震災後に軒並み低下した電力株のPER
株価の割安・割高をはかる指標の1つとして有名なものに「PER」(株価収益率)があります。
PERは、「株価÷1株当たり予想当期純利益」にて計算されます。PERの適正水準は15倍~20倍といわれ、PERが低ければ低いほど割安、逆に高ければ高いほど割高であるとされます。
PERはPBR(株価純資産倍率)や配当利回りとともに、多くの投資家が参考にする株価指標です。
ところで、大震災による原発事故を発端として、当事者である東京電力のみならず、電力会社各社の株価は軒並み大きく下落しています。この株価下落により、電力株のPERも低下しました。
電力各社の震災前(3月10日)と現時点(4月21日)の株価およびPERをみてみると、以下のようになります(PER計算上の1株当たり予想当期純利益は会社四季報2011年春号の東洋経済予想数値を使用)。
3/10 株価 | 3/10 PER | 4/21 株価 | 4/15 PER | |
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東京電力(9501) | 2,153円 | 30.8倍 | 423円 | 6.1倍 |
中部電力(9502) | 2,160円 | 22.0倍 | 1,767円 | 18.0倍 |
関西電力(9503) | 2,146円 | 15.3倍 | 1,699円 | 12.1倍 |
では、現状の電力各社のPERの低下をみて、電力株は「割安になった」と考えてよいのでしょうか。
PERの数値だけを盲目的にみれば「割安」だが…
確かに、PERという数値だけをみれば「割安になった」ということになりますが、東京電力であれば今後の巨額の損害賠償費用は計り知れないものがありますし、破たん懸念や国有化懸念まで囁かれています。原子力発電に代えて当面の間火力発電を増やすことによるコスト増加や、原発への追加的な安全管理コストなどは東京電力のみならず、電力各社に共通して懸念されている点です。
震災後電力各社の株価が大きく下がったのは、こうした将来のコスト増加による業績悪化懸念によるものが大きい(東京電力の場合は信用リスクの増大も大きく影響)と考えられます。
一方で、電力各社は震災前の3月10日から現時点(4月21日)まで、業績予想の修正発表を行っておりません。
PERの計算式のうち分子の株価は将来の業績悪化懸念を日々織り込んでいくのに対して、分母の1株当たり予想当期純利益は業績予想の修正発表がなされない限り、将来の業績悪化懸念は織り込まれていないままです。
つまり、分子の株価はタイムリーな情報なのに、分母の1株当たり予想当期純利益は古い情報なのです。分子と分母で情報の鮮度が異なっている、これがPERの大きな弱点といえます。
PERの数値のみを鵜呑みにするのは危険
これは何も今回の電力株をめぐる出来事が特別だったからではありません。このPERのもつ弱点は、すべての銘柄において常に当てはまるものです。
現状の電力各社をめぐる不透明な状勢からは、「たとえPERが低くとも、電力株は割安とは言い難い」と多くの方が思っているのではないでしょうか。実は、その考え方こそが重要です。PERの数値だけで、単に「割安」と判断することは非常に危険なことなのです。
分子の株価だけが実態を反映している状態で計算されたPERは、あくまで名目上のものにすぎず、実態とはかけ離れている可能性が高いといえます。
したがって、分母の1株当たり予想当期純利益を実態に合わせて自分自身で修正して実質的なPERを求め、それを投資尺度として用いることが望まれます。
個人投資家はPERの弱点を補うために株価チャートの活用を
しかしながら、今回の電力株のケースのみならず、タイムリーな企業実態を反映した利益予測を正確に行うのは個人投資家の情報量では非常に困難です。
そこで活用したいのが株価チャートです。株価チャートは、すべての市場参加者の行動の縮図です。情報量の多いプロがどのような投資行動をしているのかを株価チャートから推測し、参考にさせてもらうのです。
端的にいえば、例えPERが低く割安に思えたとしても、株価が下降トレンドにあるならば、株価が下がっているという事実を重視し、安易な買いは避けるべきです。株価の動きが将来の業績悪化を先取りしている可能性が高いからです。
逆に、PERでみると決して割安にはみえなくとも、株価が上昇トレンドにあれば、株価の動きが将来の業績向上を先取りしている可能性があるため、買いのチャンスとなりえます。
この考え方で電力株の株価チャート(日足)をみてみますと、4月21日現在では各社とも株価が25日移動平均線の下にあり、25日移動平均線自体も下向きで、典型的な下降トレンドにあります。例えPERが低くとも、将来の業績悪化懸念および株価が下降トレンドにあるという事実からは、少なくとも現時点では積極的に買いにいく局面ではなさそうだと判断することができます(トレンドの見極め方については以前に紹介したコラムをご参照ください)。