The DAOの失敗

 イーサリアムを語る時、最初のDAO(スマート・コントラクト化された組織)の例として華々しくデビューしたThe DAOが、とんでもない失敗をしてしまったエピソードに言及しないわけにはゆきません。

 The DAOは、単純化した言い方をすれば「イーサリアムのベンチャー・キャピタル・ファンド」のようなものを目指していました。1万人を超える投資家から26日間で1.62億ドルの資金を調達したのですが、The DAOのコードにバグがあり、何者かが5千万ドルを盗み出してしまったのです。

 そもそもスマート・コントラクトの価値提案は、取引のルールをコーディングにより決めることにあるわけですから「コードこそが掟」になるわけです。するとそのコードを書き間違えて、その結果として5千万ドルが盗み出されても、それは間違ったコードを書いたほうが悪いことになります。

 イーサリアムのコミュニティーはこの事件に対して「ニュー・イーサリアム」を作りThe DAOを解散することで失われた5千万ドルを無効化しました。このように新しいバージョンの通貨を無理矢理出してしまう方法をハード・フォーク(hard forking)と言います。

 こうやってできた「ニュー・イーサリアム」は現在、イーサリアムの名称を継承しています。そしてオリジナルのイーサリアムは「イーサリアム・クラッシック」という名称で現在もトレードされています。

 本来、ブロックチェーン技術の美点は、後から改変できない(=そのことをimmutableといいます)点にあるのですが、イーサリアムの場合、ハード・フォークによりThe DAOの問題を強引に解決してしまったので、みずから「禁じ手」を使ってしまったわけです。