」(損益計算書の最上段に示される)売上高の増加は、企業業績の持続的改善に寄与し、日本株の戻りを支える要因となりそうです。

図表3:日経平均と1株当り売上高の推移(実績と予想)

注:日経平均ベースの1株当り売上高=Bloomberg集計による。2018年は市場予想平均。
出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年4月25日)

 とは言っても、売上高の増加が利益の拡大に直結するとは限りません。エネルギーなど原材料コストは上昇傾向にあり、人手不足による人件費増加も損益に影響します。商品力やサービス面の競争力が優れ、生産性や利益率の改善でコストを吸収できる企業が「ボトムライン」(損益計算書の最下段に示される)と呼ばれる純利益を拡大させることができます。市場は今後、前期決算発表で明らかにされるガイダンス(業績見通し)を注視しつつ、増収増益の持続を期待できる企業(銘柄)を選別する動きを強めていくと考えられます。

 

 

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