トランプ大統領がアマゾン・ドット・コムを攻撃する理由は? 

 今週は米中貿易紛争の激化懸念に加え、ハイテク(IT)関連株を中心とするナスダック相場の下落が日米株式相場の重石となりました。フェイスブックの顧客情報漏洩事件、ウーバーの自動運転車事故、テスラの電気自動車リコール問題などで地合いが悪化していたところに、トランプ大統領がツイッターで「アマゾン叩き」を続けたことがナスダック相場を押し下げる要因となりました。大統領がアマゾンを攻撃し始めた理由は3つあるとされています。

(1)アマゾンCEOであるジェフ・ペゾス氏が社主(オーナー)を務めているワシントンポストが大統領選挙中からトランプ批判を繰り広げてきた(大統領はワシントンポスト紙を「フェイクメディア」(噓の報道機関)と反撃していました)

(2)大統領は米国屈指の不動産王で商業用不動産オーナーに支持者が多いとされる。アマゾンが事業を拡大するほど店舗型小売店が廃業を強いられ、商業用不動産のテナントが激減した(トイザラスの経営破綻が典型例)

(3)アマゾンが生み出す雇用よりアマゾンのシェア拡大で失われる雇用が多いことを問題視することで、中間選挙に向けた政治的宣伝に利用したい、などが挙げられています。また、オバマ政権と良好な関係にあったIT系大手企業やその経営者は人種差別に反対(移民受け入れに賛成)で大統領とそりが合わないと言われてきました。ただ、図表1が示すとおり、米ナスダック相場は中長期で日米の株式市場平均を圧倒してきました。今般の株価下落も、長期トレンドのなかでこれまで幾度も経験した短期的調整にみえます。

図表1:優勢を続ける米ナスダック相場に突然の乱気流

注:2008年初を100とした各種株価指数の推移を示したもの。 出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年4月4日時点)


ナスダックの利益拡大ペースは市場平均を上回る見込み

 トランプ大統領の「アマゾン叩き」で米ハイテク(IT)関連株などナスダック相場が終焉したと決めつけるのは時期尚早に思われます。図表1で示したナスダック関連の堅調は、ファンダメンタルズ(業績見通し)の長期的改善が追い風となっており、今後数年はその基調に大きな変化があるとは思われません。図表2は、2006年を起点としてS&P500指数(米国の大手企業平均)ベースのEPS(1株当り利益)とナスダック100指数ベースのEPSについて、2017年までは実績EPSを、2018年から2020年までは予想EPS(Bloomberg集計による市場予想平均)の推移を比較したものです。

 ナスダック大手企業の利益成長ペースがS&P500指数ベースの利益成長ペースより優勢であり、特に2017年から成長ペースが加速している事象がわかります。2018年も、ビッグデータ、AI、IoT、クラウド、ロボティクスなど「第4次産業革命」の浸透で広がる需要が、米国ハイテク関連企業の業績を拡大させていくと考えられています。2月以降の米国株の波乱で下落したナスダック総合指数やナスダック100指数は、その後いったん買い戻され、3月12日に史上最高値を奪回した経緯があります。世界株式が調整を続けたなか、相対的に堅調だったナスダック銘柄に利益確保のための売りが出やすかったとも言われています。

 なお、S&P500指数の時価総額全体におけるハイテク(IT=情報技術)株のウエイト(比率)は直近時点で25%に達するまでにプレゼンス(占有率)を高めてきました。IT関連株を中心とするナスダック大手銘柄の株価不調やその回復は、米国株式全体に影響を与えます。4月下旬からの決算発表で、ハイテク関連株のファンダメンタルズ堅調を確認できるか否かが相場復活を左右すると思われます。

 

図表2:米ナスダック100指数とS&P500指数の業績動向

注:2006年から2017年までは各株価指数ベースの実績EPSを、2018年から2020年までは予想EPSを表示したものです。 出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成

ナスダック関連やハイテク関連の株価に値ごろ感

 既述のとおり、ハイテク(IT)大手を巡る悪材料が続いた結果、ナスダック関連の株価は大幅に下落しました。その結果、ハイテク関連株はバリュエーション面で「値ごろ感」や「割安感」を鮮明にしています。図表3は、米国のハイテク(IT)関連株指数とされる、フィラデルフィア半導体株指数、S&P500情報技術(IT)株指数、ナスダック100指数、ナスダック総合指数それぞれについて、リスク・リターン特性と予想PER(株価収益率)を日米株式の市場平均と比較した一覧です。過去3年のトータルリターン(配当込み総収益の年率平均)をリスク(1年株価変動率)で割り込んだ「R/Rレシオ」(=リターン÷リスク)でみると、ハイテク関連株指数の投資効率(リスク単位当りリターン)が日本株(TOPIX)を圧倒してきたことがわかります。また、今般の株価下落で、フィラデルフィア半導体株指数のPERは2018年予想で14.8倍、19年予想で13.7倍まで低下しました。

 S&P500情報技術(IT)株指数のPERも2018年予想で18.0倍、19年予想で16.2倍まで低下しました。一時警戒された「高値警戒感」や「割高感」が後退したことで、買い戻されやすい株価水準になっています。

図表3:株価指数別のR/Rレシオと予想PER(株価収益率)

出所: Bloombergのデータより楽天証券経済研究所作成(2018年4月4日)

 こうしたハイテク(IT)関連株は、「ベータ値」が高い特徴があります。すなわち、市場平均(例:S&P500総合指数)と比較して変動率が上下に高く、市場平均が上昇する場面では上昇ペースが強く、市場平均が下落する場面では下落ペースも強くなる傾向がありました。
なお、1950年以降の市場実績を振り返ると、4月の米ダウ平均の平均上昇率は+1.9%で
1年において最も株価が上昇した月でした。また、2006年から2017年までは12年連続でダウ平均は4月に上昇しました(平均上昇率は+2.5%/出所:Stock Trader’s Almanac 2018)。目先の株式市場は「政治リスク」が引き続き上値を抑える可能性もありますが、ファンダメンタルズ面とバリュエーション面で支えがあるハイテク(IT)関連株価の押し目は、長期投資の視野で「投資機会」となる可能性が高いと考えています。

 

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