石破首相 衆院解散、総選挙へ

 10月1日、第102代内閣総理大臣に石破茂氏が選出されました。株式市場、為替市場はなかなか忙しい展開となっています。市場は石破首相の一挙手一投足に翻弄(ほんろう)されており、方向感をつかみ損ねている状況です。

 簡単に表現しますと、自民党総裁選期間中に発していた「金融所得課税」に関する話を総理大臣就任後、一切発しなくなったことなどから、市場は「安堵(あんど)感」と同時に「失望感」も感じたのではないかと考えます。

 当初、非主流派の石破氏が自民党総裁となり内閣総理大臣に就任したことで、曖昧だった自民党の「政治と金」問題に切り込んでくれるとの期待感は非常に高かったと感じます。まさに刷新に近いインパクトが、9月末にはあったように思えます。

 ただ、ふたを開けてみると、岸田政権の流れを引き継ぐ姿勢を示し、防衛庁以外、目新しさが少ない経済政策に対して安堵感と失望感が入り乱れた感はあります。こうした見方が、2021年の第1次岸田内閣より低い支持率となったのではないでしょうか?

 さて、石破首相は9日に衆議院を解散しました。15日に衆議院選挙を公示、27日に投開票の日程です。

 石破首相は就任早々、さまざまな記録を塗り替えそうです。まずは、首相就任から解散までの戦後最短記録です。1日に首班指名を受けて8日後の解散となったので、これまでの最短記録である2021年の第1次岸田内閣の10日後を更新したことになります。

 そしてもう一つ、衆議院選挙後の特別国会の召集のタイミング次第ではありますが、第1次岸田内閣が記録した憲政史上最短命の38日間も更新しそうです。

「だから、なんだ?」と思われる方もいらっしゃるでしょうが、政権発足直後で支持率が高い今、衆議院を解散して「民意を問う」という選挙の王道を非主流派の石破首相がとったことに対する世論の戸惑いは大きいと思います。

「選挙は買い」選挙と株の密接な関係

 この手法が吉と出るか、凶と出るかは27日に判明しますが、市場関係者の多くは第1次石破内閣をいぶかし気に見ながらも、選挙期間中の株式市場の動向は楽観的に見ています。「選挙は買い」というアノマリーがあるからです。「選挙と株」は密接な関係がありますので、過去これまでの衆議院選挙の事例をご紹介します。

 日経平均株価のデータがさかのぼれる範囲で衆議院解散に関連した衆議院選挙の回数をカウントすると、1952年以降22回あります。1976年は戦後唯一の任期満了に伴う衆議院選挙なのでカウントしていません。

 22回中、解散日から投開票日前(一部投開票日を含む)の日経平均の終値ベースでのパフォーマンスで勝ち負けをつけると17勝5敗です。プロ野球の投手部門では、沢村賞もしくはサイ・ヤング賞候補にノミネートされる立派な数字です。

 騰落率は+2.20%ですので、現在の日経平均に合わせると700~800円ほどの上昇となります。2000年以降の8回に限っては7勝1敗で騰落率は+3.9%と、まさに「選挙は買い」にふさわしいパフォーマンスと言えます。

 一方、投開票日前(一部投開票日を含む)から1カ月間のパフォーマンスはどうでしょう。騰落率こそ+1.20%ですが、10勝12敗という内容です。うーん、負け越している状況で弱い印象がありますね。

 こうしたデータから導き出される結論としては、「選挙期間中の日経平均は買いだが、選挙後はまちまち」といった内容となります。あくまでも過去のデータですので、今回に当てはまるかどうかは不明です。「政治と金」が争点となりそうな今回の衆議院選挙ですので、想定できない不透明要因が潜んでいるかもしれません。

衆院解散、選挙関連銘柄5選

 ここまでは日経平均の動向をお話してきましたが、選挙期間中は個別銘柄にも注目です。当然ながら石破首相が掲げる方針に沿った「防衛関連」や「地方創生関連」も注目ですが、「選挙関連銘柄」といわれる銘柄をご紹介します。

 選挙で特需が発生し業績に計上する銘柄もありますが、投票用の機器や選挙用の封筒、世論調査など「選挙」に絡んだ事業を行っている銘柄ばかりなので思惑が向かいやすい傾向があります。株価というものは、企業業績だけではなく、投資家心理で大きく上下しますので、過去のこうした動きはあながち無視できないものです。

 今回はこうした選挙関連銘柄を五つご紹介します。いずれも過去、選挙前後に関心が高まったことがある銘柄ですので要注目です。なお、あくまでも選挙に絡んだ思惑先行なので株価の値動きは早いケースが多いため深追いは禁物です。テーマ性を考慮した短期投資であることを頭の片隅に残しておいてください。

銘柄名 証券コード 株価(円)
(10月9日終値)
保有IP
パソナグループ 2168 2,110 期日前投票など調査関連の人材需要が発生
イムラ 3955 1,096 選挙用封筒の需要増加の可能性も
グローリー 6457 2,576.5 投票用紙分類機や交付機の製造を展開
ムサシ 7521 1,765 同社製の投票用紙や投票箱が多い
福井コンピュータHD 9790 2,730 選挙出口調査システムを展開しており売上急増期待高い

※HDはホールディングスの略

パソナグループ<2168>

 人材派遣大手で、期日前投票の出口調査や選挙の開票速報の報告業務など選挙に関連した人材需要が発生するとの期待感が毎回高まる傾向があります。同社は、2020年に本社機能の一部を淡路島に移転する早い段階から地方を意識した事業を展開していました。地方創生テレワーク事業なども展開していることから、「地方創生関連銘柄」の一角としても注目です。

イムラ<3955>

 封筒事業では国内トップクラスで国内シェア2割を占めています。選挙時には入場整理券送付用の封筒に関連した需要が見込まれており、選挙関連銘柄の一角として有名です。統一地方選や東京都知事選など大規模な選挙の時には需要が増えますので、思惑だけではなく業績への寄与も期待できる銘柄と言えます。

グローリー<6457>

 投票用紙分類機や投票用紙交付機などの選挙関連機器の製造・販売を展開しています。選挙前なので特需が発生する可能性は低いと思いますが、選挙関連銘柄としては非常に有名です。券売機や貨幣処理機が主力事業のため、市場では「新紙幣関連銘柄」や「カジノ関連銘柄」の一角とも見られています。

ムサシ<7521>

 投票用紙交付機を展開しているほか、投票箱や投票箱の中で自然に開く投票用紙も展開しており、選挙との関係は非常に強い銘柄です。投票用紙に記載する際に使用する銀色の台や、外にある投票用看板など、選挙の投開票会場で目にするものの多くが同社製です。選挙関連銘柄としての知名度は高く、大規模な選挙が実施されるたびに取り上げられる銘柄の一つです。

福井コンピュータHD<9790>

 各投票所で自動集計する選挙出口調査システムを展開しています。

 業績に対する影響は大きく、2021年の衆議院選挙の時には、出口調査システムに関連する売上が急増したことから、2022年3月期ITソリューション事業の売上高は前年同期比で4.4倍に急増し、営業損益は6,800万円の赤字から2億6,800万円の黒字となるなど大きく貢献した背景があります。今回も特需発生が期待されるところです。