【今日のまとめ】

1. サウジアラビアで汚職撲滅運動開始
2. 原油価格下落により変革必須
3. 宗教治外法権的な経済特区設置
4. コンセンサス志向の終えんと若者の改革

 

サウジアラビアで汚職撲滅運動

 サウジアラビアで汚職撲滅の名目の下に王族、閣僚、起業家たちが相次いで逮捕されました。その中には国家警備隊担当相ムトイブ王子、ファキーフ経済企画相、著名投資家アルワリード・ビン・タラル王子も含まれています。

 今回の汚職摘発はムハンマド・ビン・サルマン皇太子により指揮されています。

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、かねてから政府の透明性の向上や腐敗撲滅を公約していました。したがって、今回の関係者拘束は、その流れに沿ったものと言えます。

 それに加えて、近くサルマン国王が生前退位を発表すると予想されています。その場合、サルマン国王の息子で32歳のムハンマド・ビン・サルマンが国王の座に就くわけですが、その前に反対派を一掃し、リスクを排除しておこうとしているとも解釈できます。

 サウジアラビアの国民は、今回の粛清を支持しているようです。

 

サウジアラビアは改革が必要!

 サウジアラビアはなぜこのような改革をしているのでしょうか。
 それは国庫の収入の大半を原油に頼っているためです。

注:GDP(国内総生産)、IMF(国際通貨基金)

 原油価格は2014年夏にはWTI原油で108ドル近くしていたのですが、米国のシェールの増産により値崩れが起こり、2016年春には30ドル割れの水準まで落ち込みました。

 その影響でサウジアラビア政府の収入も上のチャートのように激減し、サウジアラビアの財政収支も大幅に悪化しました。

 これを受けてサウジアラビア政府は政府予算の引き締め策を取りましたが、それは経済成長を押し下げています。

 サウジアラビアは対外純資産を食いつぶすことで急場しのぎをしており、不健全な構図になっています。

 

「ビジョン2030」と経済特区「NEOM」

 危機感を持った、ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は2016年4月に「ビジョン2030」と題された、根本的な経済改革プランを打ち出しました。

 それは「サウジ・アラムコ」をニューヨーク証券取引所にIPO(新規株式公開)し、それによって得られた資金でサウジアラビア経済をこれまでの石油一辺倒から、より多角化することです。

 またサウジアラビアの西端で、紅海を挟みエジプトを望む過疎地域に5千億ドルをかけて「NEOM(ネオム)」という新都市を建設することが発表されています。

なぜ新都市建設が必要なのでしょうか?

 サウジアラビアは「ワッハービズム」と呼ばれるイスラム原理主義の国で、いろいろな戒律が厳しいです。その関係もあってサウジアラビア社会は後進性をはらんでいます。いくら経済だけが速く変化して行こうと思っても、社会がそれを受け容れないリスクがあるのです。

 そこでちょうど中国が計画経済から市場経済へ移行する際、経済特区を設けて試験的にそれを導入したように、サウジアラビアは宗教の面で「治外法権」的な経済特区を設けることで、既存の社会規範との軋轢を最小限に止めながら、急ピッチで新経済を構築する手法を打ち出したのです。

 これにより(1)制約の多い雇用慣習、(2)労働者の教育水準のミスマッチ、(3)政府機関の非効率など、サウジアラビア経済の足を引っ張る要因となってきた問題を克服する考えです。

世代間の軋れき

 現在、サウジアラビアで起きていることは、世代間の対立ととらえることもできます。

 これまでは長老たちのコンセンサスによって主導されてきました。
サウジアラビアは人口動態的に若者がたいへん多く、彼らはコンセンサスを重視する、いままでのやり方は通用しないと考えはじめています。

 サウジアラビアはもともと広大な土地に遊牧民が住んでいた関係で、人口の増加は自然環境や放牧の経済的制約によって抑えられていました。

 サウジアラビアを建国したアブドラアジズ国王は、20世紀に入り中東の石油開発が注目され始めていたことを利用し、アメリカのスタンダード石油を1933年に開発パートナーに招き入れ、原油収入に頼る国家運営の方向を打ち出します。

 アブドラアジズ国王には4人の正妻が居た関係で、36人の息子が居ます。だから王位や政府の要職を巡って、王子たちは競争を繰り返してきました。大体、それは母方の血筋による連携のかたちを取ることが多かったですが、いろいろな派閥ができることは容易に想像して頂けると思います。

 政府機関の要職にメンバーの一人が就くと、その派閥の王家内での影響力が増すというわけです。

 これまではいろいろな派閥に要職を分散し、力の均衡を形成することで、コンセンサスに基づく政治を行ってきました。しかしアブドラアジズ国王の息子たちは皆、80歳を超える高齢となっており、そうやって丁寧に作られたコンセンサス志向型のシステムは崩れつつあります。

 しかもそのコンセンサス志向型システムは原油収入に依存してきたので、「ばらまき」ができなくなった今、新しい指導体制を必要としているのです。

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子による今回の改革は、したがって「サウド家のリストラ」と言う風にも捉えることができるのです。

 ムハンマド・ビン・サルマン皇太子は、「親の世代が享受したような、原油収入の特権にあやかることは、もうできない」ということを痛感しているサウジアラビアの若者から熱烈に支持されています。